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コンパッションインタビュー(Dr.Erik van den Brink) by井上清子 2020.7.4 Part2

オランダの精神科医でMindfulness-Based Compassionate Livingの開発者であるErik van den Brink博士へのインタビュー(part2/2)です。Part1はこちらよりどうぞ。
日時:2020年7月4日
場所:オンライン
インタビュアー:井上清子

井上:今お話の中にあった、自分自身のセラピストになる、ということについて教えて下さい。

Erik:先程言いましたように、実際に、いくつかの患者グループに対し、並行でクラスを行いました。そして、医療従事者にも同じような手順で行いました。私が考えるに、マインドフルネスベースの手法は、苦しみの裏側にある普遍的なメカニズムと、その理解を扱い、これらにkindに接することです。そして、自己批判したり、困難を避けたり、物事に執着したりすることによって苦しみを増すものでなく、苦しみへ別の関わり方をすることによる治癒の一環です。これは本当に、無常さや物事は常に移り変わっていくものである、ということについての洞察を得ることです。

やってみてわかったことは、患者に対して行う場合と、医療従事者に対して行う場合で、大きな差がないということです。医療従事者自身も自己批判をする傾向があるのです。彼らの多くは成績優秀者であり、自分の弱さを恥ずかしく思っています。新しいテクノロジーを取り入れることが難しいように、変わることは難しいことです。

そして、気づくことは、ある意味で、私達は不完全である、ということです。そして、このような不完全さは、進化の過程で私達に組み込まれたものです。 私はコンパッション・フォーカスト・セラピーを開発したPaul Gilbertの仕事を参考にしています。脳は、もともと、苦しむようにできているということです。そのようになっていること自体は私達の過ちではありません。ただ、そのことを理解した時点で、私達はどうするかを選ぶ責任が生じます。

どちらに進むかの選択肢です。健全に生きていく道か、そうでない道か。いずれにせよ、そのプロセスはこの理解についてのものであり、そして、それに対してコンパッションをもって接することです。

もっと最近のことで、Jon Kabat Zinnの話をご紹介しましょう。彼はMBSRを開発し、ヘルスケアの分野で世俗的なマインドフルネスプログラムを最初に始めた人と言って良いでしょう。その彼が、このように尋ねられました。「マインドフルネスとは何かを一言で言い表せますか」と。彼は、それに対し、「いえ、一言では言えませんが、二言であれば説明できます。それは『マインドフルネス』と『関係性(relationality)』です」と答えました。関係性とは、自らの体験に気づくことで、かつ、健全にその体験に関わることです。そして、グループで行うクラスを通じて私達が目にする変化は、その関係性についてのものです。

「ああ、これが、自分が観察しているもので、自分の自動反応なのか」と。 嫌いなものには向こうへ追いやり、好きなものにはしがみつこうとします。困難なことを避けたり、心地よいものに執着しようとしたりします。
しかし、これらの傾向の中に、苦しみの大部分が隠れています。というのは、嫌いなものを追い払おうとしても、実際には避けることができないからです。逆に、しがみつこうとしても、実際にはそれを掴むことはできず、それはどこかへ行ってしまいます。なぜなら物事は常に移り変わっていくからです。そのため、私達はもっと苦しむことになります。ですから、compassion(コンパッション、いたわり)は、自動反応における力みから生じる苦しみを、本当の意味で緩めることに役立ちます。そして、ただ反応するだけではなく、よりうまく対応できるようになり、健全さやcompassion(コンパッション、いたわり)をもって体験に関わることができるようになります。

うつを何度か経験した患者は、MBCTのプログラムでこのようなことに気づきます。「ああ、私の考えていることは思考に過ぎない。思考は事実ではないのだ。」しかし、自分自身がそれと一体になっていると強く信じているときは、それらの思考によって苦しむことになります。しかし、先程言ったように、浮かんでいることは単なる思考に過ぎず、心の中で生み出されたものに過ぎないものであり、自分は必死になって苦しみから逃れようとしているのだ、ということがわかれば、それによってただ苦しみを増やしているだけだということが分かり始めてきます。

それは、あらゆることが見通せるような瞬間です。そうすると、その思考に付き従うのか、思考は思考に過ぎないと見るのか、異なる選択肢の中から選ぶことができるようになります。また、compassion(コンパッション、いたわり)を伴うあり方で対応することができるようになります。少し付け加えると、MBCLのコースでは、この関係性を明示的に取り扱う練習を行います。私達の想像力を用いる練習です。心を観察することにとどまらず、穏やかさを伴って心に働きかけます。そうして、批判することから、自らを助けるように変わるのです。

たとえば、安全な場所がどういうイメージになるか探ります。どのようなイメージとして浮かんでくるか。心が生み出すイメージのままにさせます。「こういうイメージであるべきだ」とか「あんなふうであるべきだ」とか「どの練習のときも同じイメージであるべきだ」と決めつける必要はありません。ただ、ありのままにそこで浮かんでくるものを探索します。安全な場所にいることを想像し、それをどう受け取るかをみていくのです。

