なぜ私はクズ男ばかりに引っかかるのか〜浮気編〜
「俺がイクまで玄関で待ってて」
知らない女の喘ぎ声に、彼氏である男の吐息に、気が狂いそうになる。
落ち着くために吸った煙草を持つ手が、これまでにないほど震えていた。
忘れもしない、
人生で初めて、本気で「死にたい」と思った日だ。
浮気男
「実は俺、彼女いるんだよね」
私が浮気相手なのだと聞かされたのは、出会って少しした日のことだった。
3日間も私の家に泊まり、散々セックスした後に言うことか?とは思ったが、あまり驚きはしなかった。
「眉目秀麗」
まさに彼のためにあるような言葉だ。
あれだけ散々な目に遭ったにも関わらず、顔だけは文句がつけられない。
そんな彼に恋人がいないと希望をもつほど、私も馬鹿ではない。
週末には連絡すら取れなくなることにも、右手薬指ついてる指輪にも、明らかに誰かとお揃いのスマホケースにも、
ただ、気付かないふりをしているだけだった。
だからといって、手を引くわけではない。
彼のことが好きだった。
彼女持ちの男に対してどう立ち回ればいいか熟知していたし、自分には勝算があると自負していたからだ。
案の定、「彼女がいる」と聞かされた2ヶ月後には、その男は私の彼氏になっていた。
付き合ってからも、常に女の影が絶えない男だった。
「浮気なんてする男、とっとと別れなよ」なんて友達にも散々言われたが、何人女がいようと、毎日私の家に帰ってきてくれて、罪滅ぼしだとしてもたくさん優しい言葉をかけてくれる彼を手放したくなかったのだ。
普通なら証拠を集めたり、問い詰めたりしそうなものだが、私は絶対にそんなことをしない。
何より一人になるのが怖かった。
問い詰めてうざがられて捨てられるくらいなら、どんだけ浮気されても側にいてくれる方が良い。
一人で泣く夜はあっても彼の前では常にニコニコして何も気づいてないフリをし続けた。
浮気性なところ以外は、これと言って嫌なところはなかった。
週末は必ずどこかに連れて行ってくれたし、私が「これしたい」「あれしたい」と言えば全部叶えてくれた。
はたから見たら、仲の良い普通のカップルに見えていただろう。
交際期間は1年を過ぎようとしていた。
その期間何度も女の影を感じることはあったが、それ以外は順調だったと思う。
そんな安定した幸せが、唐突に崩れる瞬間がやってきたのだ。
その日はいつも通り仕事を終えて、スーパーに夜ご飯の材料を買いにいった。
リクエストを聞こうとしたが、電話に出なかったので適当に買って帰ることにした。
玄関を開けた瞬間、すぐに違和感に気づいた。
姿は直接確認できないものの、玄関にあった見覚えのないヒールだけで悟るには十分だった。
彼の喜ぶ顔を想像しながら夜ご飯の材料を買っていたとき、彼はその行為に夢中だったかと思うと言い表せない感情が湧いた。
その一方で何故か頭は冷静で、「音で気づいただろうから、服着たりする時間は必要だろう」と3分くらい玄関で待ってからリビングの扉を開けた。
そこで待ち受けていた光景は想像を遥かに超えるもので、吐き気がした。
私が帰ってきた音には気づいたはずなのに、依然として2人は裸で抱き合っていたのだ。
絶句して何を言えず佇んでいる私に、彼は悪びれもせず一言。
「俺がイクまで、玄関で待ってて」
悪夢だとしてもタチが悪すぎる。
とりあえず私は溢れ出る感情を抑え、言われた通り玄関に戻り、煙草に火を付け、女の喘ぎ声と、時折聞こえる彼の吐息を聞きながら、ただただ「早く終わってくれ」と願った。
そこに、「出て行く」と言う選択肢はなかった。
それがプライドかは分からないが、今思えばこの状況でプライドもクソもない。
ようやくことが終わったのか、「今日は帰るね」と女の声が聞こえた。
怒りに震えながらも少し浮気相手の顔を見た。
感情とは裏腹に、すごく綺麗な女の人だと感じた。
「送ってくるから待ってて」
まだこの状況で私が待たされるのかと憤りを感じたが、いち早くあの女の名残りを消したかったので、何も言わなかった。
部屋に戻り、シーツを全部剥がしゴミ袋にまとめた。
浮気相手と使ったコンドームがベットサイドのティッシュの上に丁寧に置かれていたので、トイレに捨てた。
なぜ私が一人にされたんだろう、私のこと好きだったわけじゃないんじゃないか、付き合ったとは言え最初から都合の良い女だったんじゃないのか、
一気に押し留めた感情が溢れ、涙が止まらなかった。
自分は生きる価値のない人間にさえ思えた。
人生で初めて、本気で「死にたい」と思った。
ようやく帰ってきた彼は、謝るわけでもなく、泣き狂う私を慰めるわけでもなく、「お前が仕事ばっかりで寂しかった」と言い放った。
それに対して私は、
「浮気は目を瞑ってきたけど、家に連れ込むのだけは二度とやめてね」
そう言うのが精一杯だった。
ありえない!なんで別れないの!よく許せるね!
みんな思っていることだろうし、友達にも散々言われた。
だがこの頃の私は「彼を失ったら生きていけない、私が寂しい思いをさせてしまったからだ、もっと私がちゃんとしてれば彼は浮気しなかったかもしれない」と本気で思っていた。
それからの私は異常なほど、彼を束縛した。
携帯は新しく変えて今までの連絡先は全部消してもらい、位置情報など、彼が今どこで何をしているのかは常に把握していた。
私は玄関を開けるたびに過呼吸を起こしていたし、あの日のことが夢に出てくるようになって睡眠薬は手放せなくなったし、3分LINEが返ってこないだけで気が狂いそうになった。
あれだけのことをされたし、これくらいは束縛して当然だと思った。
ここまでボロボロになっても、別れたいと思ったことはなかった。
当然だが、こんな生活がいつまでも続くわけない。
別れは本当に突然にやってきた。
「もう限界。他に好きな人ができた。しんどい思いばっかりさせて、本当にごめんね。」
泣いて縋っても、彼の意思を変えることは出来なかった。
こうして幕を下ろしたその男との恋は、その後の恋にもかなり影響した。
彼氏とちょっと連絡が取れないだけで「浮気だ」と発狂してしまうし、玄関に自分のものじゃない女物の靴があるだけで泣き狂ったこともある。
久しぶりにこの男のことを思い出し、書き綴った。
思い返せば、幸せな時も確かにあったと思う。
しかし大半は辛いことの方が多かった。
今思い返せば、何故あんなに馬鹿なことをしていたのだろうと思うが、当時の感覚からすれば、それは当然で必死だったのだ。
このような感覚は私の恋愛にはつきもので、特に身体的にも精神的にも一番辛かったのが、DV男だ。
「お前のことを愛してるから、殴ってしまうんだよ」
この言葉を受け入れ、限界になるまで愛した男の話に続けようと思う。
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