mineoのギタリスト列伝〜第一回"Ritchie Blackmore"〜②

前回からの続き

ギターで最初にコピーした曲

 そうして自分のギターを手に入れて一番初めに弾いた曲というのは、言わずもがな、”Smoke On The Water”である。初心者であっても耳コピで弾けてしまうほど簡単なリフだ。しかし、この曲はリフだけしかとりあえずコピーできなかった。耳コピではAメロサビと何やってんだかよくわかんなかったし、ギターソロなんてとんでもなかった。

 早速吹奏楽部のメンバーから自分のバンドに抜擢し、キーボードも含め全パート揃えいざ曲をやってみよう、となったとき、普段楽譜を読みながら演奏するということしかしていなかった吹奏楽部員である我々には、耳コピというのはいささか難しすぎることだった。そのため、とりあえずタブ譜つきの全パート載っている楽譜(バンドスコア)を探すことになる。あった。また池袋の石橋さんだ。
 前回ギターを購入した際に父親に同伴してもらったため再度乞うのに腰が引けた童貞見習いギタリストは、今度はバンドのメンバーの中で一番金持ちの家の子だったドラムのQくんを帯同し池袋へ赴く。中学生にもかかわらずクレジットカードを携帯させられていた彼にかかれば数千円のバンドスコアなど駄菓子屋でうまい棒を買うようなものではあるが、一応”まあこれ買えば君もあんな曲やこんな曲でどうやってドラム叩くかわかるし、ウィンウィンなわけでしょ?で、とりあえず僕がギターを最初にコピーするから持っとくとして、後で絶対君の手元にも渡るから、ね?今すぐ必要であればコンビニでコピーとかしてもいいし?”などと説得しすぐさま”ベスト・オブ・70年代洋楽ロック”を購入させ、ホクホクの体で帰宅、上記の比較的簡単な曲のコピーに取り組んだ。いち中学生が4000円近くするバンドスコアをなんの躊躇も無く購入するその様には感動を覚えたが、彼は中学生にしてガンプラのマスターグレードを頻繁に買ってもらえるような家柄の子である。自分は、少ない小遣いをやりくりして数カ月に一度ハイグレードしか変えないので、彼と比べるとアホらしくみじめな気持ちになって買わなくなった。ちなみに該当するバンドスコアは未だに私の実家にある。シコシコ作ったズゴックとZZガンダムは引っ越したときにどこかへ行ってしまった。

 手に入れたバンドスコアを自分が一番最初に家に持って帰り、早速コピーに取り掛かる。
 そのバンドスコアには確か、”Smoke On The Water”の他にも、C.C.Rの”Have You Ever Seen The Rain”、Aerosmithの”Walk This Way”、Queenの”Bohemian Rhapsody”といった洋楽かじりたての中学生でも知っている有名曲の他、Foreignerの”Feels Like A First Time”、EL&Pの”Nut Rocker”など、中学生童貞からしたらどうしてベストオブに入るのかわからない曲も入っていた。中でもUriah Heepの”Look at Yourselfに”対自核”という邦題がついていたのにはさすがの中学生童貞でも無茶苦茶なんじゃないかと思った。

 そうして”Smoke On The Water”の完コピに取り組んだ童貞ギタリスト見習いだが、やはりギターソロでつまづく。まず、パワーコードやそれに準じた指使いがメインのリフやバッキングでは出てこなかったが、ギターソロでは多用されるチョーキングができない。というか最初のフレーズからチョーキングなので次に進まない。
 それでちょっと嫌になって、とりあえずギターソロ以外はできたしええか、ってなって、スコアに載っていた他の曲をまた図書館で借りてきて色々と聴いてみる。

