ひとりでも戦える。そんな強い「個」が集まった組織でありたい〈前編〉|MAISONETTE Inc. 山本雄平さん
こんにちは、美濃加茂茶舗です。
———成功したと言われている人たちにも、“飛ぶまでの三年"があったはず。
美濃加茂茶舗マガジン「三年、鳴かず飛ばず」は、ゲストの鳴かず飛ばず時代の考え方や過ごし方についてお聞きし、今を生きるヒントを見つけていく連載です。
今回のゲストは、星ヶ丘の「TT” a Little Knowledge Store(トド アリトル ナレッジ ストア)」や栄の「maison YWE(メゾン イー)」など人気の飲食店を経営するとともに、スタイリングや撮影、 編集、デザインを軸に広告、コンサルティングを手掛ける会社「メゾネット」代表の山本雄平さんです。(前編・後編に分けてお届けします)
フリーランスのスタイリストとして活躍したのち、30歳になる年に起業し仲間とともにメゾネットを始めた山本さん。名古屋の飲食業界で知らない人はいないほどの人気店を経営。順調に店舗を増やし、東京にも進出している現在の姿からは考えられないほど、この13年の間には経営的に辛い時期を何度も経験したと言います。
聞き手は、美濃加茂茶舗の伊藤と松下です。
会社での自分の役割は2つ。ビジョンを提示することと、ジャッジすること
伊藤:多岐にわたる事業がある中で、山本さんが全部を統括しているんですか?
山本さん:僕の役割は、私たちはこういう会社でありたい、こういう存在でありたいっていう、何をするかよりもどうありたいか、という夢を提示すること。あとはジャッジすることですね。飲食で言えば、いろんな人がいろんな「おいしい」の基準を持っている中で、メゾネットがどういう「おいしい」を世の中に出していくのか、私たちは何を良しとしてお客様に提供していくのか。定型的な正解がないものに対して、私たちなりの正解・提案を定義づけていくジャッジ。デザイン・スタイリングであれば、どういった空気感や素材感が世の中に受け入れられるのか?人それぞれいろいろ考え方がある中での最終的なジャッジを僕がするようにしています。
スタイルを持つってどういうことだろうというのは、スタイリストという肩書きを名刺に書くようになった頃から今でもずっと考えています。例えば、自分がおしゃれするだけで言えば、コンバースでもナイキでも、好きに選んで良いと思っています。でも、たとえばVANSを愛してる人って、根底にスケートボードカルチャーがあったり、コンバース好きな人って根底にアメカジがあったり。その人の、人となりやヒストリーが反映されると思ってるんですよ。そしてスタイリストの仕事は、そこを表現するために提案したり整えたりする必要があったりします。どっちがおしゃれ、という基準だけではなくて。
どのぐらいの価格帯でどういう味付けでどういう世界観、背景があるものが私たちらしいのかをスタイリングしていくのが、社内でも、社外に対しても僕がやっている仕事です。「おいしい」を決めるだけじゃなくて、どういうおいしさが、私たちらしさをより表現できるだろうか、と考えています。
伊藤:それが山本さんにしかできない、やるべき仕事なんですね。
山本さん:「スタイリストと飲食業を両方やるのは大変じゃないの?」とよく聞かれるんですけど、僕がやってることは実は大きくは変わらないんです。アウトプットがたまたまスタイリングと飲食になってるだけで、昔はセレクトショップやギャラリーみたいなことにも挑戦していたし、アウトプットの形はさまざまで良いと思っています。
クライアントワークと対局にある存在。自分たちを表現できる場として始めた「お店」
伊藤:もともと起業願望があったんですか?
山本さん:全然無かったですね(笑)。僕らの業界ではフリーランスでいることの方がかっこいいなとも思ってました。ただ、一番最初に飲食店として「re:Li(リリ)」というお店を始めるときに借りたかった物件が、法人でないと契約できなかったんです。1ヶ月だけ待ってもらって法人にしたという…。だから法人は手段でしたね。
伊藤:僕も起業したいタイプではなく、どちらかというとお茶をやりたかったんです。起業ってすごい人たちがするものなんだろうなと思っていて。
山本さん:僕もです。起業前からフリーランスで3年ほどスタイリングの仕事をやっていて西川と出会うことができて(メゾネットのスタイリスト| 西川 容代さん)。ひとりだったところから、ユニットのような感じで名前を持つようになったんです。メゾネットという屋号での活動期間が3ヶ月ぐらいあります。
仕事もありがたいことに当時すごく忙しくて。ファッション、飲食、音楽などを交えた僕主催のイベントも年に1〜2回やっていて、集客がだいたい2〜300人。西川も個人で同規模のファッションショーなどをやっていました。
僕らの仕事は基本クライアントワークだから、受注仕事です。お客さんのビジネスの課題や商品の広告、お店のことなどなど、ご相談いただいたことに対して僕らが考え、ご提案、実施、検証する課題解決型の仕事。一方で、自分たちのイベントの企画は言い方が悪いですが、自分達の責任のもと、好きにチャレンジができますよね。たぶん僕らはそうやってバランスを取っている部分もあります。ずっとクライアントワークだけだとクリエイティビティが枯渇していくというか(笑)、かといってアーティストでいるつもりもなくて。もちろんお客さんのことを最大限考えつつも、ちょっと好き勝手やっていい日=僕らにとってのイベントで、それをお店という形で表現したのがお店を始めた発端ですかね。
伊藤:クリエイティブなことや食に関わる何かをやりたいというのは、子どもの頃からあったんですか?
