「委員は恋に飢えている!」第18会



第18会「まさかの関係(夏休み②)」


ホールでしばらく対応をしてお客さんが少なくなった時、見覚えのある顔の人が入ってきた。
「いらっしゃいませー!って、世理先輩、結川先輩」

「つ、月くん!?」
「なんだ、お前ここでバイトしてるのか」
「そうなんですよ。お二人こそどうして?」

「さっきまで学校で動物と花の世話をしててな。その帰りにどこかによろうってことになったんだよ」
「そうだったんですね。お疲れ様です」
「月くんがいるなんて知らなかったな」
「最近働き始めたんです。じゃあこちらへ」
俺は二人を席まで案内した。

「注文が決まったらボタンで呼んでください」
「ありがとう」
俺は二人に説明をした後、キッチンに戻った。

「案外忙しかったのね」
「そうですね。でも、もう空きましたよ」
「お疲れ様」
先週とは打って変わって優しい感じがする。
その時呼びベルが鳴った。番号はさっきの二人の席だ。

「私が行くわ。疲れたでしょう。少し休憩しなさい」
「ありがとうございます」
正直、疲れていたので英田先輩の気遣いがとても助かった。
英田先輩はホールに向かって二人の注文を聞きに行った。

(そういえば、結川先輩と英田先輩って同じ学年だけど仲はいいんだろうか)
そう思った時もう一度呼びベルが鳴った。番号はさっきと同じだった。
(英田先輩が行ったんじゃないのか?)
不思議に思ったが、俺も一応行ってみることにした。

ホールに行き、二人の席に向かうとそこには英田先輩の姿があった。
「あ、つ、月くん!ちょっと…」
そう言って手招きをしていたのは世理先輩だった。

「どうしたんですか?」
「こ、この二人を何とかしてほしくて…」
「なんでお前がここにいるんだよ!」
「バイトしているからに決まっているでしょう。そんなことも分からないなんて、あなたバカなんじゃない?」

「はぁ?誰がバカだって?あいにく、期末テストでは一番なんでね。お前こそバカの定義まちがってんじゃねーの?お前の方がバカじゃん」
「あら、あなたでバカじゃないなら私もバカじゃないわね。特進クラスで一番だし、文系クラスの一番さんよりははるかに上だと思うのだけれど」

「ふん!何が特進だ!バーカ!あほ!」
「はぁ、悪口のボキャブラリーも少ないのね。本当に一番だったのかしら。きっとあなたの周りの生徒は今回手を抜いたか調子が悪かったのね。かわいそうに」
俺の目の前で結川先輩と英田先輩がまるで小さい子供がするようなけんかしていた。

「ちょっと、二人とも、何やってるんですか」
「こいつが先に吹っ掛けてきたんだ!」
「あなたがかみついてきたんでしょう?」

「も、もう。二人とも!そこまでにして!」
「すみません、世理先輩」
「お恥ずかしいところをお見せしてしまい申し訳ありませんでした」
結局、俺が止めに入るよりも先輩である世理先輩が注意をすることでその場は収まった。

世理先輩は少し大きい声を出したのが恥ずかしかったのか顔を髪で隠している。
「それで、ご注文はどうします?」
「と、とりあえずドリンクバーとこのポテトを頼もうかな」
「わかりました。ドリンクバーは自由にどうぞ。英田先輩。行きますよ」
俺は英田先輩を連れてキッチンに戻った。



「まさか藍がいると思わなかったわ」
そう言いいながら英田先輩は注文を受けたポテトを揚げ始めた。
「英田先輩が注文受けに行ったのにもう一回ベルが鳴ったから何が起こったのかと思いましたよ」

「あなたにも変なところを見せてしまったわね。ごめんなさい」
「いえ、俺は大丈夫なんですけど。お二人の関係って…?」
「私と彼女、藍は腐れ縁みたいなものよ。小さい時からいろいろ競い合っていたわ。まあほとんど私が勝っていたけどね。さっきのけんかみたいに」