それから、compassion(コンパッション、いたわり)を感じる親しい人を想像します。動物でも、その他のものでも、想像上のものでも構いません。そういった自分自身にとって親しい存在を、自分がどう受け取り、接するかを、想像しながら眺めていきます。また、自分自身がcompassion(コンパッション、いたわり)に満ちていることを想像します。それは自分を騙しているということではなく、練習の一部です。ここでは、結果としてどのような状態になるかといったことにはこだわらず、自分の心がある形をとった時に何が起こるかの探索を行います。体を使ってヨガをやるときは、姿勢ごとに決まったアプローチがあり、そうして体に何が起きているかを見ていきます。これと同じように、心にある形を持たせることで、心で何が起きているかを探索するのです。そうすることで、洞察を得て、kindness(やさしさ、親切さ)とcompassion(コンパッション、いたわり)といったものがどのようなもので、それらをどのように受け止めたら良いのかがわかるようになっていきます。

MBSRでは慈悲の瞑想を行いますが、MBCLでは行いません。MBCLでは、コース全体にわたって、あらゆるところにその要素が織り込まれています。自分自身、自分を見守ってくれる人、好きでも嫌いでもない人、付き合うのが難しい人、こういった人々にやさしい気持ちを向けていき、コースを通じて全ての人、最後には生きとし生けるものにまでその気持を向けていきます。
ある意味で、関係性を深めていくことです。それは自分自身に対してだけでなく、世界中の生物全てに対してです。

井上:2020年は予想しなかったコロナパンデミックを経験しました。そのときに思いやりやマインドフルネスがどのように私達を助けてくれたでしょうか。

Erik:もちろん、それはとても大事な質問ですね。マインドフルネスやコンパッションがどのように毎日の生活に関わるか、特に、こういった予想できなかったことが起きた時に。ご覧の通り、多くの人にとって、まったく先の見えない事態に陥っていて、この先どうすればよいのかわからない状況にあります。ここオランダでも、多くのヨーロッパの国々と同じようにロックダウン状態にあります。部分的なロックダウンなので、お互いの距離を保てば外に散歩に行くことはできるのですが。このような状態では、これまでのような仕事の仕方ができず、ほとんどの人は、可能な場合は在宅で仕事をするか、仕事から離れざるを得ませんでした。

もちろん、医療関係者は、緊張感を強いられる中で仕事をしていました。なかでも、最前線で働く人達は、感染した患者のケアをし、重篤な患者をどのようにケアするかということに神経をすり減らしていました。おそらく、これは脅威を感じ、そこから離れたい、もしくはこの脅威をコントロールしたい、というモチベーションから生じたものです。 ニュースを見ると、毎日、入院者数や重症患者数、死亡者数などが流れてきていました。危険な状況にありました。一部の人はこの脅威を克服するために忙しく働き、また一部の人は何をすればいいのかわからず立ち尽くすばかりでした。いつもよりやれることが減って、ただ心配するしかできませんでした。ここでも、自動反応がより大きな苦しみを生むことがわかります。これまで体験したことのないことや、先行きが見えないことに対して、心配する時、より強く苦しみを感じます。

一方で、これらの事態に対して、より創造的に対応することもできます。マインドフルネス講師や、仏教などの瞑想指導者など、多くの人がオンラインで瞑想のセッションを行いました。私も、他のマインドフルネスの先生達と一緒に、毎日、オンラインの瞑想セッションを、医療従者向けに行いました。それらのセッションにはとても多くの人が出席して、とても興味深いものでした。同じことが様々な国で起きました。まさに世界中においてです。
その時、多くの人にとって必要だったことは、立ち止まって静かになり、お互いに分かち合って、一緒に座り、自分たちに何が起きているかを眺めることでした。そして、多くの人が、無償でそのようなセッションを提供していました。オンラインでの瞑想セッションです。

多くの人が、内省を始めました。これまでのライフスタイルの何が問題だったのだろうか、何を変えることができるだろうか、と。ここオランダで印象的だったのは、青空が広がり、飛行機の排ガスが消え、星空がとてもきれいになったことです。鳥の声も聞こえました。いつもなら車の音がしている場所です。ある意味でとてもストレスを感じる時期でしたが、同時に、新しいものが現れてくるときでもありました。こういう生活もあるのだと。そして、生活の中で本当に大切にすることは何なのだろうか、私達はどのように生きるべきなのだろうか、この人生で何を表現したいのか。そういったことを考えさせられる機会であり、ただ、暗く苦しいばかりではありませんでした。危機の時期ですが、新しい発見もありました。そして、より深く、compassion(コンパッション、いたわり)に目覚める機会にもなったかもしれません。

もっとお話したいこともありますが、これが、ご質問への回答の始まりの部分です。

このインタビューにお招きいただきありがとうございました。とても光栄に思います。私がこれまでここヨーロッパで行ってきたことを皆さんと共有できることはとても嬉しいことです。そして、日本の皆さんにも同じように分かち合えればと思っています。通訳もありがとうございました。私が話したことを全て日本語にするのはとても大変だっただろうと思います。ありがとうございました。

(番外編はこちら

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◎MBCT(マインドフルネス認知療法) 8月22日

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開講日:2020年8月22日〜10月17日 毎週土曜日19:45-22:15
講師:井上清子
場所:オンラインZoom
詳細はこちらより

◎MBCL(コンパッションのマインドフルネス) 9月14日

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開講日:2020年9月14日〜11月9日 毎週月曜日19:45-22:15
講師:井上清子
場所:オンラインZoom
詳細はこちらより

◎マインドフルネス・オンライン・スタディグループ

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経験豊かなマインドフルネス講師を招いてのオンラインのスタディグループです。8月はErik博士にご登壇いただきます。
日時:8月6日、20日 いずれも20:00-22:00
場所:オンラインズーム
詳細はこちらより


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