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花の仕事

仕事を辞めちゃった。
仕事内容はとっても好きなことだったのに…毎日、こんな状態で、最低賃金…。Wワークにしたら何とか暮らせると思ってたけど、体力が残らない。
休憩は実質取れない。
飲み物もお手洗いも行ってたら間に合わない。

でも、上の人は全然それを理解してない。
効率をあげる為の提案をずっと先輩にしてきてるって言ってたけど、それを先輩が2年間出来てこなかった原因の解明をこの職場はしてきたのだろうか…。

先輩の手は旅館のシンボルである、杉のアレンジメントの手入れにより杉アレルギーで酷い状態だった。2年間虫刺されの薬を手に塗り続けたらしい。
私もこの日、酷い杉アレルギーを体験した。杉を触った皮膚は痛み、目を擦ったため顔は半分腫れ上がって、高熱が出た。翌日は左目から大量の膿が出た。

直属の上司には杉アレルギーが出たことと、先輩も杉アレルギーであることを伝えた。上司は先輩から「杉アレルギーの報告は一度も受けてない」と言った。
2年間一緒に仕事をしていたはずなのに、あの手を見ていない?
1日一緒に仕事しただけで何かのアレルギーであることは気づくだろう。
もしかしたら、私が辞めた今も先輩は杉の手入れをしているのかもしれない。

先輩は仕事中、しきりに「やばい…怒られる」という呟きを繰り返していた。ずっと。

杉アレルギーが出たこの日、初めて私は旅館の花の仕事を1人でした。
たくさんある旅館の部屋で二部屋分花器が足りてないことに気づいた。直属の上司に電話をかけた。
その日、私が初めて1人で仕事をした日、直属の上司は山奥に花材になる草木を取りに行っていた。
電話をかけてもしばらくは電波が通じず繋がらなかった。
チェックインは午後2時…先輩がチェックインまでに部屋に花を入れないと怒られると毎日呟いていた。
頭は真っ白になった。

後々、思えば何故わざわざこの日に直属の上司は山奥に花材を取りに行かなければならなかったのか。…分からない。

この日の夜、杉アレルギーで高熱を出しながら考えた。女将さんは私にパートとして3ヶ月続けたら正社員になりなさい。と仰った。
この職場で正社員になる…どう考えても良い選択とは思えなかった。
いくら、花が好きでもこんな環境下で美しく花を生けれるとは私には思えなかった。

私は次の日、出勤して少し先輩と話をして仕事を辞めた。

先輩は花の仕事にこだわりすぎてなかなか仕事を辞めれずにいるんだと言っていた。
最後に先輩と2人で里桜の花の枝を切った。
海風の穏やかなとても天気の良い日だった。
花びらはひらひらと風に乗って流れた。
先輩がいつかもっと良い場所で花の仕事が出来ることを祈っている。

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