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自筆証書遺言書保管制度で死後の意思表示を確実に

自分の死後、財産をだれにどれだけどのようにして渡すかという意思表示をするものが「遺言」です。
 
民法上、遺言にはいくつかのやり方がありますが、「自筆証書遺言」がもっとも簡単で費用もかかりません。
その反面、次のようなデメリットもあります。
 
①形式(法的要件)に不備があると無効になる可能性がある
②紛失したり破棄されたりするリスクがある
③死後、発見してもらえないこともあるというリスクがある
④偽造や改ざんをされるリスクがある
⑤遺言者の死後、家庭裁判所での検認が必要であり、時間や手間、費用がかかる


1 自筆証書遺言書保管制度の概要


自筆証書遺言のデメリットを解消し、相続手続きを円滑に進めるため、2020年7月から「自筆証書遺言書保管制度」が始まりました。

(1)自筆証書遺言書保管制度とは


法務局が、自筆証書遺言を預かり保管する制度です。原本は遺言者の死後50年、画像データ化したものは遺言者の死後150年保管してもらえます。

(2)メリット

①形式要件を満たしているかチェックしてもらえる
法務局に保管を申請する際、遺言書が法律で定められた形式要件を満たしているかどうかを確認してもらえます。そのため、形式不備による無効化のリスクを減らすことができます。
 
②紛失・改ざんの防止
法務局で遺言書を保管するので、遺言書の紛失・亡失のおそれがありません。
また、相続人等の利害関係者による遺言書の破棄、隠匿、改ざんなどを防ぐことができます。
 
③検認手続きが不要になる
家庭裁判所での検認手続きが不要になります。そのため、相続手続きをスムーズに進められます。
 
④相続開始後、相続人等は、全国の法務局で遺言書の閲覧や遺言書情報証明書の交付を受けることができる
相続開始後、相続人等は、全国どこの法務局でも、データによる遺言書の閲覧や、遺言書情報証明書の交付を受けることができます。
ただし、遺言書の原本の閲覧は、原本を保管している遺言書保管所に限られます。
 
⑤遺言書の存在を指定者に通知してもらえる
遺言者の希望により、遺言者の死亡後、法務局から指定者に対し、遺言書が保管されている旨を通知する制度があります。通知する相手は3名まで指定できます。
そのため、遺言書の存在が知られないことを回避できます。

2 自筆証書遺言書保管制度の形式要件


つぎのような要件を満たす必要があります。

(1)自筆証書遺言の民法上の要件


①遺言書の全文、作成日付、遺言者の氏名を、必ず遺言者が自書し、押印します。代筆やパソコンなどで作成したものは無効になります。
また、遺言書の作成日付は、日付が特定できるよう正確に記載します。たとえば、「令和3年3月吉日」は、具体的な日付が特定できないので不可です。

②財産目録は、パソコンで作成したり、不動産(土地・建物)の登記事項証明書や通帳のコピーなどを添付したりしてもよいです。
ただし、その目録のすべてのページに署名押印が必要です。

③書き間違って訂正したい場合や、内容を書き足したい場合は、方法が決められています。
その場所が分かるように示したうえで、訂正または追加した旨を付記して署名し、訂正または追加した箇所に押印します。

(2)自筆証書遺言書保管制度の要件


①用紙についてはつぎのとおりとします。
・サイズは、A4サイズにします。
・記載した文字が読みづらくなるような模様や彩色がないものにします。一般的な罫線は問題ありません。
・最低限、上部5ミリメートル、下部10ミリメートル、左20ミリメートル、右5ミリメートルの余白をそれぞれ確保します。

②片面のみに記載します。両面に記載したものは不可です。

③各ページにページ番号を記載します。ページ番号も必ず余白内に書きます。
(例)1/2、2/2(総ページ数も分かるように記載します。)

