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【日経新聞から学ぶ】中国で不動産苦境深まる 新築住宅価格、12カ月連続下落~中国不動産バブル崩壊の本格化~

1.中国で不動産苦境深まる

中国で不動産苦境深まる 新築住宅価格、12カ月連続下落
中国で不動産市場の苦境が深まっている。新規開発や販売が伸びず、新築住宅の値下がり期間は過去最長に並んだ。不振にあえぐ開発企業向けの不良債権が増え、問題が金融システムに波及する兆しもある。共産党大会を開く年は景気対策で経済成長率が高まる傾向にあったが、2022年は2%台の低成長にとどまるとの予測すら出てきた。

中国国家統計局が16日発表した8月の主要70都市の新築住宅価格動向によると、各都市平均の価格下落率は0.3%だった。7月の0.1%より拡大し、12カ月連続で前月を下回った。14年5月~15年4月に並ぶ最長期間となった。

住宅販売面積も前年同月比24%減と2ケタのマイナスが続く。政府の資金規制や販売不振で開発企業は資金不足から抜け出せず、新規開発も低迷する。1~8月の不動産開発投資は前年同期を7.4%下回った。各年同じ期間で比べると、遡れる05年以降で初めての減少だ。

(出典:日経新聞2022年9月18日
(出典:日経新聞2022年9月18日

開発企業の倒産などは銀行経営も揺るがしかねません。中国メディアによると、国有四大銀行や株式制銀行など15行のうち13行は、6月末時点の不動産企業向け不良債権比率が21年末より上昇しました。銀行全体の不良債権処理額は1~6月に1兆4100億元(約29兆円)で前年同期より18%膨らんでいます。

開発企業の資金不足で工事が止まる物件も続出しました。7月には、未完成物件の家主が抗議のため住宅ローンの返済拒否を表明する動きが全国に広がりました。政府は2000億元の金融支援で工事再開を促しますが、対象のローンなど不動産融資は最大9000億元に及ぶとの試算もあります。

2.限界の不動産バブル

新型コロナウイルスの感染拡大が世界で猛威を振るった20年を振り返ってみると、先進各国で軒並み国内総生産(GDP)がマイナス成長に陥る中、中国では2.3%のプラス成長を記録しました(物価変動率を除いた実質)。21年も8.1%と主要国で最も高い成長率となり、中国経済の強さを印象づけました。

ところが、22年4~6月期には実質成長率が前年同期比0.4%で、前期(1~3月)実績の4.8%から急ブレーキがかかりました。

(出典:CEIC DATA

習近平国家主席が主導するゼロコロナ政策により、都市封鎖(ロックダウン)を実施し、経済活動が滞った結果です。22年上半期(1~6月)の実質成長率も2.5%と振るわず、中国政府が掲げる22年の成長率目標(5.5%)の達成は難しいと見られています。

中国経済の失速を端的に示しているのが、不動産市場の落ち込みです。広義の不動産関連産業は中国のGDPの3割近く寄与するとされ、2割程度かそれ以下とされる欧米や日本などに比べて依存度が高い状況です。昨年9月には大手不動産デベロッパーの恒大集団の経営危機が表面化し、中国の不動産バブルの崩壊が取り沙汰されるようになりました。

中国共産党は7月28日に開いた中央政治局会議で、「景気回復の流れを強固なものとし最良の結果を得られるよう全力を尽くす」と発表し、公約にしていた2020年5.5%成長を事実上諦めたと各メディアが報じました。

中国の高成長に限界が見えてきた主な要因が不動産バブルの崩壊です。住宅だけでなく、中国の不動産開発は非効率なものが多くあります。ショッピングモールやオフィスビルは、本来の需要からすれば過剰なほど巨大に造られており、その過剰な投資のバブルが弾け始めるのは時間の問題でした。

中国の不動産価格は非常識なほど高額です。吊り上げられた家賃によって「持てる者(家主)」が「持たざる者(賃借人)」から収奪し、富の配分がゆがめられています。途上国が中所得国の罠にはまる典型的なパターンです。

政府が重要企業の債務不履行を救済する「暗黙の政府保証」慣行も富の配分をゆがめています。最大の受益者は、過去10年あまり低収益なインフラに莫大な投資をしてきた地方政府です。その資金調達を担う融資子会社(LGFV、負債総額は18年時点でGDPの3割に当たる30兆元)には、自力で負債を償還できないゾンビ企業が多数存在します。ゾンビ企業は融資した金融機関が不良債権処理するのが本来の姿で姿ですが、中央や上級政府の「暗黙の債務保証」慣行により、借り換え・利払いが続いています。

しかし、その金利は他で生まれた収益を付け替えて払われています。これを金融機関やそこにお金を預けた富裕層が受け取るのは、いわれのない「不労所得」と言えます。この慣行のおかげで借り換え・利払いを続ける企業には、経営不振の国有企業や地元の重要民営企業なども含まれ、年々支払われる「金融不労所得」の総額はGDPの3%に及ぶという試算もあります。

