「委員は恋に飢えている!」第11会



第11会「期末テストと委員会」


「それでは、始め!」
先生の合図とともに、期末テストが開始した。
周りから一斉にペンの音が聞こえてくる。もちろん俺も順調に解き進めていた。

テストは国語からスタートし、理科は最後だった。
最後の教科は、疲れもあり集中力が持たないことが多い。
俺は気を引き締め、理科のテストに臨んだ。

世理先輩から教えてもらった問題も出題され、俺は苦手科目とは思えないほどペンが動く。
(ありがとうございます、世理先輩)
心の中で世理先輩に感謝しながら解き進めた。
 
「やめ!」
先生からの合図でみんな一斉にペンを置いた。
解答用紙が回収され、期末テストが終了した。
教室ではみんな解けた問題や解けなかった問題、答えが何になったのかなどの話題で盛り上がっている。

「月、お疲れ」
「土門。お疲れ様」
「ああー、やっと終わったなー。もう問題用紙なんて見たくないぜ俺は」
「そうだな」

「理科は?どうだったんだよ」
「最後だけ解けなかったけど、他は自信あるよ」
「最後の問題、先生解かせる気なかったよなー。俺もあれはパスした」
「だよな!良かった、俺だけできなかったわけじゃないのか」
「あれ正解する人は多分変態か天才かだぜきっと」

(世理先輩ならきっと…)
そう思いながら俺たちはお互いに労い合った。



 期末テスト日の放課後、今日はどの委員会や部活も休みとなっている。
俺も帰ろうかと思ったが、もしかしたらいるのではという気持ちになり飼育小屋の方に向かってみた。
するとそこにはやはり二人がいて、動物と植物の世話をしている。

「お疲れ様です。世理先輩、結川先輩」
「なんだ、お前か」
「お疲れ様、月くん」
「テストはどうだったんだよ」

「世理先輩のおかげですらすら解けました!本当に自分の手じゃないみたいにペンが動いて…。最後の問題だけはちょっと解けなかったんですけど、それ以外は自信あります」
俺は自分でも気づくくらい興奮気味に話していた。

「はあー?最後の問題が解けなかったって?お前、世理先輩に教えてもらってそんなの許されるわけねーだろ!」
「ま、まあまあ藍ちゃん、落ち着いて…」
結川先輩は相変わらず厳しい。

「そこまで解けたなら良かった。私も力になれたんだね」
「もちろんです!世理先輩のおかげなんですから。『ネコヤナギ』のパワーもありましたしね」
そう言って俺は世理先輩からもらったネコヤナギを出して見せた。

「そ、それは…。うぅ…」
世理先輩はまたもや髪を顔の前に持ってきて隠している。
「おい。なんだそれは。お前、そのネコヤナギどうしたんだ。まさか世理先輩からもらったんじゃ…」
結川先輩は少し震えている様子で俺に尋ねてきた。ここで嘘をついてもどうしようもない。

「そうです。世理先輩が頑張れってことでテスト前にくれたんです」
「お前…」
結川先輩はゆっくりこちらに近づいてきた。

「ずるい!ずるいぞ!先輩から、しかも花をもらうなんて…。許さない。私にその花よこせー!」
「ちょっと、やめてくださいよ!」
こうして俺と結川先輩がじゃれてるのを見て、世理先輩は笑っていた。
風で髪がなびき、一瞬だけ見えた横顔はとても可愛かった。
 

「んで、最後の問題はどんなのだったんだよ」
俺に突っかかっていた結川先輩は世理先輩になだめられ、落ち着きを取り戻していた。

「この問題です」
俺は二人に問題用紙を渡して最後の問題を見せた。
「これは…」
「…」
世理先輩は紙に何かメモを書いていた。そのまま二人は問題を凝視して動かない。

「あの…」
俺が尋ねると、世理先輩は顔を上げた。
「難しいね」
「世理先輩でもですか?」
「わ、私だって難しいのは難しいよ…」
「そうですよね、すみません」
結川先輩は問題を見続け何かメモをしている。

