百の口づけと僕の終わり

舞台は日本の小さな地方都市。高校二年生の彰（あきら）は、どこか陰気で内向的な少年だった。

彼は幼少期から「100回キスをしたら死んでしまう」という奇妙な呪いを抱えており、そのことを密かに楽しんでいた。

恋愛経験もなく、女性と話すことすら苦手な彰は、いつも教室の隅で本を読んでいるか、窓の外をぼんやりと眺めているような生徒だった。

そんな彼の心の中には、呪いのために「キスを重ねて死に至ること」に憧れがあった。彼にとって死ぬことは怖いものではなく、むしろ人生に意味を与える唯一の方法であり、ロマンチックな終わり方だとさえ思っていた。

ある日、転校生の美咲（みさき）が彼のクラスにやってくる。明るく、誰にでもフレンドリーな美咲は、彰とは正反対の性格で、すぐにクラスの人気者になる。

彰はそんな美咲に惹かれつつも、自分の呪いと暗い性格のせいで、彼女に近づくことをためらっていた。しかし、席替えで隣になったのをきっかけに、美咲が彰に話しかけてくるようになる。
彼女の明るさに触れるうちに、彰は次第に彼女に心を開き、少しずつ彼の中に変化が生まれていく。

美咲は彰の不思議な雰囲気に興味を持ち、彼の話を聞く中で「100回のキスで死ぬ」という呪いの話を知る。
彼女は最初、冗談だと思って笑うが、彰が本気でその呪いを信じ、むしろそれに憧れを抱いていることを知ると、次第に真剣に考えるようになる。
美咲は呪いを解くためではなく、彰が憧れている“死”の形を別の方向に導こうと決意する。

美咲は彰に「私と一緒に百回のキスを試してみよう」と提案する。

最初は驚き戸惑う彰だったが、美咲の真剣な眼差しと彼女の優しさに触れ、自分の中の呪いを試すことへの憧れと、美咲とのつながりを求める気持ちが交錯し、彼の心を揺さぶる。


二人は少しずつキスを重ねていく。彰は初めての恋愛感情に戸惑いながらも、自分の呪いが実際に発動するのかどうかを確認するために、美咲との関係を深めていく。100回のキスという数を意識しながらも、二人の間には純粋な友情と愛情が芽生えていく。

やがて彰は、100回のキスが命を奪うかどうかよりも、美咲と過ごす時間そのものがかけがえのないものであると気づき始める。彼は呪いの真実を解き明かすよりも、このまま彼女との日常を続けたいと願うようになる。しかし、時間が経つにつれて、100回目のキスが近づいてきて…。


最終的に、二人は99回目のキスを迎える。その瞬間、彰は美咲の目を見て、初めて「生きたい」と強く思うようになる。だが、運命は残酷で、100回目のキスが避けられないことを二人は理解する。最後のキスの瞬間、美咲は彰に「生きて」と願いを込め、涙ながらにキスを交わす。

しかし、その瞬間、何も起こらない。彰は息をしている。二人は呪いがただの幻想だったことを知り、安堵と共に大笑いする。彰は初めて自分が生きる意味を見つけたと感じ、美咲とともに新たな人生を歩む決意をする。

彼の心には、もう呪いの恐れも憧れもなく、美咲との未来だけが輝いて見えていた。