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子ども期の逆境体験と、成人後の健康問題との深い関係

子どもの頃の過酷な逆境体験が、
成人後の健康に害悪をもたらすことが、
研究で明らかになっています。
(三谷はるよ,2023『ACEサバイバー』ちくま新書)

子どもの頃の過酷な逆境体験とは、
身体的・心理的・性的虐待、母親への暴力、
家族の薬物乱用・精神疾患・服役などが含まれます。

こうした逆境体験を経験すると、その後、
さまざまな疾患を抱える可能性が、増加します。


さまざまな疾患との関連性

どのくらい増加するかというと、
心臓疾患は、2.2倍、がんは、1.9倍、
脳卒中は2.4倍、身体の痛みは2.0倍、
慢性肺疾患は3.9倍、糖尿病は1.6倍
なりやすいという統計結果がでています。

さらに、
アルコール依存は7.4倍、薬物注射は10.3倍、
不特定との性交渉は3.2倍おこりやすい
という統計結果もでています。

メンタルヘルスに関しては、うつ病が4.6倍、
パニック・不安が6.8倍、自殺未遂が12.2倍
起こりやすいという統計結果が出ています。

子どもの頃の過酷な逆境体験が、
成人後に病気となるメカニズム

こうした状態に至ってしまうメカニズムは、3つ考えられています。

(1)ストレス反応の変化
(2)脳そのものの変化
(3)遺伝子の変化

(1)ストレス反応の変化


まず、ストレス反応の変化です。

成人後にこうした疾患を引き起こす要因として、
毒性ストレスの影響が指摘されます。
毒性ストレスとは、通常の限度を超えるストレス反応を引き起こし、
身体の摩耗と損傷を与えてしまうことになります。

人がストレス刺激を受けたときに、自分を守るための身体の中の反応には、
2系統あるとされます。
ひとつが、HPA軸、もうひとつがSAM軸です。

【HPA軸】は、
ストレス刺激→大脳皮質→大脳辺縁系・扁桃体→【視床下部(Hypothalamic)→脳下垂体(Pituitary)→副腎皮質(Adrenal)】
の後半部分です。
このHPA軸を通じて、ホルモンを分泌して、
身体の炎症やアレルギー反応を抑えたり、
代謝を促進したり、繁殖機能を抑制したりして、
強いストレスに対応できるように調整されます。

【SAM軸】は、
ストレス刺激→大脳皮質→大脳辺縁系・扁桃体→視床下部(Hypothalamic)→【交感神経系(Sympathetic Nervous)→副腎皮質(Adrenal Medulla)】
の後半部分です。
強いストレス刺激を感じると、
このSAM軸は、非常に急速に反応し、
交感神経系が活性化して、アドレナリンが分泌されて、
心拍数の増加、血圧の上昇、血糖値の上昇などがおこり、
「闘うか逃げるか」の状態に入ります。

慢性的なストレスに曝され続けると、
これらのHPA軸やSAM軸の調整が
うまく機能しなくなってしまいます。
つまり、HPA軸とSAM軸の動きが
止まらなくなってしまうのです。

(2)脳そのものの変化

慢性的にストレスにさらされ続けると、
脳は、ストレスに敏感な領域で、ダメージを
受けてしまいます。
脳が、器質的に、損傷を受けてしまうのです。

どういうふうに損傷を受けるかというと、
脳の容積が部分的に小さくなってしまったり、
逆に、容積が大きくなってしまったりすることが
わかっています。

そうした変化が起きてしまう部分として、
前頭前野、視覚野、聴覚野といった
部分が知られています。
(トラウマによって変わる脳(友田,2015:被虐待児の脳科学研究))
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jscap/57/5/57_719/_pdf/-char/ja)

(3)遺伝子の変化

子どもの頃の過酷な逆境体験は、
遺伝子のDNAを変えてしまうことがわかっています。
具体的にどう変わるかというと、
DNAのメチル化というものが起こります。
DNAがメチル化すると、遺伝子発現が抑制されて、
その働きがオフになります。
そうすると、本来は、遺伝子がオンになるはずのものが、
オフになってしまうということです。
そうした遺伝子には、
免疫反応や、神経内分泌に関するものがあり、
それがオフになってしまうと、
免疫反応や神経内分泌に障害が生じる可能性が
指摘されています。

おわりに

以上のように、子どもの頃の過酷な逆境体験は、成人後の健康状態にも
大きな影響を及ぼしてしまうことが研究でわかってきています。

じゃあ、どうすればいいのか、ということになってくると思いますが。

場合によっては、サポートを受ける必要が出てくるかもしれません。

そうした現状を改善するためには、
社会全体の取り組みも必要になってきます。
三谷氏の本では、子ども虐待を防止する社会制度の拡充を
求めています。

それらについて、詳しくは機会をあらためて。

参考文献

三谷はるよ(2023)『ACEサバイバー 子ども期の逆境に苦しむ人々』ちくま新書.


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