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キャンディー・ダルファー・バンドのギタリスト、ウルコ・ベッドへのインタビュー

 プリンスとの共演でも知られているベルギー出身のサックス奏者、キャンディー・ダルファーのライブを観に行ったときに、キャンディー・ダルファー・バンドのギタリストであるウルコ・ベッドに思いがけず短いインタビューをしたときの話です。見出しの写真の頃は、見知らぬ人からもピスタチオと呼ばれて虐げられていました。

2015年10月13日

 その日は21:30スタートのセカンドショウを観に行く予定だったので夕方ころ、mineoのギタリスト列伝第一回でも登場してもらった中学時代の吹奏楽の同級生でサックスプレイヤーのサノさんと上野で待ち合わせをして、夕飯を済ませてから南青山の会場に向かおうということになった。

 アメ横からガード下に一歩入ったところの二階にタイ料理屋を見つけたので、そこに入る。何を食べたかもう忘れたが、ひとつだけ良く覚えていることがある。
 まだ少し早い時間だったこともあり、自分らの他には関西方面から東京観光に来たであろう男女4人の若者グループがうるさく食事をしていた。”明日はーディズニーシー行ってー、それでーどこ行こうかー”とか結構どうでもいい話をデカい声でしていたので、はしゃぎおってみっともない、と思いながらこっちはこっちで飯を食っていたのだが、あちらのテーブルに何か料理が運ばれてきて一番うるさい兄ちゃんがそれを口にした瞬間放った一言が”これワキガの味するよ!!!ワキガの味する!!!”であった。
 目の前のサノさんとなんとなく目を合わせてほくそ笑みながらも何も言わず食事を続けようと思ったが、さすがのあちらの友人も”ワキガの味しねえよ””ワキガ食ったことあんのかよ”と自分の友人はアホになったと思ったのか、否定していた。それを聞いたこちらふたりは口には出さなかったが、お互いそのツッコミを入れた兄ちゃんとまったく同感であったということは言うまでもない。ちなみに彼が食べたのはコリアンダー、俗に言うパクチーである。
 店を出てしばらくカラオケボックスで時間をつぶして、”ワキガの味は、しないよな”などと他愛のないことを話しながら地下鉄に乗ってすぐに南青山につく。カラオケボックスは別に歌わずとも、カフェで時間を潰すのよりはるかに安上がりだしドリンクも好きなだけ飲めて良い、ということをサノさんから教わった。

 ライブ本編は、一番前ステージ目の前の席に陣取って観覧した。
 ギタリストのウルコ・ベッドの目の前の席でもあり、彼のアンティグアのストラトキャスターの細部や足元に置かれた機材、頑張ればアンプのセッティングも確認できるほどの位置である。
 足元のエフェクターは、BossのMetal Zone、デジタルディレイ、Morleyのワウペダルなど特別なものは何一つ無く、よく見かけるものばかりであったのも覚えている。にもかかわらず、キャンディーのサックスがメインの曲群では歯切れ良さと粘り気の共存したカッティングを、”Lily Was Here”などのギターソロでは抜群に抜けるサウンドを鳴らしていたりと、やはりギターは機材では無く両手で弾くものなのだということを改めて実感した。
 反して、アンティグアのストラトキャスターはなかなか普段お目にかかることができるものではないので魅入ってしまったが、確かピックアップはEMGのシングルコイルに載せ替えてあり、基本的にネックポジションでプレイしていることが多かったような気がする。
 もうひとつ記憶に残っているのは、キャンディーはステージ上を右へ左へよく行き来するのだが、こちらに来て観客を煽るときに彼女が近づくとものすごく甘い香水の香りが毎回漂ってきたことだ。あとブロンドの腕毛も結構生えていた。

 このライブでは、キャンディーのパパであるハンス・ダルファーも途中から参入して相変わらずの健在ぶりを見せてくれた。白いSelmerのテナーサックスから娘に負けない勢いで音を鳴らしていた。客席を練り歩いたりもしていた。

