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美人姉妹効果〜作曲とピアノの腕の関係

ピアノの先生からこう言われたことがあります。「ラヴェルは作曲家だけど、ピアノも上手かったんですよぉ〜。だからミヤカワさんもね……(もうちょっと練習してね、の意味)」 

そこで気になるのが、自作自演ピアニストたちのピアノの腕前。とくに、録音が普及してなかった昔はどうだったんでしょう? 

私は音楽の専門教育を受けていません。だからこその支離滅裂な私見を、今日は書いてみようと思います。

まず前提として。近年のストリーミングの普及で、「ピアノの神さま」の概念は根底から崩れてしまっています。5-6年前までは、CDショップや図書館の棚に何年何十年と居座る「すごいピアニスト」は、ごく一握りの、誰もが知っている数人ばかりでした。

代表はホロヴィッツ様とか、アシュケナージ様とかですね。

ところが昨今は、ショパン・コンクールやチャイコフスキー・コンクールのような最高峰で優勝してさえ、ニュースになるのはせいぜい2日。3日目には忘れ去られるといいますから、昔のあの熱狂ぶりは何だったのか……。

今どきのクラシック・ピアノ最前線と言えそうなApple Music公式プレイリストPiano Chill↓を見ても、目を引くのはイルマとか、キース・ジャレット。つまり、ショパンみたいな自作自演の人が大半なんですね。もちろん、昔ながらの、前時代の定番曲を弾く現代の優等生ピアニストたちも、普通に入ってはいますけれど……。(ラン・ランさん、福間洸太朗さんなど)

この自作傾向のため、私こと Mikiko Miyakawaですら、昨年のアルバム発売時にはこの↑公式プレイリストに入れていただいてました。同期はマックス・リヒター様、ルドヴィコ・エイナウディ様など。

そうです。CD物流という恐竜が去り、鳥よりも身軽になった音楽業界は、新人・新譜を週替わり・月替わりでじゃんじゃん紹介してくれるようになったのです。

モーツァルトやショパンの頃のサロンや宮廷も、きっとこんな感じだったんでしょうね。そこで、私が独断で作った昔の作曲家のピアノの腕カテゴリーと曲分析を。

文句なくピアノの名手だった作曲家

ショパンリストは間違いないですね。ほぼ何のツテもなくパリに乗り込んだショパンが瞬く間にサロンで人気になったのは、類稀なピアノの腕の賜物。リストとのジョイント・コンサートでは、帰りの馬車にファンが群がって、動けなかったとか。

ショパンはリストのように大きな音が出せなかったので、二人のジョイントはナイス・アイディアでしょう。

ラヴェルについては、先生談↑以外よく知らないのですが……。アメリカへの演奏旅行でもスタンディング・オベーションになったというし。YouTubeを聴く限りでは、名手の部類?

ピアノが微妙な作曲家

ドビュッシー、ラフマニノフ、モンポウ。ドビュッシーの両親は彼をピアニストにしたくて、何年もコンクールに出させ続けましたが、いつも2位止まり。

ラフマニノフも親の期待は同じく。彼は作曲にしか興味がありませんでしたが、アメリカに亡命して後、収入のために無理して練習したそう。私は自演CD(YouTube)を持っていて、凄腕とは思いますが……。ホロヴィッツ様のラフ3と比べるとやはり「餅は餅屋」かな?というところ。

モンポウも自演CDのセットを持っていて、彼の曲には彼の演奏がお似合い。味のあるユーミンの唄みたいな感じでしょうか。

ピアノが疑問な作曲家

ブラームス、シューマン、フォーレ。ブラームスは、伝記によれば「興が乗ると天才的な閃きで演奏したが、そうでない時は酷かった」らしいです。残っている録音も酷いノイズで、演奏ももしかして酷そう?な気がしてきます。 

シューマンは、クララと結婚する前に練習しすぎで腱鞘炎になり、指が曲がってもつっかえ棒を入れてまだ弾いていた……などと聞くので、なんだか悲惨なイメージ。

フォーレは、上手くはありましたが、ソロで弾くほどではなく、晩年は愛人との連弾で演奏旅行していた、といった話を読んだことがあります。

曲とピアノの腕の相関関係

まず、ピアノの名手の曲について。当たり前なんですが、ピアノの上手い作曲家は、自分の曲は「上手く弾かれるのが当然」と思っています。ゆえに下手に弾いたら目も当てられませんw

元祖ピアノの名手モーツァルトのこちらをお聴きいただけば明らかなので、ぜひ。

悪評も多いグールドのモーツァルトですが、私は支持派。なぜって、食パンみたいにプレーンなモーツァルトの曲の真髄に迫っているから。プレーンな曲は、才ある演奏家ならイマジネーションを掻き立てられ、技術を見せつける名演も生まれるでしょうが……そうでない私のような者に対しては不親切。

