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アドバンス・ケア・プランニングで人生の最終段階に備える

厚生労働省「令和4年度人生の最終段階における医療・ケアに関する意識調査報告書」から引用します。

① 人生の最終段階での医療・ケアについて家族や医療従事者などと話し合ったことがない人は68.6%
② ①の理由は「話し合うきっかけがなかったから」が最も多い
③ 人生の最終段階の医療・ケアについて家族や医療従事者などとあらかじめ話し合うことに賛成の人は57.3%
④ 自分が意思決定できなくなったときに備えて意思表示の書面(事前指示書)をあらかじめ作成することに賛成の人は69.8%
 
終末期の患者の約70%が医療・ケアをどうしてほしいか意思表示できなくなっているといわれています。
実際に事前指示書を作成している人もごくわずかです。
したがって、人生の最終段階で受ける医療・ケアが自分の意思に沿っていない方々が少なからずいるという可能性があります。
 
そこで、アドバンス・ケア・プランニング(ACP)という取組みが提唱されてきました。
厚生労働省は、2018年に「人生会議」という愛称を付けて普及に努めています。

 
アドバンス・ケア・プランニング(ACP、人生会議)とはどのようなものか、どのようにすすめていくのかなどについてお話しします。


1 アドバンス・ケア・プランニングとは


末期がんや重い病気、脳血管疾患の後遺症、老衰などにより、回復が見込めず死期が近づいた、人生の最終段階を迎える。そのときに自分の意思に沿った医療・ケアを受けるために、家族などの身近な人、医療従事者などと事前に話し合う取り組みです。
 
(1)目的
患者本人の意思や希望を尊重した医療・ケアを行えるようにするために実施されます。
命の危険が迫っているときには、延命措置も重要な選択肢の1つになります。
しかし、患者本人の人生観や価値観によっては延命措置を差し控える必要がある場合もあるのです。
 
(2)実施内容
人生の最終段階に受ける医療やケアについて、本人、家族、医療従事者などが集まって繰り返し話し合います。そして、本人の意思や希望を共有します。
その際、医療従事者などから専門的な情報提供や説明を受けながら意思決定を進めます。
 
(3)タイミング
話し合うタイミングはとくに決まりはなくケースバイケースになります。
健康なうちに家族やかかりつけの医師などと話し合いをしておくとよいでしょう。
また、命に関わる病気にかかったときや病気の完治が難しいといわれたときなどは、話し合うタイミングとなりえます。
ただし、なかには人生の最終段階のことは考えたくないという人もいます。あくまで本人の意思を尊重することを優先すべきです。
 
(4)事前指示書との違い
事前指示書はあらかじめ文書化された患者の意思表示であり、家族との話し合いにもとづかなくても作成できます。
そのため家族の意向と異なるケースもありえます。
内容によっては医療・ケアの観点から実現不可能の場合もあります。
一方、アドバンス・ケア・プランニングは、家族や医療従事者などとの話し合いをもとに本人の意思決定が行われます。
そのため、本人の希望が家族にも受け入れられやすく、医療・ケアの観点からも実施されやすくなります。

2 アドバンス・ケア・プランニングの進め方


厚生労働省の人生会議のツールも参考にしながら説明します。

(1)大切にしていることは何かを考える


自分が生きるうえで大切にしていること、人生の最終段階に希望する医療やケアなどについて価値観や希望を整理します。
 

(2)信頼できる人はだれかを考える


自分が意思表示できなくなったときに、自分が受ける医療やケアについて自分の代わりに意思決定してほしい人はだれかを考えます。
自分が信頼でき、意思を共有できる人を選ぶことが重要です。
つぎのようなポイントを考慮するとよいでしょう。
・家族や親しい友人、パートナーなど、円滑でオープンなコミュニケーションがとれる人
・自分の希望や価値観を理解してくれる人
・長い付き合いがあり信頼できる人
 

(3)信頼できる人や医療従事者などと話し合い、共有する


信頼できる人や医療従事者などとつぎのような点について話し合い、自分の希望を共有してもらいます。
自分の意思を明確に伝えることが大事です。
・望む医療やケアの内容
・家族の負担を軽減するための配慮
・延命治療の有無
・痛みの対処法
・経済的な配慮
 
また、厚生労働省は「人生の最終段階における医療・ケアの決定プロセスに関するガイドライン」を策定しています。
人生の最終段階を迎えた本人や家族などと医療・ケアチームが、最善の医療・ケアの合意形成をするためのプロセスを示しています。

3 アドバンス・ケア・プランニングの留意点


アドバンス・ケア・プランニングの留意点はつぎのとおりです。
 

(1)早めに取り組む


健康なうちから早めに考え始めることが理想的です。
元気なときに始めればあわてず冷静に考えることができます。
 

(2)情報収集をする


医療やケアの選択肢について情報収集し、それぞれのメリットやデメリットを理解することも大切です。
 

(3)文書化する


話し合いの内容は記録して書類を作成し、家族などの関係者と共有しておくとよいでしょう。
 

(4)適宜見直しをする


話し合いは一度で終わるものではありません。
考え方や心身の状態の変化に応じて何度も繰り返し行うことが大切です。
常に最新の希望が反映されるようにしましょう。
 

 
アドバンス・ケア・プランニングは、本人の希望を尊重し、人生の最終段階まで自分らしい人生を送るために必要な取り組みです。
多死社会に向けて亡くなる人の増加やインフォームドコンセントの限界が課題となるなかで注目されています。
先述の厚生労働省のツールなどを活用して、まずは自分の考えや希望を整理することから始めましょう。
そして親しい人や医療従事者などに相談して自分の希望を共有しておけば、心配や迷惑をかけずにすむ可能性が高くなります。
安心して人生の最終段階を迎えるために多くの方々が取り組むことが期待されます。

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