レズビアンな全盲美大生 読ー3 ヌード

2日目
 翌日は駅で待ち合わせだ。8月末から続く長い長い秋梅雨がようやく終わり天気が安定してきたと感じる11月から12月中旬までの短い秋、ファッションも安定して街は秋服に埋もれている。
 8時に3番バス停に来て、と言われている。どんな風に通学するのか観察しようと少し前に着いて、どちらから現れるかキョロッキョロしていると、横断歩道に二人が見えた。
 自然に人込みに立ち止まり周りと同じに渡り出した。白杖をついているのに中々堂々としている。
 美憂は白杖の先をしっかり見つめている。美月は正面を向いている。
 歩くスピードは周りと僅かに遅いが、この空間に引かれた点字ブロックが頭にしっかり刻まれているのだろうか、背を伸ばし通勤の人達に見事に紛れていて白杖を突いて歩く人が居るとは感じさせない。
 駅に向かう一団から離れてバス停に向かって点字ブロックを辿り直角はショートカットしている。
 バスの列に近づくと手が伸びて列に引き入れられた。
 近づいて後ろに並んでいると声をかけると頷きが返った。
 列の最後尾に並び見ていると友達だろう人の袖を摘み、車道に降りバスの手すりを掴みバスのステップの高さに正確に足を上げ乗り込んだ。
 友達のエスコートなどもうシステム化しているようだ。大学に付くと友達のエスコートで脇にそれ私を待っている。
「大学で待ち合わせで良かったみたいだね」
「でも見つけるのに若干手間取ると思うよ」
「じゃ私達の部屋に行こう、覚えている?」
「えーどうだったかな、覚えていないかも」
「ならみなの後をついていけば大丈夫だよ」
「そうなら会うのを遅らせた方が良かった」
「あなたが思い出す所は分からないでしょ」
「それなら駅で一緒になれば良かった話だ」
「友達に紹介するのに時間がかかるでしょ」
「そう言うなら今だって紹介されていない」
「少しずつか一度に大勢にかどちらがいい」
「そもそも紹介される必要は無い様に思う」
 じゃ無しにねと先導されて建物に入った。
「教室に集まって授業受けるんじゃないの」
「今日は実習だから直接そっちに行くから」
「でも朝は一度は教室に集まると思うけど」
 お互い会話をぶっこんで、意地を張って統一点を目指そうという気はあさってだ。
「美憂が聾だったら二人で一人前になったけど、共に盲じゃね、残念だよ」
 美月が突然話題を変えた。なんだこれは。私向けに用意していたとしても唐突過ぎる。
「そうそう、誰の助けも要らない。いっその事結合双生児でもよかったんだけどね」
 美憂が追随する。
「君達当事者なのに簡単に言うんだね。そんなに軽い話じゃないと思うけど」
 言ってから、当事者、は適切か考えた。
「まあ、いま以上に可哀そうって騒ぐでしょうけどね」
「拒否しても分離手術はやられちゃうと思うよ」
「かもね」
 結局おふざけの話題だ。
「メクXって言われてもケラケラ笑っていそうだね」
 口にするには腹に力のいる言葉を使ってみた。
「メクXって差別用語なんだ、知らなかった」
 知らないわけが無い、が聞き流される。軽いジャブ的な会話に過ぎないようで相棒を弄って見定めようと二人なりに考えは同調されていて成果を確認しよう的に暫し沈黙した。私の心に粟粒を産み付け、産卵に気が付かない3歩歩いて忘れる鶏のようで無責任な二人めと気が立っても、粟粒を産んだのは自分だと気付き直して後悔しても、先の一事が気になる感じの二人は沈黙に変化した。打ち切られるには少し物騒な会話だけが霞になっている。
「さてバイト行こう」「だね」
 バイト? 授業じゃないのか。会話が回り始め意識が先を向きやや安心したものの一方的に主導されている感は否めず別の粟粒が産まれる。
「あなたも行くのよ」
「まさか僕もバイトする?」
「そんなわけないでしょ」「でもやるってゆうなら是非にと思うけどね」
 キャッ、キャキャ。ずいぶん受けている。まあギャルがはしゃぐのは良いものとしよう。
「でも長丁場になるけど我慢できるかな」
 どんな仕事であれ、視覚障害のギャルにできて出来ないわけがない。
「もちろん大丈夫だけど、やる気はないけど、急に飛び入り出来る?」
「まあ、かなり面食らうとは思うけど、大丈夫かもね。やってみる?」
「きっと絵になる」「ならないかも」
「遠慮する」
「怖いんだ」「まさか」「じゃやってみようよ。やって損はないから」
「まあ、現場についてから考える」「それじゃ遅いんだけどね」
 じゃ行こう、と歩き出したが構内へ歩を進める。
「学校の中のバイト?」
「全然頭が付いてきていないね」美月。
「どんなバイトか言ってくれないと」
「聞きたい?」
「別に」
 惑うことなく構内を歩き階段を上り、とある広い部屋に入る。イーゼルがたくさん並んでいる、その奥の個室に入り、
「白いガウンがあるはずだけど取ってくれる?」
 なに? ガウン?
「バイトってね、実はヌードモデル」
 ムッムッ。数々の揶揄いがあちこちに吹き出しのように点滅する。それより何の躊躇もなく脱ぎ始めた。
「ちょっと待てよ」と背を向けた。
「あなたもさっさと脱いだら」「恥ずかしがることないよ、私たち見えないんだから」
 揶揄いのニュアンスはなく真面目なトーンだ。
「君達恥ずかしくないの?」
「なんで?」「なんでって」
「着てても着てなくてもおんなじよ」
 まさか! そんなことはあり得ない。するすると脱ぐ作業は続いて、ガウン渡してくれない、と言われ振り向くと、うわ! 形のいいケツ。
「あなたは部屋の後ろで観察してテキストにするのよ。自分の仕事忘れた?」
 そういうことになるのか!
「だから慣れてもらわないとね」
 と言って、さっと振り向いた。ウンワ。慌てて目を反らした。なんて小娘だ、馬鹿にするのもほどがある。怒りで目を剥いて向けた。が、おや! なに! この雰囲気は。裸の二人は見返さない。じっと佇んでいる。そうかジロジロ見ても見返されないのか。拍子抜けだ。でも引け目は十分ある。ウンワ! 結構ボウボウ。手入れしろよ。
「慣れた? 大丈夫?」
 変なところで気遣いがある。

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