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【エッセイ】不安

「不安」って、厄介だなあと思っている。

始まりは、私の奥底にぽつりと生まれただけなのに、すぐに仲間を増やして広がり、ざわざわとやかましく騒ぎ出す。
正体不明のざわめきが、心も体も、私の全部をひたひたと覆ってゆく。

カーペットに落としてしまった、消えないしみのよう。
見たくないけれど、見えてしまう。
カーペットはまた新しく買えるけれども、心は買い替えができないから、ため息をついて、しみ抜きを試みる。

不安というのは、これがまた頑固なしみで、一筋縄ではいかない。
強くごしごしとこすると、よけいに落ちなくなるので、そっと手を添える。
とんとん、とんとん。リズミカルに優しく、抜き取ってゆく。

考えてみれば、不安もきっと「不安」なのだ。
突然この世に生まれ落ちて、自身の正体もわからず、ただ「負の感情」として忌避されたり、抑えつけられたりする。
せめて仲間を増やして、存在を示さなければ、生き延びることもできないのだろう。

私の中で、ざわざわと騒ぎ続ける不安たちが、少し可愛く思えてきた。
大丈夫。あなたたちを、なかったことにはしないから。
落ち着いて、と優しく語りかけてみる。
眠る子どもの背中に触れるように、とんとん、とんとん。
心ゆくまで、私の内側で生命を謳歌してから、きらきらした光になって、外の世界へ巣立ってほしい。

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