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大切な人の笑顔と命を守る。時任春江さんがうつ病予防を広める理由とは?

心の健康を保つには、セルフケアが大切である。しかし、心の健康状態に自分でも気付けないことは少なくない。ストレスが原因で、無意識のうちに自分自身をコントロールできなくなるメンタルヘルス不調に陥るケースもある。そんななか、うつ病予防を中心としたメンタルヘルス研修を行っているのが、一般社団法人 疲労メンテナンス協会代表の時任春江さんだ。長く看護師をしていた時任さんは、どのような経緯で現在の活動をするようになったのだろうか。その経緯を伺った。

25年の看護師経験から退職まで

時任さんは25年間、看護師として愛知県内の労災病院に勤務していた。そのうち2年間は師長として管理職も務めた。ファミリーサポート(子育て支援)を受けながら、4人の子育てと看護師の激務を続けてきたという。

「18時に帰りたいと思っても、管理職をしているとなかなか帰りにくかったです。4番目の子が小学校に入学するタイミングで子育てと仕事の両立の難しさを強く感じ、2012年に退職しました」

看護師の疲労問題を何とかしたい

退職後、しばらく働かずに主婦として過ごしていたある日、たまたま知人から誘われた女性起業家セミナーに参加した。そのセミナーのなかで、女性で起業する方たちは、これが不満・不安・不便だと思う自分の経験を解決したいと思って事業を始めることが多いと聞いた。

「子育てしながらの看護師時代は、もう疲れてへとへとでした。同じように看護師は疲れている人がたくさんいるだろうから、疲れをとるようなことを仕事にしたら絶対にニーズがあると思いました。

看護師の疲労を改善するために、病院でマッサージが受けられるような取り組みをしようと思い、ボディケアの勉強をはじめました。ブログで呼びかけると、ありがたいことに協力してくれるセラピストさんが10名ほど集まってくれたんです。

最初は、知り合いの師長さんに『お試し体験』の声をかけて活動を開始しました。病院の会議室を借りて、ストレスを測定する機械(心拍変動解析を応用したストレス測定器)で仕事帰りの看護師にストレス測定をします。看護師は疲れてる人が多いのに、実際に疲れを自覚していない人が多いことを知りました。『わたし疲れてたんですね』と気付いてもらい、マッサージを受けていただきました。夜勤明けの看護師が次々と訪れてくれて、『むくみが取れて楽になった』という感想をいただけたのが嬉しかったですね」

2014年12月、名古屋市の公的病院と契約し、定期的に看護師に癒しを提供する場を得たその活動の様子は中日新聞に掲載された。

看護師から主婦、そして起業

当初は、継続した仕事の保証があるわけでもなかったため、会社にはせず、個人事業主として活動を行っていた。そんななか、2016年に、「HAPPY MAMA FESTA」という子育て中のママ向けイベントで、ストレス測定のブース出展を依頼された。これを機に「一般社団法人日本疲労メンテナンス協会」を設立する。 

「HAPPY MAMA FESTAは名古屋ドームを貸し切って開催され、3日間でママさんたちの動員数は10万人に及びます。その間1000人くらいにストレス測定をして、その結果に対して看護師でチームを組み、保健指導アドバイスまで行いました」 

目指すものは「うつ病予防教育」 

疲労を改善した先にはうつ病が予防できる。疲れがたまったままだとうつ病になることから、法人化3年目の2018年、時任さんは自分が本当に目指したいものは「うつ病予防教育」だと気付く。

「日本は自殺大国と言われ、自殺者の数は実に年間2万人にものぼります。WHOでは自殺の半分はうつ病が原因と言われているんですね。なので現在は『うつ病予防研修』に力を入れ、正しい知識を広めるための活動を推進しています。

ありがたいことにその活動が認められ、2018年5月と8月に、立て続けにビジネスプランコンテストで賞をいただきました。このような経緯で、うつ病予防を広める活動が、徐々に認知され、世間からも支持されるようになってきました」

2019年からは、大切な人をうつ病から守る「うつ病にさせないためのアドバイザー」を養成し、うつ病発症率減少を目指している。現在、日本全国のアドバイザーは512名まで増えた。

うつ病予防のポイント

うつ病は、脳の機能障害により、脳がうまく働かなくなっている状態を指す。誰でもなり得るが、治せる病気でもある。知識があれば自分や周囲の人の不調に早く気付け、早期に対処できる。

「うつ病予防のポイントは3点あります。1点目はストレスの要因があっても影響を受けにくい体にすることです。例えば笑い、運動、動物、ヨガ、アロマ、音楽、森林浴、指圧、趣味、マッサージ、呼吸法などが効果的なんです。

2点目は、どれくらいストレスの影響を受けているか測定することです。スマホでも無料で測定できるアプリ(COCOLOLO)がありますので、健康な時に自分のストレスを測定するのがおすすめです。

3点目は、愚痴や弱音を吐ける人を見つけておくことが大切です。
アドバイザーさんたちには、養成講座で学んだことを、身近な方々が健康な時にこそお伝えいただくようにお願いしています」

「うつ病にさせないためのアドバイザー」育成のやりがいと今後の展望

アドバイザー養成講座の受講者は半数が看護師で、1割が看護師以外の医療・福祉関係の方。その他には産業カウンセラーやキャリアカウンセラー、企業の重役や人事の方、セラピスト、そして当事者やその家族など、様々な方が受講しているという。

「セラピストの方は『病んでいるお客さんも多い』とよく話しています。お客さんはマッサージで一時的には良くなるけど、次に来る時にはまたへとへとになってやってくるんですと。そこで、セルフケアのアドバイスができたらお客さんのためになるから、と受講しています。

私のやりがいは、アドバイザーさんたちが各所で活躍してくれていることです。例えば看護師や医療職、企業の方も職場に伝える活動をしている。セラピストさんはお客さんにストレス測定をして、うつ病にさせない考え方をアドバイスしています。受講したことによって人を助けることができたという声をいくつも聞きました。

大切な人の笑顔と命を守るためにも、『うつ病にさせないためのアドバイザー』がもっと増えていき、うつ病にさせないための考え方が世の中により広まってほしいです。また、血圧測定機が医療機関や公的施設にあるように、ストレス測定の機械が設置されるようになってほしい。例えば1つの病院にアドバイザーが1人いてくれて『金曜日だからストレス測定の日だね』と声かけをしてくれたら理想的ですね」


時任春江さん
【 一般社団法人日本疲労メンテナンス協会HP 】 



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