 Ramonesの”Blitzkreig Bop”はコードしか出てこないので一瞬で弾けるようになった。ここでFコードの押さえ方のせいで挫折しなかったというのが今までギターを続けてこられた理由のひとつかもしれない。自分は背丈は人より少し小さいくらいだったが、それとは逆に手足は人よりデカい方だったので、コードの押さえ方ではまったく苦労しなかった。それもこの後Andy Summersのせいで多少打ち砕かれるわけではあるが。
 ずっと、ジャージャジャジャジャジャジャジャージャジャー、とやっているのも段々退屈になってきたので、次の課題曲を探す。もう少し指に動きがあってなおかつそんなに難しく無い曲だ。このスコアの中だと、T.REXの”Get It On”がどうやら丁度良さそうである。
 リフでは初めて出てきたブリッジミュートを物にし、それ以外は特に難しいところも無く、曲の最後にちょろっとだけ出てくる短いギターソロではチョーキングが出てくるが、これも数小節ならなんとかなるかもしらん、と思い何度も反復練習、ついにチョーキングができるようになった。ついでにハンマリングも出てくるのでこの曲でできるようになる。

 そういうわけで、通して弾けるようになった最初の曲は、T.REXの”Get It On”であった。”Smoke On The Water”のギターソロが弾けるようになるのはそれからしばらく後のことである。

エフェクターがほしい

 さて、とりあえず基本的なテクは身につけた童貞ギタリスト見習いであるが、次に気になりだしたのはギターからアンプを通して出てくるサウンドだ。

 自分の所有しているSelderの入門者セットには一応、Photogenicというブランドのギターベース兼用というたまげたスペックのアンプが付属していた。
 しかし、当時は集合住宅に住んでいたためまずもってアンプから大きな音量でギターの音を出す、という行為は固く禁じられていた。というか禁じられなくともそうしていた。自分は模範的な童貞であるからして。なので、ギターだけの生音だと段々情けなくなってくるからとりあえず雰囲気を出して自分の演奏に浸るためにもアンプに繋いで部屋の中だけで聞こえる音量で練習したりしていたのだが、聞こえるのはべんっ、とかびりんっ、といった音ばかりで余計に情けなさが強調される。
 DVDで見るリッチー・ブラックモアのギターから出てくるのはギャウーンとかジュワーンとかいった結構凶悪で凶暴でエキサイティングなサウンドだし、Led ZeppelinのCDでもリッチー・ブラックモアほどではないが明らかに何か、割れたような音がする。

 しかしmineo童貞少年、この頃には隣市の図書館にて一日に一時間だけではあるがデスクトップパソコンでもってインターネットを利用できるということを発見していた。であるからして、放課後や休日に足繁く図書館に通ってはインターネットでもって情報収集をしていた。一時間で足りない時はよく行く駅前の図書館から5kmほど離れた、もうその隣の市のすぐそばの別の図書館にまで、唯一の交通手段である自転車を走らせハシゴしていた。中学生は自転車があればどこまででも行ける。

 そうした調査を重ねた結果、どうやらリッチー・ブラックモアのサウンドはそのギターと同じくらい”Marshall三段積み”というものが重要であるらしいということが判明した。
 リッチーの後ろにそびえ立つそれは確かに、まず自分の練習用アンプとは比較にならないくらいの大きさがあるし、なにより一番上の箱にはツマミもたくさん付いている。そしてその下に同じ大きさのスピーカーがふたつ積まれており、全部合わせると人の背丈を越すほどの高さだ。
 そうして得た情報を元にさらなる調査を実施、その結果得られた結論としては”Marshallのアンプなんか高すぎるやん、買える訳ないやん”ということであった。自分の持っているギターセットの十倍以上の値段など、ギターを買ってもらったばかりの身にとってはどう足掻いても手の出ないシロモノである。
 とりあえずギターアンプは買ったとしても家じゃ音出せないしまず置き場所がないし?まあ追々だな、ともっともな理由をつけて諦めた童貞が次に注目したのは、リッチーのサウンドを調査しているうちに辿り着いた、他のギタリスト達の足元にも無造作に転がっているいくつかの箱だ。