④複数ページある場合でも、ホチキスなどで綴じないで提出します。封筒も不要です。

(3) 自筆証書遺言書保管制度において求められる遺言書の記載上の留意事項


①消えるインクなどは使用せず、ボールペンや万年筆などの消えにくい筆記具を使用します。

②遺言者の氏名は、ペンネームなどではなく、戸籍どおりの氏名(外国籍の場合は公的書類記載のとおり)を記載しなければなりません。

3 遺言者の手続き

遺言者は、法務局へ、自身の自筆証書遺言の保管を申請し、遺言書を預けることができます。
一度保管した遺言書は、保管の申請の撤回をしない限り、返却されません。

(1)自筆証書遺言の作成


遺言者自身が自筆で作成する必要があります。
遺言の内容について不明な点があれば、弁護士などの専門家に相談しましょう。法務局では遺言の内容についての相談には応じられません。

(2)保管の申請をする法務局を決める


遺言者の住所地、遺言者の本籍地、遺言者が所有する不動産の所在地のいずれかを管轄する法務局から選択します
ただし、2通目以降、追加で保管の申請をする場合は、最初に保管の申請をした法務局になります。

(3)保管申請書を作成する


保管申請書に必要事項を記入します
保管申請書は、最寄りの法務局の窓口でも入手できます。

(4)保管の申請の予約をする


手続には予約が必要です。②で決めた法務局に予約をします。
法務局手続案内予約サービスの専用ホームページまたは予約したい法務局の電話又は窓口で予約します。

(5)遺言者本人が法務局に行って保管の申請をする


①予約した日時に遺言者本人が、法務局に行きます。

②持参が必要な資料
・遺言書
・保管申請書
・住民票の写し等(本籍及び筆頭者の記載があり、マイナンバーや住民票コードの記載のないもの)
・顔写真付きの官公署から発行された身分証明書(有効期限内の運転免許証、マイナンバーカードなど)
・手数料:遺言書1通につき3,900円を収入印紙で納付します。

(6)保管証を受け取る


保管証には、遺言者の氏名、出生の年月日、手続を行った遺言書保管所の名称と保管番号が記載されています。
 
なお、遺言者は、遺言書の保管をとりやめたい場合、預けている法務局に対して、遺言書の保管の申請の撤回を行うことができます。本人が申請する必要があります。預けていた遺言書は返還してもらえます。

4 相続人、受遺者の手続き


相続人等の手続は、遺言者の死亡後(相続開始後)でなければ行うことができません。

(1)遺言書保管事実証明書の交付の請求


遺言者の相続人である場合は、特定の遺言者の遺言書が保管されているか確認できます。
相続人でない場合は、特定の遺言者の遺言書が、請求者を受遺者や遺言執行者とするものとして保管されているか確認できます。
手続できる方は、相続人、受遺者、遺言執行者、法定代理人(親権者や後見人など)です。
手数料が800円かかります。

(2)遺言書情報証明書の交付の請求


遺言書の画像情報が印刷された証明書で、遺言書の内容を確認できます。遺言書原本の代わりとして使用できます。
手続できる方は①と同一です。
手数料は1,400円かかかります。

(3)手続き


①法務局を選択する
全国の法務局で手続きが可能です。最寄りの法務局を選ぶことができます。
 
②交付請求書を作成する
交付請求書に必要事項を記入して作成します。
 
③予約を取得する
法務局の予約を取ります。予約は必須です。
なお、郵送で請求することもできます。
 
④予約した法務局へ行く
予約した日時に必要書類を持参して交付請求手続きをします。
 
⑤証明書を受け取る
身分証明書で本人確認を行い、証明書を受け取ります。
郵送で受け取る場合は、住民票上の住所あてに証明書が送付されます。
 


 
以上の詳細は法務局のウェブサイトを確認するか、最寄りの法務局で相談することができます。
自筆証書遺言書保管制度は、自分の死後、財産について自分の意思表示をより確実に行うために活用できるでしょう。

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