「あとちょっとなのに、わからねぇ」
「藍ちゃん、どこまでできたの?」
「ここまでは解けたんですけど、ここからがちょっと…」
俺は二人の手元を見てみた。結川先輩は紙にたくさん書き込んで世理先輩にわからないところを聞いている。世理先輩の手元は一つだけの式が書かれていた。

「さすが藍ちゃん、ここまでできたんだね」
世理先輩は結川先輩に優しい声をかけていた。
「ここからは…」
そのまま世理先輩は結川先輩の式を変形しながら説明している。俺が横で聞いていてもすんなり頭に入ってきた。

「それでこうなると思うの」
説明が終わり、結川先輩の紙には一つにまとめられた式が書かれていた。それは世理先輩の紙に書かれていた一本の式と同じだった。

「なるほど、さすが先輩です!その変換が必要だったんですね!」
「藍ちゃんもそこまでいけたのはさすがだよ」
「えーと、世理先輩?難しかったんじゃ…」
「?難しかったよ?でも解けなくもないよ」
世理先輩はきょとんとした顔をしている。この人は本当に天才らしい。

難しいと言っておきながら紙にも答えだけを書いているし、解くのにもさほど時間はかかっていない。
「やっぱり世理先輩はすごいです」
「そ、そんなこと…」
世理先輩は顔を隠す。

「とにかく、テストもひと段落着きましたし、残りの委員会の仕事、全力で取り組むので引き続きよろしくお願いします!」
俺は改めて二人に挨拶をした。
「おう」
「よ、よろしくね」
こうして期末テストは結果と順位を待つだけとなった。



 期末テストから二日後、テストが返却され順位が発表された。
順位は掲示板にも貼りだされている。
「五位か…」

俺の順位は五位だった。一位を目指すと言っておきながらこの順位は悔しいが、悪くはないだろう。

各教科の点数は
国語:97点、数学:92点、英語:94点、社会:91点、理科:96点、合計470点
だった。

もともと得意科目の国語はいいとして、苦手科目の理科でこの点数は世理先輩との勉強会のおかげだろう。
最後の問題を除いてすべて正解だった。

(世理先輩のおかげだな)
そう思いながら俺は掲示板まで行き、他の人の順位を見ることにした。
 
 
「あ、月くーん!」
「火恋さん、金美さん」
掲示板の前で俺に声をかけてくれたのは火恋さんと金美さんだった。
相変わらず火恋さんは金美さんの頬を触っている。

「月くん、すごいね!五位じゃん!」
「いや、俺的にはなんとも言えないって感じなんだけどね」
「そうかなー?十分すごいと思うけどなー。ね、金美ちゃん!」
「うん、すごいよぉ」
そう言いながら金美さんはゲームをしている。

「火恋さんと金美さんは?」
聞こうか迷ったが、話題として振ってみた。
「私は43位。ギリギリ上位三割だったよー」
「私はぁ、ええとぉ、何位?」
「もう!金美ちゃん!言っていいの?」
「うん」

「金美ちゃんは87位。でも金美ちゃんのクラスの子に聞いたらテストの時間寝てたって言ってたんだよねー。それほんと?」
「うん、前日遅くまでゲームしちゃってさぁ、眠くて寝ちゃったぁ」
「もう、何やってるの!」
金美さんは火恋さんに怒られている。おそらく右から左に通り抜けているだろう。

「そうなんだ…。一位は誰なんだろう」
俺は二人と一緒に掲示板に目をやった。
一位の下には「日早片日奈 497点」の文字が書かれていた。
「まじかよ…」
俺は驚きのあまり声に出してしまった。

「日早片さん、すごいよねー」
「だってぇ100点が少なくとも三つあるってことでしょぉ?」
「今回のテスト、難しかったよね?」
二人はそんな会話をしている。

「よっ、月。それに火恋ちゃんと金美ちゃんも」
「土門か」
俺たちは土門に挨拶を返す。

「土門くんもすごいね!三位なんて!」
「はぁ!?」
俺は一位の場所だけに注目していてほかの場所を見ていなかった。
慌てて三位の場所に目を向けると、「三位 土内土門 483点」の文字があった。