 どうやらこれらの箱もギターのサウンドに多大な影響を及ぼしているということ、それらが日本ではエフェクターと呼ばれることなどを発見した童貞はすぐさまリッチーが使用しているのと同じものが購入可能かどうかの調査に入る。結果。
 無理ですね。自分のギターより高いんで。と半ば開き直り気味に、自棄気味になってもうあのギュワーンとかジュンジュンといったサウンドを自分のギターから出すのは、童貞で中学生でギタリスト見習いの身にとっては尚早なのか、おれのギター道はこんなにも早く挫折を経験しなければならんのかと、図書館通いに費やした時間と労力に対する対価が得られないことをひとりで嘆いていた。親にもダメ元で、自分のギターからこれこれこういう音を出すためにこのような装置が必要であります、そのための融資をしていただきたく思います、となるだけ腰を低くしてへつらって懇願してみたものの、ギター一式を買ってもらった直後、当然そのようなことは受け入れられない。しまいには”ベンチャーズのギターからはそんな音は出ていないじゃないか”と諭される。こっちが下手に出りゃ、とまた自棄になる。

 諦めモードで、それでも諦めきれないのでまた図書館で楽器屋のウェブサイトを、あー時間無駄にしてるわー、もう残り時間そんなにねえじゃんかよー、とか思いながらただなんとなく眺める日々がしばらく続いた。そんな折、目に留まるエフェクターがひとつあった。
 リッチーのアルミのケースに入った無骨なそれとは違い、プラスチックのケースでプリントなどもなんとなく安っぽい見た目ではあるが、何より重要なのはその値段だ。新品で5000円を切っている。
 紫のケースに入ったそれこそ、Behringerという格安ブランドのエフェクターである。モデルをOD-100、Overdrive Distortionという。童貞、性器の、違う、世紀の発見である。

 新たな情報と希望を得た童貞ギタリスト、水を得た魚のごとく更なる綿密な調査を重ね池袋サンシャインシティの新星堂に在庫があるということを突き止めた(今現在その楽器屋は無く、CDなどを売っているだけである)。価格も確か4000円弱だったかで、これであればなんとか親を説き伏せて出資をさせるのも不可能ではない、そこんところ上手にやっていこうってんで、また綿密な計画を立ていざ相談しに行く。次の誕生日とか、クリスマスとか、その辺前倒しにしてもらう形で問題ないんで、今これ買うのにちょっとお願いできませんかね?と率直に掛け合ったところそれであれば、ということで多少の釣りが来るぐらいの融資を受けることができた。
 次の週末、またホクホクの体で池袋サンシャインシティへと赴き、厚紙とプラスチックの安っぽい梱包の安いエフェクターを、その手に握りしめた5000円札でもって購入。店員さんはあたたかな気持ちで見守ってくれていただろうか。
 帰宅して早速、ギターとギターアンプの間に繋いで音を出してみる。これだよ、これ。
 今まで情けない音しかしなかったギターアンプから、CDから聴こえてくるようなギターと同じ音がする。ギターアンプ自体の音が小さくでも問題ない。ギュイーンもギュワーンもできるし、ジュンジュンもできる。その日は結構夜遅くまでギターを弾いてしまい怒られた。

上達への道

 必要な機材を揃えた童貞ギタリストは、自分の演奏に雰囲気が加わったのをいいことに更なる鍛錬を重ねていく。”Smoke On The Water”のギターソロも、あの途中の指を16分音符で動かさなきゃいけないところ以外は大体できたし?Kissの”Love Gun”もなんとなく弾けるようになったし?Van Halenはまだ無理だけどAerosmithの”Walk This Way”もそろそろできそうな感じだし?とこれまでの挫折を乗り越えて数々の名曲を自分のレパートリーにしていく2000年代半ばの童貞中学生である。周りに話の合うやつは、いない。

