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56.つくばへ

チームつくばタイトル

2019年8月29日の午後。
私は、つくば駅のホームに降り立った。
つくばエクスプレスの終着駅、つくば駅は地下にある。改札を出て地上に向かう。

当日はどこに行って誰をたずねたらいいか、事前に弘山さんに確認したところ、つくば駅まで迎えに来て下さるという。
イヤイヤイヤイヤ、恐れ多すぎる…(;゚Д゚)

しかし、すぐに思い直した。
それよりも、遭難してご迷惑をおかけするわけにはいかない
なにしろ筑波大学は、舞浜にある夢の国の5倍もの広さがあるのだ。
何も知らない人間がウッカリ足を踏み入れたら、生きて帰ってこれないかもしれない(割と本気です)。

ありがたくご厚意を受けることにした。

待ち合わせ場所のバスターミナルで待っていると、白いワゴン車がやってきた。あれはたしか、クラウドファンディングの資金でリース契約した車では…?
車は、バスターミナルの横にある一般駐車場に止まった。運転席から弘山さんが現れて、こちらに向かってきた。慌てて車の方へ向かい、挨拶する。
前年の箱根駅伝予選会のとき、はじめて弘山さんにお会いした。
その時は気づかなかったが、こちらに歩いてきた弘山さんの身のこなしは、明らかに普通の人とは違っていて、かつてのトップアスリートの面影を感じさせた。

弘山さんは来訪のお礼をおっしゃってくださったが、お礼を言いたいのはこちらの方である。いろいろ大変なときに、私の勝手な想いでお手を煩わせてしまい、申し訳ない。
それにしても、クラファンで調達したワゴン車に、まさか自分が乗る日が来るとは思ってもいなかった。
支援者の皆さんの想いが詰まった車だ。心の中で手を合わせながら乗りこんだ。
車は大通りに出て、北に向かった。

「今日はまだ、全員こちらに戻っているわけではないんですが、大体揃っていますので」
「はい」
そうだ、あのことを言わなければ…
「すみません、絵を渡すときに、3分ほど学生の皆さんにお話をする機会をいただけないでしょうか」
「あぁ、もちろん大丈夫ですよ!」

プロジェクトと出会って2年半。話したい事は沢山、たくさんあった。でもそれは、ほぼ全部自分の妄想だ。
自分が話したいことではなく、学生さんが知りたいことは何か、を必死に考えた。それをテキストにして、声に出して読んで、時間を計って、直して、また読んで、を何度か繰り返し、3分以内に収まるように調整した。
つくばに向かう電車の中でも、プリントしてきたアンチョコを見ながら、ずっと反復してきた。
だが、その場になったら、全部吹っ飛びそうな気がしてきた。
そのときはしかたない、出たとこ勝負はいつものことだ。

「お、あそこで自転車こいでるの、相馬ですよ」
弘山さんの声に目を上げると、いつの間にか、筑波大学の敷地内に入っていた。道の両側に街路樹がうっそうと茂っている。
車の前を、自転車が数台走っていた。集合時間に合わせてグラウンドに向かっているようだ。その中にリュックを背負ってペダルを漕ぐ相馬くんの姿があった。他の学生さんたちもみな、いい勢いで飛ばしている。筑波大学は、校内移動するにも自転車が必須なのだ。
彼らの横を通り過ぎて、そのまま脇道に入ると、大きな駐車場があらわれた。一番手前のエリアに車は止まったが、木々で区切られている向こう側にも延々と駐車場が続いている。
いったいここ何百台入れるんだ。まるで高速道路のパーキングエリアじゃないか。
とにかく、筑波大学は何でもスケールがでかすぎる。

弘山さんに案内され、私は筑波大学の陸上競技場に足を踏み入れた。

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