見出し画像

禁忌

Turmali

「お父さんを呼んできて、ご飯だから」

と子供に言おうとして、

「おかあさんを…」と言いかけてしまった。

小学生が教室で先生に「おかあさん!」と呼び掛けて

笑われてしまうのと同じように。


間違えた!という感情が、脳内で小さな稲妻を作り

古い欠片をするすると手繰りよせた。

お父さん・・・・を呼んできて」と言い直してから

その感情の奥底に、すでに予兆はありながら、潜っていく。


「おかあさん」は口にするのを憚る単語だった。

あの小さな借家では。あの殺伐とした時間。

トラブルそのものの言葉だった。

かわいそうに、と私は思う。

大げさね、と別の私が言うと、

皿を拭く手が震え、鼻の奥がつんと沁みた。

あの頃の私に言ってあげられることは何もない。

ただ抱きしめ、抱きしめ返すことを教えたい。

ははおやでなくともそれはできたはずだったのだが。


やっと父親を呼んできた。

この乱雑な、けれど平らな食卓。

タブーなんてありはしない。

心から思うなら、何を言ったっていいのだ。


#詩 #日記 #ひとりごと #禁忌 #タブー

この記事が気に入ったら、サポートをしてみませんか?
気軽にクリエイターの支援と、記事のオススメができます!