見出し画像

53.編まれる糸

チームつくばタイトル

クラファンの連絡先にメールを送った2日後の2019年7月16日。
弘山さんから、お礼のメールが届いた。
じっさいに返信をいただい(てしまっ)た事実に衝撃を受けながらも、どこかでこうなることを予想していたところもあった。

見えない力が、バラバラだった糸を束ねて、何かを編み始めようとしている。

半年前、第95回箱根駅伝をきっかけに、私が鉛筆画家のkeikaさんと知り合ったことも、もはや偶然とは思えなかった。
当時は私の勝手なわがままに思えたけれど、彼女の素晴らしい作品を寄贈することは、今、このとき、必ず彼らの力になるに違いない。

弘山さんに、もう一度メールを書いた。
私の勝手な希望だけれど、プロジェクト応援のために、鉛筆画家の方に相馬くんの箱根駅伝を走った姿を描いていただき、ご本人に寄贈したい。権利関係については全てクリアするようにするので、相馬くんに打診してもらえないでしょうか、と。

弘山さんが相馬くんに意思確認をしてくれて、制作OKのメールをいただいた。

その日のうちに、keikaさんに連絡を取った。
筑波大学箱根駅伝復活プロジェクトに起こったことを、簡単に説明した。
keikaさんは、すぐにOKしてくださった。
彼女は、この年の4月に自由美術協会の会員となり、本格的に画家としての活動を始めていた。
「クライアント」として正式に絵の制作を依頼することで、彼女のスタートアップを応援できることも嬉しかった。
予算を聞かれたが、鉛筆画の相場は全くわからない。いくらでも払うので値段をつけてくれ、とお伝えしたら、他の作家さんの作品の値付けなどから、大体の相場を教えてくれた。
その値段でお願いします、と即決した。

制作の参考にしてもらう写真は決めていた。
弘山さんから返信が来たその日、クラウドファンディングのサイトに相馬くんの2回目の手記が掲載された。
箱根駅伝に出場したときのことをつづったものだ。
その手記に、芦ノ湖のゴールシーンの写真があった。

画像2

(画像は上記手記より引用)

すばらしい躍動感。
これしかない。
撮影者は「松尾/アフロスポーツ」と記されていた。
アフロスポーツ。スポーツ記事の写真で時々見る名前だ。

調べたら、プロのフォトグラファーチームだった。
法人なので、写真の利用許諾に関するガイドラインをきちんと設けているはず。どうしたら利用させてもらえるか相談しやすい。ビジネスだから有料になるだろうが、その方が条件がはっきりしていて安心だ。
権利関係で、筑波大学と相馬くんに絶対に迷惑をかけるわけには行かない。

写真利用についての問い合わせ文を書き始める。
「利用したい」という用件だけでもよいのだろうが、ビジネスとはいえ、相手も人である。大切な作品を貸し出していいと思ってもらえるよう、こちらの状況もできる限り説明したほうがいい。
筑波大学のクラウドファンディング支援者であることや、写真の利用用途について詳しく説明し、権利関係については、ご教示を仰ぐ形で問い合わせメールを送った。

私が一番心配していたのは「箱根駅伝」に関する写真の二次利用について、どの範囲まで許諾が必要なのか、ということだった。
撮影した写真そのものの著作権は「アフロスポーツ」さんにある。
写真に写っている相馬くんには肖像権がある(この部分は本人許諾によりクリアしている)。
しかし、アフロスポーツさんは、箱根駅伝の運営サイドから委託、または許諾を受けて撮影しているだろう。問い合わせはアフロスポーツさんだけに収まらない可能性があった。

数日後。アフロスポーツさんから返信が届いた。
写真の二次利用については、所定の料金を支払えば利用可能とのことだった。ただ、「報道目的」で撮影しているので「アート作品への二次利用」については、主催者の「関東学生陸上競技連盟」へ確認をしてほしい、との回答だった。

やはり、そうきたか…
関東学生陸上競技連盟さんがすんなり許可してくれるだろうか。
営利目的ではないが、こうした事例は、公に問い合わせがきたら、なかなか許可しづらいものである。
はっきり言って、許可するかどうかは向こうの胸三寸である。メールでこちらの熱意を伝えるしか方法はない。

アフロスポーツさんに教えてもらった、関東学生陸上競技連盟のメールアドレスに、メールを送った。
内容は、2000字にも及んだ。
自己紹介に始まり、筑波大学のクラウドファンディングをしていること、それをきっかけに箱根駅伝を目指す皆さんを応援していること、過去2年間、応援のために、関東学生連合のTwitterまとめを作成していること、権利関係については十分承知しており、それぞれの関係者に許可はとっていることなど…
こんな面倒な問い合わせに、忙しい関学陸連さんが対応してくれるかどうかわからない。だからこそ、持っているものを全て尽くして、誠心誠意ぶつからなければ。

結果的に、個人利用の範囲という形で許諾を得ることができた。

だが、許諾メールの差出人は、関東学生陸上競技連盟ではなかった


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?