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『菓子創りは夢創り』世界中の子供たちに夢を与えるシェフパティシエ 清水 慎一 さん

 子どもたちを取り巻く環境をつくっている大人の一人として、また、菓子屋として何かできることはないか。大切な人と一緒に夢を語り絵に描き、それを実際にケーキにするイベント「夢ケーキ」プロジェクトなど、“菓子屋”の枠にとらわれない様々な活動を展開する「菓匠 Shimizu」シェフパティシエ の清水 慎一さん。その原点となる想いを、「菓匠 Shimizu」店舗内の素敵なイベントホールにて伺いました。

プロフィール
出身地:長野県 伊那市
活動地域:伊那市を中心に全国・世界各地
現在の職業、及び活動
株式会社菓匠 Shimizu 代表取締役シェフパティシエ
特定非営利活動法人 Dream Cake Project 理事長
経歴
1975年(昭和50年)1月、長野県伊那市生まれ。
「東京洋菓子倶楽部」(東京・日本橋)「ラデュレ」(フランス)「アントルメ菓樹」(熊本市)などで修業。2001年、クープ・ド・フランス大会入賞。子どもたちの描いた夢の絵をケーキにしてプレゼントする「夢ケーキ」プロジェクトの傍ら、全国で洋菓子技術講習や講演を行う。TV、ラジオ、新聞など出版も含めたメディアにも多数出演。
夢は「お菓子を通じて世界中を夢いっぱいにすること」。
座右の銘:「他喜力(たきりょく)」

記者 本日はよろしくお願いいたします。

清水 慎一 さん(以下、清水 敬称略) よろしくお願いします。

実は、菓子屋は一番なりたくない仕事でした

Q. 清水さんが現在の活動をされる原点は?

清水 実は、菓子屋は一番なりたくない仕事だったんです。もしなりたくてなったとしたら「夢ケーキ」という活動もしていないだろうし、店舗にこんなスペースも作っていない。講演をすることもメディアに出ることもなかったんじゃないかな。

 高校時代は野球に夢中でした。でも長男だから親の店を継がなければならない状況になって。20代~30代前半の「なりたくてなったんじゃない」という反発心、怒りのパワーはすごかった。周りも傷つけるけど、進む力はめちゃめちゃ早い。けどだんだん疲れてくるし、楽しくもない。やがて自分の人生このままでいいのか? と自問自答するようになります。何のために菓子屋になったのか、働くのか、生きるのか。自分が菓子屋になった理由をつくりたかった。

 その答えはじつは、自分の反発心のきっかけになった、家族、そこにありました。おばあちゃんと話していたときに言われたんです。

「はたらくってのは、労働することじゃない。『傍ら(かたわら)を楽にする』と書いて『はたらく(傍楽)』なんだよ。自分の近くにいる人たちを楽にしてあげることが、はたらくってこと。」

 時を同じくして、お世話になった先生に、他人を喜ばせる力、「他喜力(たきりょく)」という言葉をいただき、これは今でも僕の座右の銘になっています。あらゆる分野において成功者には共通点がある。それが「他喜力」だと。

 余裕があるから人を喜ばせることもできる、という考え方もありますが、僕にとっては人を喜ばせるのが先です。その結果、お金・人・時間の余裕が生まれてくる。でも、やっぱり違うんじゃないかと思うこともたくさんあります。夢とロマンさえあれば、と思って十数年やってきたし、これからもそうありたいけど、夢を叶えるためにはいろんな力が必要です。子供たちにも「夢が大事だよ」と語っていたけど、夢の安売りをしては無責任ですよね。

 いま子供たちには「夢なんかなくたっていい。夢がないんだったら、まずは目の前の人を喜ばせてごらん。」と伝えています。「傍らを楽にする」には、力が必要なんですよ。思っていれば叶う、やっていれば誰かが見つけてくれる、そういうのも大事だけど、これからは自ら発信していかなければならない。「夢ケーキ」の全国プロジェクトも、自分がやりたいことに「向かっていく」イメージです。

最終形は、夢ケーキという活動がなくなることです

Q. 「夢ケーキ」というユニークな活動の先に、どんなビジョンがありますか?

清水 最終形は、夢ケーキという活動が、なくなることです。
夢ケーキって「お子さんの夢をご存知ですか? お父さんお母さんの夢を知ってる? みんなで家族の夢を語りませんか?」という、非常におせっかいなイベントなんです(笑)