山本さん:父親がグラフィックデザインをやっていたので、本当は自分もその道に進みたい気持ちはあったのですが、、子どものときに自分よりセンスのいい人たちにたくさん会ってしまって。なんとなく子どもながら挫折をしたんです。周りに勝てないって思う時期があって。僕自身の根底にはコンプレックスのようなものが大きくあります。
今にいたるきっかけの一つとして、昔美容師になりたいと相談したとき、父親に「美容師になりたいのか、美容院を経営したいのか?」と問われて。そこで、自分は美容院を持ちたい意識の方が強いと気づいたんです。それで、大学に行き、視野を広げたり視座を高めたい、と素直に思えました。
あと、僕が経営するお店にお客さんが来てくれたら、頭の先から足の先まで、本とか家具なんかもひっくるめて、“変身して帰れる”みたいな、全部をプロデュースできるお店やりたいなってのは、高校の頃の夢でしたね(笑)。
伊藤:今に繋がるようなことを、学生時代から明確に持っていたんですね。
山本さん:当時の自分は変身願望があったのかもしれません。きっと変身したいのは僕だけじゃない、みんな思っているのではないか、とも思っていました。インテリアの会社や飲食店でアルバイトをして、貿易や食器、料理などいろいろ学んだ上でスタイリストという職業に就きました。今まで学んできたことを、きちんと仕事にできたら面白いとは思ってきたし、今思うと高校生のときに抱いていた「全部を整えたい願望」が、今に繋がってるような気はしますね。
僕が考えるセンスとは、あらゆる知識を学びまくったあとで、あえて一度全部捨てて、その知識に囚われずに「これいいな」と思える直感
伊藤:スタイリスト目線でテクニカルに設計している部分もあるとは思いますが、メゾネットのお店を見ていると単純にその時面白いって思うことを全力でアウトプットしてるっていうか、フィジカルな感じもするんです。
山本さん:たぶんそれがメゾネットの面白いところだと思っています。スタイリストを始めるとき、センスってなんだろうとずいぶんと考えました。僕が無意識的にセンスいいなと感じる、それってどういうこと?と悩んで。組織で動いたり、クライアントに納得してもらおうと思った時に、センスを言語化、そして可視化しないと、相手に伝えるのが難しいんですよね。
世の中のこと、トレンド、テクニカル的な知識やテクノロジー、クライアントである会社の戦略、あらゆることを自分達なりにとことん学んで、その上で一度全部捨てたあとに「これがいい」「これどうかな」って思う直感。それがセンスなのかなって、今のところ僕は定義しています。
センスを磨くのは、9割は知識と技術だと思ってるんですよ。知識、情報、技術である程度センスは良くなる。でも、本当の意味でのセンスって、これらをめちゃくちゃ学んだ上で、でも囚われずに直感で「これいいな」って思えたものが、世の中的にも素晴らしいメッセージだと認められることなんじゃないかなって。僕の中の定義だから、正解かはわからないんですけど。第六感みたいなことな気がするんです。
だからこそ、知識と技術、さらには経験が大切。勤勉である、学ぶことをやめない、というのが一番大切なんじゃないかと思っています。
もちろん、経営者として“うまくいくやり方”は考えています。でもクリエイティブに落とし込んだり企画するときは、いったん経営的な視点を捨てて、自分がお客さんだったらこうしたらもっと面白いんじゃないか、っていう直感を信じたいし、その両方がうまくいくと面白いなと思っています。
ずっとひとつのことだけやるのは、向いてない。変わり続けることしかできないし、それでお客さんに喜んでもらうのが「メゾネットらしさ」
伊藤:メゾネットらしさって、なんだと思いますか?
