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好きnote 3 「冝間 正二郎さん」

第3回目にして、恐らく知ってる人は皆無な人物。冝間 正二郎さん。

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歌手としてデビューはしてなくても、私にとって冝間正二郎さんは最高の歌手。唄者です。今でも憧れの大スター。大好きなおじぃ。

正二郎おじぃとは西表島に住んでいた頃、集落のとある家の集まりで出会った。お酒に酔った正二郎おじぃは、突然「アリラン」を歌い出した。その声の朗らかなこと! 正二郎おじぃが歌うと周りが明るくなるような、花が咲くような、朗らかな響く声。その歌声を聴いて、私がもし西表島で民謡を習うならこの人に習いたい!と思った。


それからしばらくして、集落の青年部で今年の敬老会は何の出し物をするかを考えるミーティングがあり、私は迷わず「正二郎おじぃと一緒に歌いたい!」と意見を出した。

その場にいたみんなはシーンとして、その時の青年部長の眞吾から「やりたきゃやってみな。無理だと思うけど」と冷ややかに言われてしまった。それでも私はやりたかったのでミーティングの翌日から冝間さんの家に行って直談判した。

「今年の敬老会で正二郎おじぃと一緒に歌いたいので、そのお願いに来ました」

奥さんの照子おばぁはムッとして、正二郎おじぃはこっちを向かない。「悪いけど帰って」と家を追い出される。

しかし私は諦めなかった。翌日も、その翌日も、私は冝間さんの家に直談判しに行った。挙句、照子おばぁに「峰ちゃん、あんた迷惑だよ!」と言われたけど怯まなかった。

ある日観念したのか、正二郎おじぃが「ちょっと峰ちゃんと2人だけで話す」と奥の座敷に呼び出された。

正二郎おじぃ「あんた、何度も何度も、おじぃと歌いたいって言うが何でか? 理由を言ってみれ」

私「初めて正二郎おじぃの歌声を聴いた時に"何て朗らかな素晴らしい声だ!"と思って、もしこの西表島で民謡や唄を習うなら、正二郎おじぃに!と思ってました。なので、敬老会というこの機会に一緒に歌いたいんです!」

正二郎おじぃ「よし分かった! そんなに言うなら、おじぃにキスできるか?」

私「!!!!!!!」

正二郎おじぃ「本気で言うてるなら本気を見せれ!」

正二郎おじぃはニタニタと笑っている。これで諦めると思ってるのか…からかっているのか…。

私は覚悟を決めて、正二郎おじぃにキスをした。口に。

すると正二郎おじぃは爆笑して、「じゃあ、やろう! 但し、おじぃは歌わん。三線弾く。峰ちゃんが歌え。あんた何歌うつもりだったか? 合わせてみれ」と言い出し、三線を手にした。

私は喜納昌吉の「花」を歌いたいと言ったら、すぐに「花」を弾いてくれたのだけど、私がずっと聴いていたアーティストの「花」のキーと、原曲の「花」のキーが合わず、全然音が合わない。

「この下手くそが! そんな音痴で歌おうとしたのか? まったく話にならん! アンタが歌う(歌の中の)川は、自分勝手に流れる川だ。おじぃはみんなで一緒に流れる川を歌う。その違いが分かるか? 分かるまで来るな!」

正二郎おじぃに激怒され凹むが「違うキーで覚えてしまってたので、正二郎おじぃの三線のキーを覚えさせてください」と頼んで、何度か弾いてもらい、頭の中で再生して何度も口ずさんで覚えた。

その後何回か正二郎おじぃと一緒に練習し、敬老会の前日の最後の練習でおじぃは私にこう言った。

「アンタは少々音痴になる時もあるけれど、歌は峰ちゃんからの皆さんへのプレゼント。しみったれずに明るい気持ちで歌いなさい。歌を好きな気持ちで」


敬老会当日、私と正二郎おじぃの出番の時に、司会の眞吾が正二郎おじぃが三線を弾くと言うと会場がどよめいた。正二郎おじぃの孫娘のみさきが一緒に歌いたいとステージに上がってきた。

正二郎おじぃの三線で「花」を歌う。敬老会に集まったみんなも一緒に「花」を歌ってくれた。その時の景色は今でも思い出せる。夢みたいに。

その後ある人からこんなことを聞かされた。正二郎おじぃは昔歌手を夢見て沖縄本島に行ったけど、譜面が読めなくて散々バカにされて、歌手の夢は叶わず島に帰って来たこと。干立で長年唄者として祭や行事を盛り上げて来たこと。最近は耳が遠くなって音がズレたりわからなくなるから、酔っ払ってる時以外はめっきり人前で歌わなくなったこと。唄者としてのプライドが許さないから。だから、敬老会で三線を持って出て来た時は正直みんな驚いたと。

正二郎おじぃはその後も可愛がってくれた。私にくれたおじぃの名言がある。

「世の中には明るい面と暗い面がある。なるべく明るい面を見て生きなさい。おじぃは小さい頃、貧しくておじぃ以外兄弟みんな死んで、小さい頃から働きに出されたけど、おじぃはみんなが居て幸せ。

人間は生まれてきて、飲んで、食べて、恋して、ビッチュ(西表島の方言でSEXのこと)して、死ぬだけ!」


正二郎おじぃは亡くなって何年にもなる。先日、正二郎おじぃのことを思いながらギターの弾き語りで「花」を歌ったら、正二郎おじぃのニカーッとした笑顔がパーッと浮かんできた。太陽みたいに、おじぃの歌声みたいに明るく朗らかに輝いていた。おじぃは亡くなったけど、歌の中で会えるんだなぁと嬉しくなった。


歌手としてデビューはしてなくても、私にとって冝間正二郎さんは最高の歌手。唄者です。今でも憧れの大スター。大好きなおじぃ。また歌の中で会いましょう。


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