「お前、え、嘘だろ?」
「何が嘘なんだよ、ほんとだよ」
そう言って土門は点数が書かれた紙を俺に見せてくれた。

「お前、そんなに頭良かったのか」
「頭がいいというか、まあ勉強したからな」
土門は美化委員に所属していて、さらにサッカー部にも入っている。
そんな中でこの順位と点数なのだ。
俺は実はこいつが一番すごいのではと思ったが、その思いを口にする前に日早片さんが横を通った。

「あ…」
「…」
俺に声に気づいたのか、日早片さんは立ち止まってこちらを向いている。
そのまま少しの沈黙の後、日早片さんの口がゆっくりと開いた。

「私の勝ち」
「わかってるよ!」
日早片さんは勝ち誇った顔でいなくなっていった。
ものすごく悔しい。あの勝ち誇った顔が可愛いのも悔しい。

「なんだ、月。日早片さんと勝負してたのか?」
「まあ、何かを賭けたりとかはしてないけど、勝負みたいなのはしてたかな。お互い一位を目指してたって感じ」
「俺にも負けてるけどな」
「うるせえ!」
俺は土門の横腹を軽く突いた。

「でも、日早片さんもあんな顔するんだねー」
「え?」
「なんかすごい嬉しそうだったよねー」
「そうだねぇ」
火恋さんと金美さんは顔を見合わせながら話していた。

「そ、そう?」
「うん」
「ま、テストもひと段落したし、後は夏休みまでちょっと頑張るだけだな」
土門がそう言うと、みんな各々夏休みにしたいことの話をして少し盛り上がった。

その後、それぞれの教室に戻り、帰りのホームルームをして放課後となった。



「おい、お前。結果はどうだったんだよ」
委員会に行くと早速結川先輩に詰められた。隣で世理先輩もそわそわしながらこちらを見ている。

「ええと…」
俺は順位と点数を二人に教えた。
「かー、一位じゃねーのかよ!世理先輩に教えてもらっておいてよ!」
「す、すみません」

「まあまあ藍ちゃん。月くんも、お疲れさまだよ。理科、最後の問題以外全部合ってるの、やったね!」
「はい。本当に、理科は世理先輩のおかげです。ありがとうございました」
「お前、次は一位とれよ」
「がんばります」

そんな会話をしながら俺たちは委員会の仕事に向かい、しっかり取り組んだ。
その時に聞いた話だが、世理先輩は三年生の中で二位だったらしい。一位はもちろん入神会長だ。

結川先輩は文系クラスで一位だったらしい。
この二人は本当にすごい人たちだというのを改めて認識した。
 

「月くん」
「はい?」
「これ、先に渡しておくね」
そう言って世理先輩はサインを俺に渡してくれた。

「あと何日かあるけど、月くんはしっかりしてるし仕事も真面目にやってくれたから。動物も花たちも喜んでたよ」
「ありがとうございます、世理先輩。世理先輩には委員会のことだけじゃなくて勉強の方でも…。何かあったらすぐ呼んでください!俺、すぐに駆け付けますから!」

世理先輩は顔を隠しながら照れていた。この光景も見慣れたものだ。
「月くんこそ、いつでも遊びに来てね。私も藍ちゃんも、動物たちも花たちも待ってるから」
「私は待ってない」
「藍ちゃん!」
「すみません、世理先輩」

こんなやり取りをするのもとても楽しくて、三週間だけなのがもったいないなと感じてしまった。
なんだかんだで俺は無事四つの委員会の委員長からサインをもらうことができた。

あとは夏休み明け、文化祭をはさんでの生徒会選挙に臨むだけだ。
俺の生徒会長への道はあと少しだ。絶対、副会長になって、来年に生徒会長になる!


第一話〜はこちらから

第一話からをマガジンにまとめました。
ぜひ読んでいただけたら嬉しいです。


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