(あれは勝ったといえるのだろうか…)
そう疑問に思いながらも俺は出来上がったポテトを二人のもとへ届けに向かった。


「お待たせしました。ポテトの盛りあ…」
俺の目に映ったのは少ししょぼくれた結川先輩と知らん顔をしている世理先輩の姿だった。
どうやら少し世理先輩に怒られたらしい。

「あ、ありがとう、月くん。さっきはごめんね」
「いえ、お二人は腐れ縁だそうですね」
「あ、ああ。そうなんだ。昔からいろんなことを競い合ってたな。まあほとんど私が勝っていたんだが」
英田先輩と同じことを言っている。

「もう、藍ちゃん!せっかくのお友達なんだからもっと仲良くしないとだめでしょ?」
「英凛のやつはそういうんじゃないんですよ」
「藍ちゃん…?」
「す、すみません。世理先輩」

結川先輩は世理先輩の無言の圧にたじろいでいた。
そして二人は届いたポテトを食べながらおしゃべりを始めた。



「じゃあ、そろそろ帰るわ」
注文を受けてからしばらくして、美化委員の二人はレジまでやってきた。
もちろん俺が担当する。
英田先輩に頼んで先ほどのようになったらたまったもんじゃない。

「あ、そうだ。月、お前来週私たちと一緒に来てくれないか?」
「え?」
「あ、あのね、私、来週学会で発表があるの。学会は毎回藍ちゃんに付き合ってもらってるんだけど、今回は準備とか含めてもう少し人数いてほしいなって思ってて…。だめ…かな?」

「二泊三日だし、小旅行みたいなものだと思ってくれて大丈夫だ。もちろん学会の時はしっかり手伝ってもらうが…」
「来週ですか…。お手伝いしたいんですけど、バイトが…。スーパーの方は大丈夫なんですけどこっちでシフトが入ってるんです」
そう言った時店長が声をかけてきた。

「ごめん月くん。あと英凛ちゃんも。来週のシフトなんだけど、ちょっと点検と入れ替え作業が入っちゃって店自体が数日休みになるんだよね。だからその時はお休みってことで」
なんてタイミングのいい点検だろうか。

「バイトの方は大丈夫だな」
「小旅行みたいな感じって言ってますけど、俺お金なくて。交通費もホテルとかも…」
「ああ、それは気にしないでくれ」
「え?」

その時近くを通った英田先輩が一言つぶやいた。
「そいつの家、超お金持ちよ」
「宿は私の家の別荘だし、移動も全部こっちで用意してるから」
「ええー!?」
俺は結川先輩の家がお金持ちだということが初知りだったうえ、別荘というものが身近に存在すると思っていなかったのでとても驚いた。

「なんだよ、鳩が豆鉄砲を食ったような顔して」
「いや、別荘なんて単語、俺とは縁のないものだと思っていたので」
「そうか?」
「そ、それで月くん。ど、どうかな?」
バイトとお金の問題がないなら手伝わない理由がない。

世理先輩にはテストの時にお世話になったし何かで恩返しをしたいと思っていたのでいい機会だ。
「そういうことならもちろん。お手伝いさせてください!」
「おし。決まりだな」
「あ、ありがとう!月くん!」

「世理先輩の頼みで僕にできることなら何でもお手伝いしますよ」
「そ、そんな…」
世理先輩は顔を隠してしまった。

「じゃあ詳しいことはあとで連絡するから。世理先輩、行きましょう」
こうして俺は世理先輩の学会発表のお手伝いをすることとなった。
学会での発表も気になるが、小旅行というものもとても気になった。

俺は修学旅行以外旅行の経験がないのでとても楽しみだ。
少しワクワクしながらタイムカードを切り、家に帰った。


後書き

十八話です。最後まで読んでいただきありがとうございます。
このふたり、犬猿の仲です。
次は学会発表に向かいますね。流石世理先輩です。
続きもぜひ読んでいただけたら嬉しいです。感想も大大大大歓迎です。


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