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つながりを創る:南アルプス市市民活動センターコーディネーター新津幸さん(2)

(前回から続く)

地域づくりは人づくりからはじまる。その想いから、当時の市民活動センター長であった保坂久さんが企画した通年のワークショップ「南アルプスWAKAMONO大学」。新津さんもそこに参加したことで、さらに様々な人たちとのつながりが深まっていったという。そして、活動拠点となっていた「南アルプス市市民活動センター」も、無料でコピーができたり部屋が借りられるというハード主体の場から、誰かに出会える、相談ができる場へとシフトしていった頃でもあった。

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しかし、約1年かけて開催されたWAKAMONO大学も終了し、保坂さんも異動になると、せっかく創られてきた場がなくなってしまうという危機感を持ち、保坂さんの勧めもあり、センターのコーディネーターになることになった。

これまで、新津さん自身が「プレーヤー」として活動してきた立場から、様々な活動を「サポート」する側に回るという大きな変化でもあった。そこには、新津さん自身にどんな想いがあったのか?

一つは、行政担当者は2~3年で人が入れ替わる。それでは市民活動を支援することはムリだと感じていた。地域を分かっている人が常にそこに居るということが大切だと感じたという。もう一つは、一人の「プレーヤー」としてできることには限界があることに気づいたことだった。自分が「サポーター」に回ることで、人と人とをつなげていけば、活動は限りなく広がっていくと考えた。

例えば、市民活動センターが手がけている年1回のイベント「市民活動フェスタ」。このイベントは、行政が企画をするのではなく、すべて市民がみんなで決めてみんなでやることを大切にしている。手作りの分、イベントとしては下手かもしれないし、規則を破って施設管理者の方に怒られたりすることもあるけど、それでもみんなが主体的に関わることがとても大切だと新津さんは考えている。大きなイベントにお客さんとして参加するくらいなら、小さくても下手でもいいから主体的に関わる方がいい。そこには、まず自分自身が楽しみながら関わっていくというブレない想いがあった。

ふぇsた

1時間を少しオーバーする中で、新津さんのこれまでの取組について伺ってきましたが、休憩を挟んで、参加者の皆さんから、お話を通じて新津さんにどんな想いやニーズがあるのかを伺っていきました。その中で、いくつか気になったことをまとめてみます。

市民活動センターという行政機関に相談をするというと、どうしてもハードルが高いと思いがちですが、実際には新津さんというコーディネーターがいることで、気軽に相談しやすい雰囲気が生まれてきました。しかしそれは、単に「コーディネーター」を配置すれば良いということではなく、そこにどんなスキルや経験、想いを持った人がいるかによって、支援の質が大きく変わってくると感じました。もしかすると、子育ての活動を始めた頃、行政に門前払いをされた経験があるからこそ、支援を必要としている人にどんな想いがあるのかに耳を傾け、どんな支援ができるのかということと真摯に向き合っているのかもしれません。

また、「怒り」というキーワードも出てきました。例えば、行政に支援をお願いして断られると、「仕方がないかな」と受け入れるか、諦めてしまうこともあるかもしれません。でも、新津さんはそうではなく、その時の怒りが次のアクションへのモチベーションになっているようにも感じました。また、怒りを通じて、新津さんという人が大切にしていることや価値観が表れることで、他者からの共感が得られる。それが、人を引きつける魅力にもなっているように思いました。

怒りというと、私たちはどうしてもネガティブなイメージを持ってしまうかもしれません。見方を変えると、それはとても素直な心の表れだと捉えると、それを「仕方ないかな」と頭で考えて押さえ込んでしまうより、その感情と向き合うことが大切なんだと改めて思いました。

今回、行政の方もお越し頂いていましたが、市民活動に対する行政の立ち位置についてもコメントを頂きました。市民が主役で行政やそれをサポートする側、だからあまり表に出ない方が良いという意見もあれば、行政マンであっても、自分が楽しい、面白いと思うことをやっていきたいというご意見。また、自分自身の考えをどこまで出すべきかを悩んでいるという声も。正解はないのかもしれませんが、自分自身にとってのブレない想いがどこにあるのか、それを軸にすることが大切なようにも感じました。仕事の中で、「何か違う」とか「おかしい」、また「面白そう」とか「楽しそう」といった想いと素直に向き合うことで、自分の取るべきアクションが見えてくるように思いました。

最後に、新津さんが目指している市民活動とはどんなことかを伺ってみました。すると、「イベントがなくなること」という意外な答えが返ってきました。しかし、新津さんのお話を振り返ると、ロマスタから今に至るまで、自分たちが楽しみながら社会と関わるという一つの軸が見えてきました。市民活動フェスタでもあったように、お客さんではなく自分が主体的に関わっていけば、イベントなんかなくてもいい。むしろそれが地域の中で日常的に起こり、文化として定着している社会。そんな理想の姿を思い描いているように感じました。

数多くの地域活動の経験を持つ新津さんのお話から、「つながり」というテーマを深めるには、2時間という時間はあまりにも短すぎた、そんな風に感じました。なので、このインタビューの延長として、「つながり」について深めるディスカッションを行っていきたいと考えています。

文責:佐藤 文昭(山梨大学地域未来創造センター特任教授)

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