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立憲民主党の支持率はなぜ下落したか

 ⭐それは自民の支持率の下落とともに起きた

 立憲民主党の支持率の下落には、単なる一つの政党の事情をこえた問題があります。それというのも、同時期に内閣支持率と自民党の支持率が下落し、新型コロナウイルスへの政府対応を多数の国民が支持していないことが世論調査から明らかであるからです。
 政府の対応がまずいのであれば、ドイツのメルケルやイギリスのジョンソン、ニューヨークのクオモらを横目で見て、国民は「自民に変わる党はないか」「より真っ当な政府が欲しい」と思うでしょう。しかし野党はその思いにこたえて支持率を伸ばすことができなかったのです。

 一人一人の考えには違いがあり、世論はそうした人々の総体を扱うわけですから、どのような変化であれ単一の理由を挙げ、「このせいでそうなったんだ」と語るのは乱暴であり間違ったことです。
 そういったことを承知の上で、ここでは直近の支持率の動き――特に立憲民主党と自民党の支持率の下落、維新の支持率上昇を理解することを試みてみましょう。

⭐政党支持率の正確な動きは

 まず事実の確認から行っていきます。各社の世論調査を平均した政党支持率の推移を下に示しました。3月から4月にかけて、灰色で示した無党派層(特定の政党を支持しない人たち)が増加し、緑色で示した自民党の支持率が下落しています。立憲民主党は水色の線で、これも下落傾向となっています。

20200420政党1

 支持率10%未満を拡大してみましょう(下図)。すると、立憲民主党の支持率が下落する一方、野党ではかわりに、黄緑色で示した日本維新の会の上昇があったことが読み取れます。

20200420政党2

 立憲民主党の支持率の下げ幅は大きく、現在は結党以来最低の水準となっています。その変化は自民党の下落と、維新の上昇とともに起きています。

⭐高井氏の不祥事は主な原因と言えない

 4月21日の産経新聞に次の記事が掲載されました。

「立憲民主党の福山哲郎幹事長は21日の記者会見で、報道各社の世論調査で党の支持率が低下していることについて、政府が緊急事態宣言を発令した後に高井崇志衆院議員が東京・歌舞伎町の『セクシーキャバクラ』で遊興したことが原因との見方を示した。『この局面で支持率が落ちたのは高井議員の不祥事が原因だと考えている』と述べた」(産経新聞)

 なお、この記事の正確性についてですが、党が公開している2020年4月21日 「#福山会見」の動画の44分55秒から「まあ支持率については、あまり一喜一憂しないのがいいと私は思っていますが、この局面でやっぱり支持率が落ちたのは、高井議員の不祥事が原因だと考えています」と回答している事実を確認することができます。

 この解釈は大きな誤りです。このことをはっきりさせるため、最近の出来事を下の表にまとめました。(立憲民主党に関わることに🔸印を、世論調査で急落が明らかとなった時期に⭐印をつけています)

 1月16日 日本ではじめて感染者を確認
 2月05日 ダイヤモンドプリンセス船内で集団感染
🔸2月16日 立憲フェス開催
🔸3月13日 新型インフルエンザ特措法改正案に賛成
🔸3月23日 役員会で代表選規定の骨子案を了承
🔸3月18日 山尾志桜里氏が離党届を提出(受理は24日)
 4月07日 緊急事態宣言
⭐4月13日 世論調査が報じられ、急落が明らかとなる
🔸4月14日 高井崇志氏の不祥事が報じられる
🔸4月15日 高井崇志氏、除籍処分になる

 支持率の急落が明らかとなったのは4月13日ですが、高井氏の不祥事が報じられたのはその翌日の14日なのです。また、報道以前は全く話題になっていなかったことがGoogleトレンドなどからも明らかです。

 4月13日に公表された調査では、立憲民主党の支持率は、読売新聞だと±0ポイントで横ばいだったものの、共同通信では3月の第1回調査と比べて1.9ポイント減、産経新聞では4.0ポイント減、NHKでは2.4ポイント減となっており、平均して2.1ポイントほどの下落が起こりました。

 高井氏のことは不祥事ですから、支持率の下落に寄与したと考えるのが自然でしょう。けれども、それでは不祥事の報道よりも前におこっている大きな下落を説明できないため、主たる要因ではないと考えられるのです。

⭐下落の要因には何があるか

 結果的に下落となった要因として、考えられるものを列挙します。

①高井崇志氏の不祥事
②山尾志桜里氏の離党
③代表選規定
④新型コロナウイルスの影響

 まず①の高井氏について、下落に寄与したものの主たる要因ではないということは先に書きました。

 ②の山尾氏の離党は、国会議員を一名失ったわけですから、一定の支持者の喪失を伴ったと思われます。

 ③の代表選規定については、一例として毎日新聞で次のように報道されています。

「立候補の要件は、国会議員20人以上の推薦などとする。党所属の国会議員、地方議員、国政選挙の公認候補予定者、一般党員が投票権を持つ。準党員の『立憲パートナーズ』には投票権を与えない」(毎日新聞)

 立憲パートナーズに投票権を与えない方針は、サポーターが投票権を持っていた民進党からの後退とも受け取れるもので、草の根民主主義やボトムアップを掲げてきた党として一貫性を欠くと指摘されてもやむを得ないことです。