不動産バブルや隠れた政府保証によって、成長の果実が生産性の低い「官」(共産党、政府、国有企業など)や富裕層に吸い上げられて、生産性の高い民間セクターに回らなければ、中国が中所得国の罠に陥ることは避けられません。

3.不良債権の急増

中国での不動産向け不良債権が急増しています。

中国主要銀行、「不良債権」急増 広がる恒大ショック
中国で不動産業界向けの不良債権が急増している。香港に上場する主要銀行の2022年6月末残高は21年末に比べて27%増えた。不動産大手、中国恒大集団などのデフォルト(債務不履行)や市場悪化が響いた。銀行から不良債権を買い取って処理を進める専門会社の業績も悪化している。

香港に上場する32行の22年1~6月期決算を集計した。6月末の不良債権比率は平均1.65%と21年末と変わらなかった。不動産業界に絞ると3.74%と21年末から0.76ポイント悪化した。

不動産関連の不良債権残高はデータを開示する29行のうち20行で増えた。不良債権比率が高いのは準大手の中国光大銀行(11%)のほか、地方を拠点とする晋商銀行(10.68%)や錦州銀行(10.37%)。開発業者の工事中断に抗議する住宅ローン返済拒否が頻発する河南省を地盤とする中原銀行は21年末の3%台から9.38%に大幅悪化した。

(出典:日経新聞2022年9月18日

米大手金融機関のJPモルガンは7月21日のレポートで一時的返済停止要請の影響を受ける住宅ローンは約1320億元(約2.6兆円)と推定しています。特に資本力の弱い地方の金融機関には経営が圧迫されるところが出てくる可能性が十分あります。ここが不動産バブル崩壊の引き金となるかもしれません。

4.日本型「不動産バブル崩壊」の可能性は?

中国で起きた住宅金融の混乱に関して、米シンクタンク、アメリカン・エンタープライズ研究所(AI)のデズモンド・ラックマン氏は8月の米紙への寄稿「中国の減速経済は米国と世界に問題をもたらす」の中で、「現在、約100万世帯が関与している住宅ローンのボイコットは、中国の不動産危機を同国の銀行システムにまで拡大させる可能性がある。日本の失われた10年間に発生したのと同じように、山積みの不良債権が銀行システムを揺らし、成長が妨げられる恐れがある」と警告しています。(*全文訳は最後に)

今回、住宅金融で起きた目詰まりが長期化し、住宅価格が大きく下げ始めると、日本の90年代のような危機に発展しかねません。

経済のけん引役が不動産であり、それがバブルとして膨れ上がる、金融システムへの波及が懸念されている、そして人口が減少していく社会に突入する。それは、日本がかつて経験したことに酷似しているのではないでしょうか。

ここから、中国不動産バブル崩壊と成長の限界が顕在化してくるのが中国ではないかと思います。

未来創造パートナー 宮野宏樹

*全文訳

China’s slowing economy spells trouble for US and the world
中国経済の減速は、米国と世界に問題をもたらす

August 12, 2022
By Desmond Lachman
デズモンド・ラックマン

In the run-up to the Chinese Communist Party convention this year, troubles are coming to the Chinese economy not as single spies but battalions. This must be of considerable concern for a vulnerable US and global economy. Until now, China has been the world’s main engine of economic growth. It has also been the world’s largest consumer of international commodities and a very large export market for the highly export-dependent German economy.
今年の中国共産党大会に向けて、中国経済には一人のスパイではなく、大隊でトラブルが押し寄せている。これは、脆弱な米国経済や世界経済にとって、相当な懸念材料になるに違いない。これまで、中国は世界の経済成長の主役であった。また、世界最大の国際商品消費国であり、輸出依存度の高いドイツ経済にとって非常に大きな輸出市場であった。

One major source of the Chinese economy’s recent troubles has been President Xi Jinping’s zero-tolerance COVID policy. In an effort to eradicate the pandemic, Xi locked down major cities like Shanghai and Beijing. At times this involved more than 350 million workers unable to work normally.
最近の中国経済の不調は、習近平国家主席の「COVIDゼロトレランス」政策が大きな要因の一つであった。習近平主席は、COVIDを撲滅するために、上海や北京などの大都市を封鎖した。時には3億5千万人以上の労働者が正常に働けなくなる事態を招いた。

Little wonder then that the formerly fast-growing Chinese economy ground to a virtual halt. It managed to eke out only a 0.4% growth rate over the fiscal year that ended in July. That fell far short of the government’s 5.5% target.
そのため、かつて急成長していた中国経済が事実上停止してしまったのも不思議ではない。7月に終了した会計年度の成長率はわずか0.4%であった。政府の目標である5.5%には遠く及ばない。

