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54.シンブンの巨人

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私は、完全に油断していた。
まさか関東学生陸上競技連盟さんへメールを送ったわずか2日後に、返信が来るとは思っていなかった。
そして、受信箱のリストに表示されていた差出人は個人名だった。

問い合わせメール担当の方だろうか、こんなに早く返信をくださるなんてありがたい…
いそいそとメールを開いた。

お世話になっております。
読売新聞東京本社事業局スポーツ事業部で「箱根駅伝」を担当しております〇〇と申します。

読売新聞…
よみうりしんぶん…
ヨ…!?

ハイィ???(;゚Д゚)???


私は、壁を超えて現れた巨人を呆然と見つめる、シガンシナ区の住人と化していた。

イッタイ、ナニガ、オコッタノ…?

この謎を解くには、箱根駅伝の成り立ち、そして箱根駅伝を取り巻く権利問題についての知識が必要である。

箱根駅伝」は、じつは株式会社読売新聞東京本社の登録商標である。
登録番号:第5565518号
ある弁理士さんのブログに、わかりやすい説明があるのでご紹介する。

(箱根駅伝に関する)商標権の現在の権利者は、株式会社読売新聞東京本社です。
箱根駅伝の主催者は関東学生陸上競技連盟ですが、共催者である読売新聞が商標登録しているのです。
(上記ブログより引用)

簡単に言うと、読売新聞さんに断りなく、「箱根駅伝まんじゅう」やら「箱根駅伝せんべい」やらを勝手に作って売ってはいけない、ということである。
1987年、日本テレビで箱根駅伝の生中継番組が始まると、箱根駅伝の知名度は全国区となり、いまやお正月の風物詩と言われるほどの巨大コンテンツとなった。
その人気にぶら下がる「便乗商法」を危惧した読売新聞が、2011年に箱根駅伝マークを、2013年には「箱根駅伝」という言葉そのものを商標登録したようだ。

共催者とは、共に開催する者という意味であり、協賛や後援とは異なり、運営に直接関わっていることを示している。
なぜ、読売新聞が箱根駅伝の共催者なのか。
2019年の大河ドラマ「いだてん」をご覧になっていた人は、その経緯をご存じであろう。
日本で最初の駅伝と言われる「東京奠都五十年奉祝・東海道駅伝徒歩競走」は、読売新聞社主催の大博覧会の協賛イベントとして開催された。(詳しくは箱根駅伝公式サイトの「箱根駅伝とは」を参照ください)
また、箱根駅伝の創設に尽力したのは、後に読売新聞東京本社に吸収合併されることになる、報知新聞社であった。実際のところ、資金面や運営面からも、草創期の箱根駅伝の実質的な主催者は、報知新聞社であったという。
箱根駅伝の出発点は、新聞社主催の「興行」だったのである。
読売新聞は、第二次世界大戦後、吸収合併した報知新聞社の後を継ぐ形で本格的に後援をはじめ、2004年からは共催として名を連ねている。

「箱根駅伝に出場している選手の写真」に関する問い合わせについて、関東学生陸上競技連盟からではなく、読売新聞から直接メールが来た。
それは「箱根駅伝の商標権だけでなく、箱根駅伝に関する権利問題全般について、共催者の読売新聞東京本社が管理している」ということを意味する。

マジか…

メールの冒頭の一文で、もはや、頭を食いちぎられることを覚悟した。
その後に続く文章を、ビクビクしながら読み進めた。

弊社は共催という形で箱根駅伝に関わっており、主催の関東学生陸上競技連盟より「箱根駅伝」の商標管理に関する業務委託を受け、マスコミ各社、企業、大学等の媒体での「箱根駅伝」写真使用、大会名称使用等のお問い合わせに関して、窓口となってご連絡させていただいております。

うあああぁ!予想通りだぁ:(;゙゚''ω゚''):!!!

箱根駅伝に便乗するつもりは全くなかったけれど、せっかくならkeikaさんの制作実績として発表させてもらえれば…という、淡い期待は儚く潰えた。
出版業界は著作権に厳しい。恐らくそれは「宣伝活動」とみなされるだろう。
それどころか、読売新聞さんは、絵の制作自体を禁止する権利を持っている。参考にしようとした写真画像にはゴールテープがはっきり写っている。明らかに箱根駅伝の時の写真だと特定できる。
「巨人」のお沙汰は次のようなものだった。

箱根駅伝の写真を使って、制作されるとのことですが、一個人として楽しむものとして制作される分には問題ありません。
ただし、「箱根駅伝」の名前を使って作品を発表するということでしたら、許諾することはできません。
営利目的ではないとは思いますが、箱根駅伝を利用して、制作者の名前を売ることにつながると判断いたします。

か、かろうじて首の皮一枚つながった…

一見厳しい文章の行間に、私は巨人の温情を感じ取った。
「箱根駅伝の名前を使わない」で、「一個人で楽しむ範囲」であれば、制作そのものはお目こぼしいただけたのである。
もし、少しでも私の文章に不信な点があればお目こぼしはなかっただろう。
私の嘆願文を読んで、営利目的ではないことをくみ取ってくださったのだ。

私が個人的にkeikaさんに絵の制作依頼をして、個人的に相馬くんへ寄贈する。寄贈が完了した時点で、その絵は相馬くん個人の所有物となる。
それ以降は、相馬くんが個人的にどう扱おうと問題はない。
もちろん営利目的(この絵をプリントしたTシャツを販売するとか)に利用してはいけないけれど、ご本人が絵を持って記念撮影した写真くらいなら、常識の範囲で許されるだろう。
あとは、今後のネット上での私やkeikaさんのふるまいが、品行方正であれば、黙認いただけるということである。

制作許可のお礼とともに、ご指摘事項を遵守する、とメールを送った。
アフロスポーツさんにも、これこれの条件で許可をもらえた(ただし、教えていただいた関東学生陸上連盟にではなく、読売新聞さんにだけど…)と伝えて、正式に画像の貸し出しを依頼した。

それにしても、私と同じくらい陸上シロートなkeikaさんに、この複雑な顛末をどう説明したらいいのかしら…

アフロスポーツさんに問い合わせたら、読売新聞さんからOK出ました。

「風が吹けば桶屋が儲かる」くらい、意味不明に違いない…(汗)


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