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強行採決を止めるには?――議席バランスのはなし

 これまで与党はたびたび国会の場で強引な採決を行ってきました。2013年の特定秘密保護法、2015年の安保法、2017年の共謀罪法などはその典型です。

 与党はなぜ世論の反対を押し切って、強行採決に踏み切ることが可能だったのでしょうか。それには国会の議席数を振り返る必要があります。

 国会にはとりわけ重要な議席数として、過半数、安定多数、絶対安定多数、特別多数が存在します。

 過半数は、本会議で法案を可決させるために必要な議席数です。

 安定多数は、委員長を独占しつつ全ての常任委員会で半数の確保を可能とする議席数です。衆議院にはさまざまな委員会がありますが、これをクリアすると委員会で行われる審議も与党がリードします。(もっとも、これは理論的に可能だということであり、委員長は慣例として野党にも割り振られるのが普通です)

 絶対安定多数では、委員長を独占しつつ全ての常任委員会で過半数の確保ができるようになります。

 特別多数(圧倒的多数)は、定数の3分の2議席です。これは憲法改正の発議にかかわる基準として知られていますが、それだけではありません。議員の除名や、参議院で可決されなかった法案を再可決によって成立させることができ、議会を非公開にすることさえ可能です。また、特別多数では議事の日程も与党がほとんど決めてしまうほどの力を持つことになります。

 ここで今の衆議院の議席配分をふりかえってみましょう。現在の衆議院は、自民262、公明32で、与党は合計294議席。絶対安定多数を超えています。さらにこれに改憲に前向きな日本維新の会41を加えれば335議席となって特別多数を確保する状況です(議席数は令和4年6月13日衆議院発表による)。

 ひとたび選挙で議席が決まってしまうと、与党はその議席数を用いて審議・採決を行うことになります。つまり、与野党の力関係は、当の法案の審議・採決が行われるずっと以前に決まっているわけです。

 審議や採決の際にあまりに強引で無茶な運営がされた場合、与党側のなかからも反対の声が上がるのが普通です。それは政治家個人の考えだけでなく、支持者の意見や世論の反映でもあります。与党から声が上がり、何人かの政治家が退席したり反対に回るということがあったとき、与野党の議席がある程度拮抗しているなら採決は実現できなくなるわけです。実際にそういう段階まで行かなくても、懸念があれば強引な採決は躊躇されるでしょう。こうした状況の下では、世論も、政治家に意見することも、大きな力を発揮します。

 ところが現状は、与党は衆院において絶対安定多数を大きく上回る議席をもっています。これはたとえ与党から60人が反対に回っても可決させることが可能であることを意味しており、数人が退席したり反対しても与党の多数は微動だにしません。また、そうした状況だと与党内部からの反対の声も上がりにくいのです。

 このようにして、いざ法案が問題になった時に世論が反対したとしても、与党が強行採決に踏み切れるということになってしまうのです。

 一つの選挙の結果は、その後数年の議会の力関係を決めてしまいます。特に今は、昨年10月31日に第49回衆院選が行われたばかりなので、解散がないかぎり3年間は補欠選挙を除いた国政選挙が行われなくなります。ですからこの参院選で決まる議席配分は極めて重要です。

 本来、民主主義は単なる議会の多数決ではありません。けれどそのことを実行力のあるものとしていくには、強引な議会運営がされないような、少なくともまともな審議がされるような国会にするために、議席のバランスを少しでも回復することが必要です。

 7月10日はぜひ投票に行ってください。