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何を考え、どう生きていくのか(#週末のおさんぽ - 庭園美術館)

「センスを磨くにはどうしたらいいか?」そんなことを問われると、手も足もでない気になる。

そんな言葉に共感してエッセイスト松浦弥太郎の『センス入門』という書籍を手に取ると、その中には、センスを磨くためのコツが書き綴られていた。

自分の無知や下手な選択に打ちのめされるような気も日なった若い時、僕はどうしていたかなと思いだしてみました。

自分の感性や美意識、別の言葉でいうと「教養」をリストアップさせるために、自分はどうしていたかなと考えてみると、一つの方法は、文化財を見て回るということです。本物に触れるという経験を積むことです。

そして文化財として大切にされているもの、将来に残していくと決めたものを、積極的に見ていくことが大切

<中略>

そして、そんなセンスの良い文章が書ける人は、毎日何を見ていたんだろううか、何を使っていたんだろうかとか、どんな音楽を聞いていただんだろうとか、そんなことを真剣に考え始めました
(『センス入門』 / 松浦弥太郎)

つまり、センスを磨くには、人々が惹かれ残したいと思った本物を見に行く、そして、当時この建物づくりに関わった人々が何を考え、どう生きてきたのかを学んでみるのが大切だ、そう私は理解した。

近くの庭園美術館へ

早速、雨の週末に、東京都が管理している庭園美術館に足を運んでみた。美術館に来るのは海外旅行を除くと数年ぶり。何をどう見ればいいか思い出しながら館内をウロウロと回り始める。

庭園美術館とは戦前にパリに遊学された朝香宮夫妻の邸宅として、当時最新の建築様式によって、1933(昭和8)年に建造されたものです。とくに内部のデザインは、壁飾りから家具、照明器具にいたるまで、アール・デコとよばれる装飾様式で統一され、そのモダンな優美さは息をのむほどです。
(庭園美術館の公式HPより)

私は、どうあがいても美術評論家になれそうにないし、その点は何も語れないので、建築やアートについての解説は、専門家に任せることにして。

私は、この屋敷の主だった允子妃さまに思いを馳せてみた。きっと邸宅を建て始めようとしたときは、私と同じ30代だったと思う。

允子妃さまに宮家の娘として嫁ぎ、日本語も英語も堪能で、アートに情熱を持っていた。夫が留学先のパリでの自動車事故で重傷を負い看病のためフランスに渡り、そこでの文化の高さに感銘を受ける。現地で学ぶ美しい彫刻やアートを日本にも持ち帰りたいという情熱をつのらせていった。

(主なき今も、ゲストを暖かく迎え入れてくれる優しい階段)

長く残るものは熱意がこもっているものだけ


朝香宮邸は、朝香宮ご夫妻の熱意と、日仏のデザイナー、技師、職人が総力を挙げて作り上げた芸術作品と言っても過言ではない建築物ということが随所から感じられる建物だった。何種類もある大理石は、岐阜や北陸、山梨など様々な産地の特殊な石や素材を取り寄せていた。

日本の最高級品の素材を一つ一つ全国から取り寄せ続ける。それを扱える職人を同じく全国から集め続ける。シンプルに家を建てるとは違う膨大な工数がかかっていることも、『美しい建築を日本でも』という強い強い思いがあったからこそ、やりきれたのだろうと思う。

1933年に建造された朝香宮邸が、今でも人々に愛されているのは、その強い思いを持ちつづけ、それをすべての素材を通じて形にしたからなんだと美しい邸宅の中で感じることが出来た。

そんな建物の中を歩きながら、将来残っていくものは一流のものだけ。考え抜かれ、それを実現するために、熱意を伝え続け、みんなに愛されたものだけが、時を越えても、守り維持されるんだなと思った。

允子妃さまわずか42歳の若さでなくなった方だけれども、もし、彼女が今でも大きく美しい庭園を案内してくれるとしたら、どんな話をしてくれるのだろう。そんなことを思いながら歩いた館内を、皆さまにも写真でお見せします。

(以下写真ギャラリー!)

(香水塔:噴水に香りをつけてゲストをおもてなしするアイテム)

(メインのダイニングルーム:天井も壁も最も豪華だった)

(排気口も美しいデザインが施されている)

(シェードランプ:美しい曲線美はアールデコの特徴)

(テラス:2種類の大理石で組まれているコントラストがきれい)


(曲線美が美しいアールデコ風なティーセット)

地域に置き換えると

街の景観を残していくためには、みんなが残したいと思う、情熱を持って考え抜かれたものしか残らないのだと思った。工業団地、大きなショッピングモールなどは時代の移り変わりと共に必要になったり不要になったりする。

私は「文化的価値」については語る力は持ち合わせていないけど、その一つを決める要素は地域から愛されていたのか?そこに当時の人の想いが入っていたか?なのかもしれないと思った。

そして、私が時を超えて、朝香宮夫妻にお家を案内してほしいなと思ったように、建物事態の価値も大切だが、その当時の人がそこにかけた思いも残していく。

次の時代の人たちも、想いを受け継いでいけるようにしていくことが、時代を超えて愛し続けられる建築や街になるための秘訣なんだなと。

いつもは行かない美術館。そこにあるものだけでなく、「その時代の人が、何を考え、どう生きてきたのか」を考えながら歩く時間は、想像以上に楽しいものだった。

もう少しで梅雨明け、みなさんも、素敵な週末を!



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