 これについては現時点では影響を測るデータがありませんが、党では反響を科学的な方法で把握し、具体的な党員数、サポーター数の変化を追跡し、必要ならば判断を変えるということがあってよいはずです。これは政党の運営の問題ですから、党と支持者が納得できる形で着地点を探るのがよいと思います。

 ④の新型コロナウイルスの影響は、コロナが関わる様々なこと全てをまとめてということですが、例えば日々のニュースで感染症の拡大が圧倒的なウェイトをしめるにつれて国会などの報道が圧迫され、野党がマスコミに露出する機会が減っていったことが指摘できるでしょう。

 ①の寄与は小さく、②③④の寄与の程度は現時点ではわかりません。しかし④は、単なる支持率の下げ要因ではなく、大きな上げ要因となる可能性もありえました。

⭐新型コロナは上げ要因でも下げ要因でもあった

 コロナの報道が多くなった結果、国会などでの活躍がニュースで扱われなくなったことをもって「支持率下落は仕方ない」と考えるのは、あまりに受動的な姿勢です。報道を引っ張る、世論を引っ張るという視点が欠けています。むしろそれならば党として独自の会見をやるなどして、国民に必要となる情報を提供し、世論を牽引していくことがありえるはずなのです。

 これは大きなチャンスでした。というのも、同時期に自民党の支持率は下落しています。また下に示すように、3月から4月半ばにかけて内閣支持率は下落傾向にあります。

20200420内閣

 こうした内閣支持率や自民党支持率の下落がなぜ起きたのかといえば、それには新型コロナへの政府対応の評価が悪化していることが挙げられます。例えば毎日、朝日、産経では次のようになっています(選択肢が違いますが他にNHKなども調査をかけています)。

毎日新聞政府対応

朝日新聞政府対応

産経新聞政府対応

 こうした結果をみれば、「こんな緊急時に与党に協力せず、批判ばかりしていれば下がるに決まっている」といった議論が誤りであることは明白です。政府対応が駄目だというのは諸外国と比較しても明白なことで、国民の評価も低く、内閣や自民党の支持は削れていったのです。

 まともな検査体制も築かれておらず、23日までに実施された百万人当たりの検査数はドミニカ共和国以下となっています。自粛に伴う補償も追いつかず、全世帯に配布するとなったマスクは汚染が見つかって回収されています。自宅療養の感染者数すら把握されていない現状があります。いまの政府の対応はこのような水準です。

 この緊急時に政権の支持率が落ちるというのはブラジルなど一部の国を除いてほとんど見られないような傾向です。(詳しくは『コロナ対応をめぐる海外と日本の圧倒的な違い』を参照してください)

 しかしながら、こうした状況下で政府対応に不満を持つ国民を前にして、立憲民主党は野党第一党として、「我々はこう考える」「我々はこう動く」ということを十分に示せているでしょうか。

⭐なぜ維新の支持率が伸びているのか

 維新の支持率が伸びている理由は明快です。大阪という大都市を基盤として保有しているからです。そこで市長や知事らが動き、「我々はこう考える」、「我々はこう動く」ということを打ち出して、市民に訴え、具体的に動き、それが報じられるというサイクルをつくることができるのです。(維新の動きに対する賛否はともかくとして、いま問題にしているのは世論の動きや仕組みであることに留意してください)

 それがどういう内容であろうと、動き、報じられたからには評価する人たちはいるわけです。もっともそれも限定的なものであり、平均して1ポイント上がったという程度にすぎず、自民と立憲が支持率を下げる中で、無党派層が激しく増加しているという現実があるわけですけれども。しかし少なくともそれは一つの特徴的な動きとして理解できるのです。この点、立憲の場合は大都市の首長をもっていないという不利はあるのですね。

 ともかく、政府対応が評価されない中で、野党が5ポイント、10ポイントと支持を積む可能性は本当にありえなかったのか。これからどうしたらよいのかということは考える必要があることです。

⭐いま野党に求められることは

 支持者や無党派層が今の政権の対応を評価せず、それとは別の何かを期待するなかで、野党はコロナと立ち向かう社会のあり方を示せているでしょうか。例えばメルケルのような。例えばジョンソンのような、クオモのようなものを見せられているでしょうか。今の日本が置かれた状況をどうするのかという展望を示すこと。たとえ政権を担っていなくとも、我々が政権をとったらこのようにするということを示し、その実現のために動くこと。それは国民に求められるものであり、他の支持率の下げ要因をはねるほど大きいものとなるはずです。けれどそれができなければ、政権与党の対応は駄目だけど、その駄目なものをどうもできていないということで、支持者にとっても失望となりかねない。

 この社会がどこに向かっていくのか、このコロナの危機を乗り越えてどうなっていくのか。国民は大きな不満を抱え、不安に脅かされているはずです。状況は悪化していきます。それに対して野党は協力してどういうビジョンを示すのか。政権の対応が駄目だと指摘するだけではなく、我々ならこうするという仕組みを提案し、可能であれば自ら実現にもっていく。野党は政権を担当していないのだからできることは限られると言ったところで始まりません。できないと言ったところで今の状況に甘んじるだけです。では何ができるのか? 何をすべきなのか?

 コロナにたいしてこう立ち向かうべきなのだということ打ち出し、その実現のために社会の様々なリソースを組織する。それができなくても、少なくともその方法を提示する。独自に定例会見をやって世論を牽引する。民意と政策を疎通させる。

 いろいろな可能性がありえるはずなのです。そういった視点を持って、多くの人に政党と世論の動きについて考えてもらえれば幸いです。

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