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あの頃の

「クッコ、また来てないね。」2時間目が終わり、休み時間に入ってすぐに美穂が溜息混じりに言った。
「またしんどいのかなぁ?しばらくクッコ、続けて学校に来ていたのにね。」私はそう言いながら、クッコの席を食い入るように見た。「沙織、あんた仲良いんだからさ、電話してみたら?」一緒に話をしていた友人達がこぞって私に白羽の矢を向けた。今回のクッコの欠席は長い。かれこれ1週間になる。私は教室の窓から見える空を仰いだ。遠くに飛行機が見えた。

クッコは私たちより一つ年上だった。つまり、遠慮なく言うと、いわゆるダブりだった。だけど、ヤンキーだった訳でもなく、成績が悪かったわけでもない。いや、彼女はかなり成績優秀だった。」

「ピアスしてるんですか?お洒落ですね!」そう言って私たちは自分たちより一つおねえさんのクッコに、勇気を出して話しかけた。私たちが高校に入学してすぐの事だった。「ピアス、痛くないんですか?」「ううん、痛くないよ!でも、穴を開けた時はかなり痛かったけどね。」そう言ってクッコはふふふ、と気さくに笑った。
先に書いたように、彼女は実に成績優秀な人だった。
私たちは彼女と仲良くなれて本当に嬉しかった。
彼女がダブってしまった理由、それは休学でだった。「病欠らしいけど、なんの病気だろうね?」皆んな最初は気になって色々噂したが、クッコはとっても良い人だったし、いつの間にかクッコが休学した理由を口にする人はあまりいなくなった。
クッコにはみっちゃんと言う、年ごの妹がいた。みっちゃんも私たちと同じ高校に通っていた。つまり、クッコとみっちゃんは姉妹で同じ高校の同級生だったのだ!
みっちゃんは、お姉さんのクッコのことを、学校でも「お姉ちゃん。」と呼んで仲良しだったので、みっちゃんの友達までクッコのことを「お姉ちゃん。」と呼んでいたんだ。皆んなと仲良しだったけど、クッコは時々ポツポツと学校を休んでいた。

学年末を重ねて、私たちは3年になった。私たちのクラスは特進だった。だから全員大学受験組だった。
「クッコはやっぱりK大学志望なんでしょ?前から言ってたもんね!」「私はD大学受ける。ダメもとだよ。」
あの頃、私たちの話題と言えば大学受験のことばかりだった。皆んな真剣だった。
夏休み中の特別補習で久しぶりに会ったクッコの左手首に巻かれていたのは真っ白な包帯だった。私たちは一同ギョッとしてそのワケを聞いた。だけどクッコは、「しんどいの、私。」そう言って下を向いただけだった。
彼女は「しんどい人」のようだった。
彼女はとてもお洒落な人だった。頭が良くて、絵もうまくて、運動神経もよかった。いわば私の憧れだったんだ。
私は大学を出て就職し、結婚した。2人の息子を育て、無事大学まで出した。平凡な人生…。だけど幸せだ。そんなことをぼんやり考えながら、パート先からの帰り道、ママチャリを漕いでいるといつもの街並みにイレギュラーな登場人物を見つけた。「クッコ‼︎」私の叫び声に反応してくれたのは、四十半ば過ぎになったクッコその人だった。マウンテンバイクにまたがり、スタイル抜群のクッコはやはりカッコよかった。「クッコ、元気だった?」クッコはニッコリ笑って「うん、元気だよ。娘がいるの。フレンチジャパニーズなの。」ふふ、と笑う。やっぱりクッコってカッコいい‼︎

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