 家族で夢を語ることが第一歩です。だから家族団らんって大事。子供たちにも、お父さんお母さんに感謝して、喜ばせようね、ってことを夢ケーキでは発信し続けています。

 でも、かつてはそんなこと必要なかったはず。誰に言われなくても子供は親を尊敬し感謝して、親も子供たちの夢を厳しくあたたかく見守り応援してきたんじゃないかな? いずれは、夢ケーキなんかなくても、いつもやってるよ、と言われるような。最終形はそこです。

自分の“特別な部分”を磨く

Q. そこに向かって、どんな実践をされていますか?

清水 これからさらに、いろんなスペシャリストが集まって、一つの組織やプロジェクトを動かすという時代になっていくと思います。それが、今やっているNPO法人ドリームケーキプロジェクトそのものだと思うし、「菓匠 Shimizu」もそうなっていきたい。

 AIやIoTの時代、うちにもコンピューター制御の機械がいくつも入っています。でも、AIに人間の仕事がとられる、というのはナンセンスです。今まで苦労してやってきたことをやらなくてすむためにAIが出現してくれているのだから、人間は今までよりもっとレベルの高い、質の高いモノを生み出せると思うのですよ。

メディアでも学校でも「世の中の仕事の半分がなくなる」みたいに“脅威”として話をする。すると子供たちは「じゃあもっとちゃんと勉強しなきゃ」ってなりやすい。僕はそうではなく「今までにない、全然違う仕事を、創り出すんだよ」って伝えたい。

 そして時代に取り残されないスペシャリストになるために、自分の特別な部分を磨くことが大事だと思います。

想いをはせる、ということ

Q. 人間にあってAIに無いものとは、端的に何だと思いますか?

清水 やはり、だと思います。本来の「人間としての心」、ベタな表現をしたら、やさしさ、っていうもの。

 いつもスタッフたちに言うのは、「『あなたがつくったから、このお菓子っておいしいよね』って思われる、それをつくろうよ」って。

 技術を磨くことも経験を積むことも大事だけど、心を磨くことが何より大事。食べる人が、どんな場所で、どんな人たちと、どんなふうにこのお菓子を食べるんだろう、それを想ってケーキをつくるか、そうじゃないか。それが機械と人間の違い。僕ら人間は「想いをはせる」ということができる。

 超一流五つ星のレストランのシェフがつくった料理と、お母さんがつくる料理があったら、当然シェフの料理はうまいけど、お母さんの料理ってふとした時に食べたくなるし、ほっとするでしょ。「菓匠 Shimizu」は、こっちを目指したい。シェフの料理はどうでもいいのではなくて、それを通過してその先に、こころ、想い、そこにたどり着きたい。

自分の好きなように生きてほしい

Q. 次代を担う子供たちに何を一番伝えていきたいと思いますか?

清水 おばあちゃんから受け継いだ言葉や、さっき言った「他喜力」はもちろんですが、今後伝えたいことは、やっぱり自分の好きなように生きてほしいっていうのが一番です。人を喜ばせる力、やさしい心、それをベースに、自由に生きてほしい。何でもできると思うのですよ、30、40年前とちがってね。自立型というか、自分で考える力を身につけるというか。

記者 それが自由に生きるということのイメージなのですね。

清水 そうです。自由っていうのは「自ら考えて」「自ら行動し」「自ら検証する」ってことがワンセット。好き勝手やるのは自由ではないし、そうでないと楽しむこともできない。

記者 究極の楽しさ、とはどんなものでしょうか。

清水 やっぱり人に喜ばれることですね。
最上級の喜びは「自分が誰かのために何かをして、その人から直接お礼を言われることも何かをもらうこともないし、もしかしたら一生出会えないかもしれない。でもその人が喜んでいることを想い、それを自分の喜びに感じる」ということだと思います。完全に無欲、“他喜力”ですよ。それが究極かな。あと何年生きるかわからないけど、最期には、そういう喜びをいくつも感じながら死にたいと思いますね!

記者 ありがとうございました!

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清水さんの活動については、こちらから↓

「夢ケーキ」プロジェクト http://www.kasho-shimizu.com/dream_cake.html

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【編集後記】

今回取材を担当した白鳥です。子供たちへ「夢」を語る清水さんの背景には、幼少からのご家族のことばや姿勢、そしてご自身が「はたらく」ことと真剣に向き合うなかでの出会いによる裏付けがありました。目の前の人を喜ばせる、という信念は取材にあたった私に対しても例外ではなく、「忙しいけど、取材でも人生相談でも、聞かれたなら答えますよ!」と明朗におっしゃる姿に、力強くも優しい、次世代リーダーの姿を学ばせていただきました。

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この記事は、リライズ・ニュースマガジン “美しい時代を創る人達” にも掲載されています。


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