山本さん:根っからこれが好き!みたいな人っていますけど、僕も西川もどちらかといえばいろんなものが好きなんです。雑食。音楽も服飾も、何でも聴くし何でも着る。もちろん、スタイリストもやっているし、「選択」という行為に命かけてたりもしますけど、写真も映像もやれば料理もする、インドアで一晩中音楽聞くのも好きだし、アウトドアのキャンプも好きみたいな。そういう生き方をしちゃってて。
会社においても、表現したい“メゾネットらしさ”があるというよりは、うちの会社自体が、そのときの世の中から僕らの気持ちまで、いろんなものを表現できる場、社会との繋がりをつくる場でありたいんですね。
例えばラーメン屋やお寿司屋さんのように、一つに絞ってこだわり抜く専門店は素晴らしいと思いますが、自分たちがそんなお店をやりたい、とはなかなか思えなかった。定食が日替わりなのも、もちろんお客さんに喜んで欲しいのはあるんですけど、僕らが飽きちゃうってのもあって(笑)。よく言えば変化し続けているし柔軟な会社だけど、そうとしかできないんです。一つのことをとことん突き詰めて、毎日ストイックに向き合うスタイルは少なくとも僕個人には、向いてないなと。そういう人に憧れる部分もあるんですけどね(笑)。
もちろんテキトーにやるわけではなくて、コーヒーやろうぜとなったら、めちゃくちゃコーヒーについて勉強するし、あちこち行っていろんな人の話を聞いて、全力でやり切ります。ただ、この先50年コーヒーのことを僕がやり続けるかって言われると、それは自信がないという。ただ、コーヒーにストイックな人、料理にストイックな人、デザインにストイックな人、という感じで、僕が憧れるような人はたくさん働いてくれています。こんな僕と、少し僕と違うスタッフ。メゾネットらしさは、そういうところなんですよね。
ただ、アウトプットがいろいろと変化しても、根底にある軸=大切にしたいことは変わらないです。例えば体に優しいものがいいなとか、関わる人が幸せになる仕組みがいいなとか、何よりもお客さんの喜びが僕らの喜びであることとか。僕らってお客さんの「おいしい」みたいなリアクションで人生が救われていて、頑張ってよかったと思えるので。
だから、お客さんの喜びとかまで全部ひっくるめた上で、僕らがそのときそのとき面白いと思うものにアンテナを張って、変わり続けていきたいですね。変わることへの恐怖よりも、変わらないことへの恐怖の方が大きい。きっとそこがうちらしさです。
メゾネットの成長のためにも、お客さんのためにも、僕が想像もつかない方を選択していきたい
伊藤:「らしさ」やセンスについて聞かせていただきましたが、他になにか、ジャッジの基準になっていることはありますか?
山本さん:いろんな人の言葉を聞いて信じていることがあるんです。「想像もつかない未来に進みそうな方を選択する」っていう考え方なんですけど。
それまでは、いわゆる”自分年表”で思い描いていた生き方に向かうように生きていました。30歳で何かしら自分なりに起業してお店をやることだったり家族のことも含めて、概ね予定通りに進んできて。でもたまたま取材の機会をいただいた尊敬する方達から、「想像もつかない未来の方が面白いよね」みたいなコメントが揃って出てきた時期があったんです。それは僕にはなかった考え方でした。
どちらかというと僕は戦略的に、この結果を出すためにはどういうアプローチをすべきかを考えるのが好きで、僕よりもはるかに高い次元でそういう仕事をしているんじゃないかと思っていた経営者たちがそうではなかったことに衝撃を受けたというか。実は最後の最後で「どうなるかわかんないからもう最後はあいつに任せた」とか「俺の想像通りだったらつまんないじゃん」と言っているのが、すごくかっこよく思えました。
よく考えたら自分の世界観とか、自分だけでできることなんてすごくちっぽけで、その枠を超えないとメゾネットって会社は面白くないし大きくならない。僕という枠よりも会社の枠が大きくならないと意味がないんです。そうすると、想像もつかない出来事が起きていく未来を選択していかないと駄目だなと。そんな風に考え始めたのが、ちょうど会社が10年目ぐらいのときですかね。
今はその「どうなるかわからない」、をジャッジをする基準として強く持っています。もちろん、怖い部分もありますけどね(笑)。
伊藤:どう転ぶかわからない方に決めるっていうのもすごい決断ですよね。
山本さん:きっとそれがお客さんにとっても面白いと思いますしね。いつも僕の枠の中の世界観だけで何かやってても、お客さんは飽きちゃうから。信じられる仲間が増えてきたというのも、そう思えた理由だと思います。
〜後編へ続く〜
後編は、メゾネットの組織論や、山本さんなりの「失敗」の捉え方について伺いました。
[文]美濃加茂茶舗 |松下沙彩( @saaya_matsushita )
▼美濃加茂茶舗
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