There seems little prospect this damaging COVID policy will be reversed anytime soon. Seeking a third term as president at the forthcoming Communist Party Convention, Xi can’t afford to lose face by making a COVID-policy U-turn. Yet this very likely will delay any Chinese economic rebound.
この有害なCOVID政策がすぐに撤回される見込みはなさそうだ。共産党大会で3期目の国家主席を目指す習近平は、COVID政策のUターンをして面子をつぶすわけにはいかない。しかし、これでは中国経済の回復が遅れる可能性が高い。

Serious signs of trouble are also resurfacing in China’s all-important property sector. That sector accounts for almost 30% of the country’s economy and almost 70% of household wealth.
中国にとって重要な不動産部門にも、深刻な問題が再浮上している。この部門は、中国経済の30%近くを占め、家計の70%近くを占めている。

Already last year, 30 Chinese property developers, including most importantly Evergrande, began defaulting on their debt mountains. They did so against the backdrop of the government’s effort to rein in credit expansion to put China’s housing market on a more sustainable basis.
すでに昨年、最も重要なエバーグランデを含む中国の不動産開発会社30社が債務不履行に陥っている。中国の住宅市場をより持続可能なものにするため、政府が信用拡大を抑制しようとしていることを背景に、彼らはそうした。

They also did so at a time when the Chinese property bubble led to an estimated 65 million unoccupied housing units and credit expanding at a faster clip than that which preceded the US 2007 housing market bust. A sure sign that the Chinese property market bubble is now bursting is the steady decline in property prices over the past year.
また、中国の不動産バブルは、推定6500万戸の空き家を生み出し、2007年の米国住宅市場崩壊の前兆を上回るスピードで信用が拡大した時期でもあった。中国の不動産バブルが崩壊しつつあることを示す確実な兆候は、過去1年間の不動産価格の着実な下落である。

China’s property crisis seems to be deepening as a growing number of households refuse to make mortgage payments on properties they bought but are yet to be completed. This mortgage boycott, which now involves around a million households, could cause China’s property crisis to spread to the country’s banking system. That, in turn, threatens to hobble the country’s growth prospects by landing its banking system with a mountain of non-performing loans much as occurred during Japan’s lost economic decade.
中国の不動産危機は、購入したもののまだ完成していない物件の住宅ローンの支払いを拒否する世帯が増加しているため、深刻化しているようだ。この住宅ローンの不買運動は、現在約100万世帯に及んでおり、中国の不動産危機が銀行システムにまで波及する可能性がある。その結果、日本の失われた10年のように、銀行システムに不良債権が山積みになり、中国の成長の見通しが立たなくなるおそれがある。

As if this were not sufficient reason for concern, China has been engaging in aggressive military exercises near Taiwan, perhaps to distract from its economic woes in the run-up to the convention. This is already discouraging foreign investment and raising questions about the wisdom of relying on China as a key part of the global supply chain and on Taiwan as an important supplier of electronic chips.
これだけでは十分な懸念材料とはいえないが、中国は、大会に向けた経済的苦境から目をそらすためか、台湾近海で積極的な軍事演習を行っている。このため、すでに海外からの投資意欲は減退し、世界のサプライチェーンの要である中国と、電子チップの重要な供給元である台湾に依存することの賢明さに疑問の声が上がっている。

There’s never a good time for a slowdown in China, the world’s second-largest economy. However, now seems a particularly bad time for the challenged economies of the United States and other nations. Economic powerhouse Germany, which is highly dependent on China for its exports, is already having to cope with large Russian energy-supply cuts. At the same time, the heavily indebted emerging-market economies, already on the cusp of default, can ill-afford additional downward pressure on international commodity prices that a further slowing in the Chinese economy would entail.
世界第2位の経済大国である中国に減速のタイミングがあるわけではない。しかし、困難な状況にある米国をはじめとする各国の経済にとって、今は特に悪い時期であるように思われる。中国への輸出依存度が高い経済大国ドイツは、すでにロシアのエネルギー供給量の大幅な減少に対処しなければならない。一方、債務不履行の危機に瀕している新興国経済は、中国経済のさらなる減速がもたらす国際商品価格のさらなる下落圧力に耐えられなくなりつつある。

From a US perspective, the grim Chinese outlook has to raise questions about the wisdom of the Federal Reserve’s current hawkish monetary policy when the US already appears to be on the cusp of a recession. Not only is China’s slowing economy likely to continue relieving US inflationary pressure by contributing to a further decline in international energy and food prices; it’s also likely to restrict US export prospects by contributing to a further slowing in the global economy.
米国から見れば、中国の厳しい見通しは、米国がすでに景気後退の危機に瀕していると思われる中で、FRBが現在行っている強硬な金融政策の賢明さに疑問を投げかけざるを得ない。中国経済の減速は、国際的なエネルギー・食糧価格のさらなる下落に寄与することで米国のインフレ圧力を緩和し続ける可能性が高いだけでなく、世界経済のさらなる減速に寄与することで米国の輸出見通しを制限する可能性がある。

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