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blue_lace_moon
朝顔
朝顔が咲いている。
ブルーと、濃いピンク。
夏休みの子供が学校から持ち帰った。
形も色も、この朝顔では物足りない。
夏の朝の空気、それも少し違っている。
私が子供の頃とは…。
それを繰り返すのだろうか?
(私が子供の頃とは…/ 私が子供の頃には…)
毎夏、朝顔をみるたびに、そう呟くのか。
電線の上で土鳩が鳴けば、少しは近づくだろう。
子供の頃に…。
違うのは、私だ。
ほかでもない五十に近づいたこの身体だ。
けれどそのこともすでに言うのは容易く、
その物足りなさの、少し先に今は話をすすめたい。
ベランダに走り出た猫が仕切りの上で空中の鳥を見つめている。
おだやかな集中。
私に気づいて目を細め、また急がずに、関心を鳥へと戻す。
畑をへだてた道を、コンバインが大きな音をたてて通り過ぎた。
猫が耳の形を変え、警戒をからだで示す。
昨晩、おが屑の上に這い上がり、
居心地悪そうに動いていたクワガタの幼虫が、
今朝は深くに潜って姿を消した。
これは良い兆候?
生きて孵化すると決めたのか。
それとも。
そしてまた一昨日のことを思い出す。
順々に訪れる彼女たちとの会話。
カルテットの音合わせのように、やさしく押したり引いたり。
互いを承認させようとする、儀式。
私はぼんやりとそこにいた。微笑んだほうが良かっただろうか?
どっちにしても分からなかっただろう。
マスクをしていたから。
どっちにしても、そんな微笑みは
私の上を弾き、すべるように流れ去っただろう。
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