グールドの演奏はモーツァルトの盲点をえぐっていて、嬉しくなります。ショパンもラヴェルも、上手い人が流麗に弾いてこそ……。

その点、「微妙カテゴリー」の作曲家の曲なら、下手でもポロロン♪と弾くだけでサマになる仕様です。コンビニの調理パンみたいに、ちょっと温めれば絶品。最低限の強弱さえつければ、曲が魅了してくれますから。私もピアノ再開して初めての発表会にドビュッシーの”夢”を弾き、未熟さは隠しおうせたつもりでいます。

ラフマニノフもモンポウも、弾きさえすればツウな雰囲気を醸せると思いませんか?

「疑問カテゴリー」の曲なら更に便利。例えるなら有名ベーカリーのペストリーです。フォーレの連弾曲なんか、どんな演奏でも素敵↓。どう弾いてもきれいに聞こえる音の並びに仕上げてあるのです。

ブラームスもシューマンも、ボロボロだってカッコいい!

以上、めちゃくちゃな分類をしましたが……。「腕が疑問な作曲家」とはいっても、凡人とは一線を画す名手ではあったでしょう。また各カテゴリーの曲それぞれに良さがあるのは言うまでもありません。近ごろは食パンも行列の人気。

まとめ〜上手くても上手くなくても

アメリカ人は、ピアノを3回弾いたことがあれば「私はピアノが上手い」w。

大した演奏であってもなくても、プレイリストに上手い人と一緒に混じればアラ不思議。なぜか名演に聴こえるのが、ネットの恩恵です。試しに雰囲気の近いピアニストの曲と自作を混ぜてみてはいかが? 名づけて「美人姉妹効果」。またはジャニーズ効果。またはAKB効果……。

例えば私の曲”A Day of Wine and Grape” は、世界クラシックCD売上No.1のNaxos選曲による下記プレイリストに↓。他が名手ばかりなので、私みたいな劣等生でもセーフ?

こちらも半分近くは若い自作自演ピアニストなので、「世界のクラシックの今」がわかります。フィリップ・グラス、映画”アメリ”のヤン・トリーセンなど。(Spotify はアイコンからサイトに飛べば無料フル試聴可)

最後に……。もしもショパンを目指すなら、演奏でも、作曲でも、外見でも、トークでも、自分の得意な部分にフォーカスすれば大丈夫な時代です。

例えば、ピアノが上手いだけだった可愛い女性がYouTubeの良い演奏ですごいアクセスを得て、コンサートを開けば有名プロのコンサートより大入りだそうです。今の時代ならではですね♡

番外編〜楽器とピアノの腕の関係

昭和のひところは、普通のシンセでは重音が出せなかったんです。当時で100万円くらい出せばポリフォニックはあるにはあったので、「お金があるほど上手くなる」が常識でした。

ところが、20万円ほどで6重音が出せる画期的なCORG Polysixが発売。私も飛びつきました。なんと、この頃はMIDIが存在しなかったので、かのキース・エマーソン様もMIDIオーバーホールをして今も愛用なさっている名器です。

なんで唐突にこんな話かというと、お金と腕前は関係ないでしょ?と言いたいから。

かくいう私も、中古のアップライトしか持ってないのが引け目で……。あれこれ調べたところ、憧れのリヒテル様も、高い楽器を持ってなかったと知りました。

自宅の居間には、来客の誰もが弾けるように、調律の合ってない質素なグランド・ピアノ。自室の練習用はこれまた調律の狂ったアップライトだったとか。

またある時、リヒテルがコンサートの当日練習のために音大を訪れ、「ピアノを貸して欲しい」と頼みました。学校側は「すぐにグランド・ピアノを用意しますのでお待ちを」と申し出たところ、「その辺のアップライトでいいから」と、空いていた練習室に入ってしまったそうです。もちろん本番はバッチリ。

楽器については、チョコレートみたいにsweetな自作自演ピアニストmusic chocolateさんも、こんな風におっしゃっています。

「良いピアノだから良いでしょ?ってものでもない」確かに……。

music chocolate さんの曲は、どれも胸がきゅーんとするような、懐かしく優しい響きで大ファンです。まだでしたらぜひ!

ちなみに、何のグランド・ピアノも持ってない私は、いつも本番の数日前からスタインウェイを借りて練習してます。べつに不都合は感じませんね、負け惜しみかもしれませんがw

もしも私と同じ人がいたら言いたいです。ある人にはある。ない人にはない。それでもなんとかしようとするから面白いんじゃないかな?と……。

冒頭の写真は”音楽の友ホール”にて、昨年末のジョイント・コンサート。よく調べないでスタインウェイで練習していったら、ベーゼンドルファーだった!