 そうして勝手に鼻を高くして孤高ぶっているところ、その鼻をへし折られることになる。

 同じバンドに誘ってベースを弾いてもらっていた、吹奏楽部でトランペットを担当しているサノさんによれば、どうやらサノさんのお父さんもギターを弾くらしい。ということで、近々会わせてくれるというのだ。
 ある週末、サノさんに呼ばれ彼女の家へお邪魔する。そこで見た光景に童貞少年、度肝を抜かれる。
 リビングの壁には数本のギターがぶるさげてあり、どれも高そうなやつだ。Moonのテレキャスター、PRSのCustom24などギターをはじめたばかりの童貞には手に余るシロモノばかりである。そして何より気になるのが、それらのギターの下に鎮座しているMarshallのコンボアンプである。
 サノさんのお父さんはとても優しくていい人で、こんな生意気盛りの中学生相手にもロックやギターに関するいわば当たり前だけどまだ知らないであろうトピック、ギターの弾き方、かっこいい曲かっこいいバンドなどを色々と教えてくれた挙句、Marshallのギターアンプと壁にかかっているギターも使わせてくれた。ギターのサウンドの違いはまだこの頃はわからなかったが、Marshallのアンプはやはり自分の持っているエフェクターとヘボアンプの組み合わせとは比較にならないほど、かっこいい音が出た。
 そして何より、サノさんのお父さん、ギターがうまい。

 自分がまだまだ弾けないような曲を当たり前のように弾くし、なんなら即興もできる。
 それを見て、そんなことまだ自分には絶対できっこないと思った童貞ギタリストだったが、ペンタトニックスケールというものを教わりそれをなぞっていればなんとなくフレーズになるんだよ、ということを教えてもらい覚束ないながらも実践する。なんとなくできる。うれしい。
 そんなこんなでギターの師匠ができた童貞ギタリスト見習いは、足繁く通う場所が図書館からサノさん宅へとシフトする。

 自宅やサノさん宅でギターを練習する日々が続く中サノさんが、駅前にスタジオがありサノさん父はよくそこでもバンドの練習をしているということを教えてくれる。どうやら、ギターアンプやドラムセット、ヴォーカル用のPA一式が揃っている防音室をいくつか備えた施設で、音量などをまったく気にせず練習に打ち込めるという夢のような場所だそうだ。
 それを聞きつけてすぐさまバンド一行を率いてスタジオへ行ってみた童貞ギタリストは、リッチー・ブラックモアの後ろにそびえ立っていたのより一段少ないが、初めてMarshallのスタックアンプを目の当たりにする。もっと早くここに来ていれば、リッチー・ブラックモアのサウンドに近づくのにあんなにも心労を捧げる必要がなかったじゃないか、と思いつつもワクワクしながら自分のギターをアンプに挿しこみスイッチを入れる。
 しかし、出てくる音は拍子抜けで、確かに音量と圧はすごいんだけど、クリーンとも歪みともつかないなんとも中途半端なものであった。どれだけGainノブを上げようとずっとそのサウンドのままだ。かといってこの手前に自分の持っている安エフェクターを繋いで歪ませてしまうと何かギタリストシップに反しているような気がしてきて、結局Marshallを使うのは諦めてもう1台置いてあったPeavyのコンボアンプのクリーンチャンネルにエフェクターを繋いで使うことにした。世の中にはブースターというものがあって、そうしたエフェクター、歪系エフェクターのブースター的使い方によってJCM800のようなチューブアンプは真価を発揮するということを知るのは、これからかなり後の話である。

 この経験からか、自分はギターの歪みに関してはエフェクターで作る傾向になった。今現在もそうである。というか、チューブアンプを満足の行く状態まで音量を上げて練習できるような環境が身近にないというのもあり、致し方ないことだ。

 機材一式、師匠、環境を整えた童貞ギタリストmineo少年は更なる上達を目指して縦横に広がっているギタリストたちのシビれるプレイを探求する長い長い道のりへと踏み出したのであった。かしこ。

 次回は、まだ第1回目なのにもかかわらず番外編をお届けします。キャンディ・ダルファーバンドのギタリスト、ウルコ・ベッドに独自インタビューしたお話です。
 その次からまた本編に戻ります。mineoのギタリスト列伝第二回は、ExtremeのNuno Bettencourtさんの予定です。

youtubeでも本稿の内容について語っております。


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