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コミュニケーションから広がる可能性


あなたはどんな人間ですか?と聞かれたらあなたはどんな答えを返すだろう。
簡単に自分はこういう人間ですといえることができるかもしれない。でも家にいて家族と話しているときの自分と学校や職場にいるときの自分、友人と遊んでいるときの自分は全く同じ自分なのだろうか。

人は所属している組織によって自分に付随する属性を変えてその場その場に応じたふるまいをする。だが、それを意識しながら日々を過ごしている人は少ない。
そんな流動的なふるまいをしていると、どれが本当の自分なのだろうと思ったことはないだろうか。最近は世の中の見通しが悪く、常に不安を持っている人々も少なくない。では、混迷している現代社会で頼れるものとは何だろうか。
それは、自分しかありえない。自分の中に軸があれば不安の中でも生き抜く支えになるだろう。

「自分とは何か。自分とはどういう人間か」

それを解決する手助けとして、わたし研究室というサービスがある。今回、お話を伺った松原さんは、京都を拠点に活動している一般社団法人こころ館の代表だ。
わたし研究室とは、一人一人に眠っている可能性を発掘する研修サービスだ。自分とは何かを追い求めて他者と対話をすることで、今まで気づかなかった新たな目標ややりたいことを見つけ、そのためにできることを模索し一歩を踏み出す。それにより自分や他者だけではなく地域や、ひいては社会全体をよりよいものにしていくことがわたし研究室の目標である。


松原さんは「今の社会は結果主義だ」と語った。

「何ができたかとか、外側に見えることばかり注目されてその前の動機部分があまり着目されない。大人も子供も人の目、評価を気にし過ぎている。もっとワクワクやドキドキを大事にして、失敗してもいい、やってみたいからチャレンジするっていうような人を増やしたい」

考え方の基礎はカンボジアで開発(かいほつ)僧とした地域づくりの活動にあるという。国家や地域の問題だけでなく、個人の問題を一番に考え、眠っていた人間性を開花させる僧たちの考え方を日本に当てはめたものが松原さんが行っている開発的イノベーションモデルだそうだ。

松原さんは大阪の豊能町でわたし研究のプログラムを実施した。対象は二十代から五十代の子育て経験のある女性。全五回のプログラムには行政の人も一緒に関わることで、自分のやりたいことを見つけた女性をすぐにサポートでき、地域がよりよくなっていくという。


「自分のことをよく理解しておかないと人に合わせることばっかりになってしまう。そうしたら、自分というもの自体がなくなってしまう。どうやったら周りの人に認識してもらうか、納得してもらうかばっかりにフォーカスして、気がついたらモチベーションがないなんていうこともありうる。自分は一体どんな時に苦しむのか、どんな時に喜ぶのか、どんな時に悲しいのか、どんな時にワクワクしてるのか。それを自覚することがとても大事」


しかし最初は受け入れられないこともあったという。松原さんの考え方は、利益をあげることを目的とする企業には理解されないことも多かった。しかし、活動していくうちにだんだんと理解されていった。

「実際に人の可能性が花開いたときに理解してもらえたこともある。じわじわやっていくしかない」

そもそもわたし研究室が生まれた理由は「人の目を気にしすぎて自分の本来持っている可能性を発揮できずに生きている人があまりにも多かったから」である。そんな中であえてわたし自身を研究することによって自分自身の可能性を追及することがわたし研究室の活動だ。                           

松原さんはプログラム参加者の自発性を最も大切にしている。わたし研究室は企業や行政と協力して活動を行っているが、「こうしてほしい」という他者からの欲求より「こんなことをしてみたい」という、内発的な行動力こそ大事にするべきだと語っていた。


インターネットが発達し、もはやライフラインになりつつある今日、人と関わりたいのであればSNSで事足りるという意見や、孤食を防ぐための「あわじ国バーチャン・リアリティー」や「VR#2人でごはん」などのサービスはある。しかしこれらは、画面越しでのコミュニケーションでしかない。実際に人のそばにいてコミュニケーションをとることに比べれば情報量もそれによって得られる経験も段違いだろう。これらのサービスの有用性は確実にある。しかし、それは全くコミュニケーションをとらない場合と比べた時の話であって、応急手当てにはなっても根本的解決にはなっていないと考える。

人は心のどこかで誰かとつながりたいという欲求を持ち、言葉にすることで自分の内面や考えを整理することができる。そして他人は自分を映す鏡ともいうように、そこから自己理解につながることもある。

人間関係が希薄になっている現代社会であるからこそ、対面でのコミュニケーションの大切さを見直すべき時が来ているのかもしれない。

森本 英莉

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