 終演後、セカンドショウだったこともありMeet&Greet的なことをやってくれるというので、ロビーに出てダルファー親子と挨拶をするための列に並ぶ。聞いたところだとTower Of Powerとかもこういうことをしてくれるらしい。Blue Noteは結構アーティストに会いやすい会場かもしれない。Andy Alloのときもセカンドショウにしておけばよかった、と今になって思う。
 自分らの番が回ってきて、一応ダルファー親子の横に通訳の人が待機していたけれど、勝手に英語で話し始めたら安心したような感じで静かにしていた。とりあえず横の売店で買ったマグカップにサインなどをしてもらっていると親子、小さい箱でのライブだと余裕もあるのか”君のジャケットクールだね〜オシャレ〜”とか結構口も上手かったりする。横のサノさんはテンション上がって何話したらいいか、みたいな感じだったのでとりあえず”彼女もサックスを吹くんですよ”とかそういうことを話して、彼女の言うこともそれなりに通訳する。自分はやはりプリンスとやっていた時代のことが気になって”プリンスとの共演であなたの事を知ったのですが、当時はやはり楽しかったですか、それとも難しかったですか”などと聞いたところ”One of my most beautiful eraだったわ”とのことだった。

 後に待っている人もいるため1グループにつき数分だったので、お礼を告げて列から離れる。ダルファー親子と話ができたのはとてもいい機会だったが、自分の本当の目当てはギタリストのウルコ・ベッドである。しかし、親子以外のメンバーの姿はロビーには見当たらない。
 スーツ姿のBlue Noteのスタッフに紛れてひとりだけ目立つ人がいて、おそらくバンドのローディかスタッフなんだけど、タンクトップから伸びる白くて細い腕には刺青がいっぱい、髪も短めで結構威圧感というか、ぶっちゃけ恐そうなタイプの女性だ。おそらく会場のスタッフに掛け合うよりも早いと思ったので、思い切ってその人に”あのー、ギタリストのウルコと少しだけお話がしたいのですが、彼は今お忙しいですかね”と尋ねたところ、見た目に反する笑顔と愛嬌で”ちょっと待っててね、今楽屋見てくるから”とすぐにウルコを呼びに行ってくれた。
 ちょっとして、ニコニコ顔で若干はにかみ気味に恥ずかしそうにしているウルコを連れて戻ってきてくれた。おそらくウルコに会って話がしたいなんて言ったのは後にも先にも自分だけだろう。いたら教えてください、友達になりましょう。
 スタッフのお姉さんには心からの感謝を述べて、ニコニコしているウルコに色々質問をする。


自分”今日のショウはとても興奮しながら最前列で楽しませていただきました”

ウルコ”どうもありがとう、君がずっとギター弾いてるみたいな動きでノッてたの見てたよ(笑)”

自”そうなんです、僕もギターを弾くんですよ。だからあなたに一番注目して見ていました。特別な機材はあまり使っていないようでしたが、ギターだけは珍しいものですよね?”

ウ”うん、詳しくはわからないんだけど多分76年か77年のストラトキャスターだね”

自”特にカッティングがお上手ですけど、どうやったらああいうふうに弾けるようになりますか?”

ウ”とにかく右手が大事だね。カッティングのサウンドを決めるのは右手だと思っているから、ピッキングはものすごく練習するよ”

自”なるほど、参考になります。それと、難しい質問とは思いますが、お気に入りのギタリストを挙げるとしたら誰ですか?”

ウ”うーん、そんなの選べないな(笑)でもジェフ・ベックとかスティーヴィー・レイ・ヴォーンとかはよくコピーして練習したし、マイク・スターンも好きだね”

自”なるほど、ストラトキャスターを使う理由がよくわかります。”

 と、まあ大体こんな感じの会話をしてまたマグカップにサインをもらい、一緒に写真も撮ってもらった。そうしてお礼を告げると、ニコニコ顔で楽屋へ戻って行った。
 短い時間ではあったが、今さっき目の前で見た、そしてそれまでに動画などで見入っていたギタリストにこういう話を聞くことができる、というのはとても恵まれた機会だ。インタビュー記事を読んだりしても知ることができることだが、やはり面と向かって話を聞くと、こうして何年経ってもその内容を忘れることがない。

 とにかく楽しかった夜、再度スタッフのお姉さんにお礼を告げてから会場を後にし、帰路に就いた。


 上手いギタリストほど王道だし、その逆もまた然り。もちろんそうでない場合もあるが、ギターから良い音を鳴らすギタリストはやはり好きだ。彼もそういうギタリストで、王道に学び楽器自体から良い音を出す研究と鍛錬を重ね、良い音を出している。だから、機材にはあまりこだわらない。そして、個性というのはそういう基礎の積み重ねの上に成り立つものだとも思う。クセだけで弾くギターでは、もう戦えはしない。そういうことを考えながら常日頃の鍛錬に励みたい限りである。かしこ。


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