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第97回往復書簡 足立山(日記と手紙)

牧野伊三夫 → 石田千さんへ

 製材所のマーク

 日田で地元の林業を応援する活動をしている仲間たちと「ヤブクグリ生活道具研究所」という会社をつくることになった。製材所を営む佐藤栄輔さんのところから材を仕入れ、家具工房を営む戸高晋輔さんの工房で、家具やら日用雑貨などを制作するのだが、僕はデザイナーを引き受けた。デザイナーなどという肩書きで仕事をするのは、会社に勤めて広告のグラフィックデザイナーをしていたとき以来、三十年ぶりのことだ。昨日さっそく、椅子やらペーパーウェイトなどのスケッチを描いて二人に渡し、試作をはじめた。本当は日田の工房まで行って一緒に丸太や木材を選んだり、それを手にして具体的な加工の方法などについて話をしたいのだが、残念ながらかなわない。手はじめにいま、自分でナイフで削って作ったペーパーウェイトをモデルに同じようなものを作ろうとしているが、いざ製品化となると、形や削り方、仕上げなど、こんなちょっとしたものでも、ああでもない、こうでもないと気になりはじめる。
 この活動をはじめるにあたって、僕はロゴマークも作ることになり、仲間たちに選んでもらおうと、できたのを四案描いて見せた。採用されなかったそのうちの一案で、帯ノコをぐるりと輪にした図柄があったのだが、これを佐藤さんがとても気に入ってくれたので、佐藤さんに製材所の名を入れてプレゼントすることにした。
 実は三年前に家の改装をしたとき、床と本棚、下駄箱、机など、自作の家具に使う杉の材を佐藤さんのところからトラックで送ってもらったことがあったのだが、そのときの杉板は、同じ杉でもいつも日曜大工をするのにホームセンターなどで見るものとはまるっきり違っていた。木目も手触りもにおいも、これが杉の本当の美しさなのかと驚かされた。僕はもったいなく思って、クロゼットの天板用に製材してもらった板を用いて、食卓テーブルを作った。毎晩そのテーブルで晩酌をしているのだが、使うほどにその美しさを感じて、愛着を深めている。ロゴマークはそのときのお礼の気持ちだ。

(9月27日月曜日)

マルサク佐藤製材ロゴマーク 


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