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【動機編】Mammalianism Light - キリンの解剖学者とデスクライトを制作した話

どうもこんにちは。竹腰です。
デザインファームで働きつつ、週末に友人達とGADARAというものづくりユニットで制作活動をしています。

人の身体と道具の関係に関心があり、学生時代の作品やGADARAでの制作活動を通じて可能性を探求していきたいと思っています。制作に使えそうなものはとりあえず喰らいついてみたい系雑食デザイナーなんですが(今春はUnity勉強したいな)、特にデジタルファブリケーションをつかったプロダクトデザインやプロトタイピングが得意です。

さて、自己紹介もほどほどに本題、GADARAの作品を紹介したいと思います。

キリンの首構造を模したデスクトップライト「Mammalian-ism Light」

Mammalian-ism Lightは、キリンの首の構造特性を参考にデザインしたデスクトップライトで、人間が本を読むと近づいて書面を照らします。

その様は「誰か本を読みにくるのを(首を長くして)待っている」ように見えたり、「本に興味があって覗き込んでくる」ようにも見えます。骨むき出しなビジュアルなのに、不思議と可愛く見えてくる。

無機質な日常道具に生物的な機構を組み込むと、単純なインタラクションの中に、人間が意味のある振る舞いを勝手に解釈したり、特別な感情が生まれるのが面白い。そんな作品です。

ところで、なぜキリンなのか?どうやって動いてるのか?

Mammalian-ism Lightの制作経緯「動機編」とデザイン「制作編」について書いていきたいと思います!読んでいただけたら嬉しいです。

きっかけは科学×芸術のコラボ「つくばサイエンスハッカソン」​参加

それはさかのぼること約一年。GADARAが、G20茨城つくば貿易・デジタル経済大臣会合開催記念イベントとして、2019年3月~5月に茨城県つくば市で開催したつくばサイエンスハッカソン」にアーティストとして参加したのがきっかけでした。成果物は、5/10 -19 につくば中央公園のさくら民家園にて展示しました。

作品制作テーマは、「共生」を意味する「ホロビオント」

「ホロビオント(holobiont)」は進化論学者リン・マーギュリスが提唱した複数の異なる生物が 共生関係 (symbiosis) にあり、不可分の一つの全体を構成している状態のことを表す概念です。
たとえば造礁サンゴは、褐虫藻やバクテリア、古細菌、菌類が非常に複雑に相互作用するひと つのホロビオントです。また、最近の研究では、人間も腸内細菌が行動や感情、意思決定にま で影響を及ぼしていることが明らかになっており、ホロビオントの一種だと言えそうです。これ からの地球環境や健康を考える上では、生物を個体としてのみ見るのではなく、複数の生物 が共生するホロビオントとして見ることが大事なのではないでしょうか。
一方、VRやパワードスーツのように人間の身体・認知能力を向上する試みは人間と機械の境界線の見直しを迫っています。人工知能やロボットが仕事や生活のシーンに入り込んでくる未来では、人工物と人間の関係もホロビオントとして捉える視点が必要になります。
サイエンスハッカソンでは研究者とアーティストとともに様々な”ホロビオント”を表現すること を通して、これからの“共生”を考えます。

展示自体は5月でしたが、ハッカソンが始まったのは3月でした。参加した4名のつくば市在勤の研究者と4組のアーティストが組んで4チームをつくり、2か月間で作品をつくるというものでした。

振り返ると、まず研究者の方の研究を知ることから始まり、チームビルディングからプロトタイピングまで勢いよく駆け抜けたなあと思います。

キリンの首の秘密を知る

GADARAがコラボレーションさせてもらったのは、解剖学者の郡司芽久さん(国立科学博物館、日本学術振興会特別研究員PD)。キリンなど生物の解剖をして、生態や進化の研究をされてます。(2019年7月に著書『キリン解剖記』を出版!)

研究所訪問までさせていただき、沢山お話を伺いましたが、特に印象的で今回のインスピレーションになった内容がこちら。

・キリンも、ヒトも、首の骨(頸椎)の数は7つ。
・キリンの首は、ゴムのような弾性組織で引っ張って姿勢維持している。

頸椎の数は、実は哺乳類共通で7つだそうです。人間ってつい自分達を特別な生物だと思いがちですが、この事実を知ると、ああ人間とキリンもそう遠い関係ではないのだなと、改めてドキドキしました。(生物進化の系統樹を思い浮かべながら)

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キリンは高い木に茂る葉を食べ、大地を流れる水を飲みます。長い首の先で大きな頭蓋骨を支え、そのような動作を可能にするために、首には骨、筋肉、そしてうなじの部分に「弾性組織(靭帯)」が存在するんです。

この弾性組織は、強力なゴムのような特性をもち、首を常に引っ張りあげることにより、筋肉をあまり使わずに首の自立姿勢を保つことが可能になっています。頭を下げているときは、筋肉を使って弾性組織を伸ばし、顔をあげるときは、弾性組織の引っ張る力でグンっと勢いよく元の姿勢にもどるとのこと。

すごいですよね。博物館にある骨の模型を観るだけじゃわからない、動きのメカニズム。

※余談ですが死んでしまったキリンは、筋肉が動かないので弾性組織に引っ張られまくって首を後ろに沿らした状態で横たわるらしいです。

我々は、「7つの頸椎」と「弾性組織の張力によるアクチュエーション」を再現したプロトタイプをつくりながら、「ホロビオント」のアイデアを考えていきました。

キリンをつくってみた・なってみた(?)

ボツ案は山ほどありましたが、実は最初検討していたのは、「キリンと暮らす」をコンセプトに日用品をつくる案と、「キリンになる」という欲望に満ちた案でした。

具体的には、キリンのような振る舞いをするスマホスタンドや、キリンの視点になって散歩するVRコンテンツを考えていました。(ここからは雑な写真が多めなのでサクッと見てってください。笑)

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最初につくったプロトタイプは、超簡易的です。紙コップを頸椎に見立てて7つ連結させ、ゴム紐を背側に通して引っ張り自立させたものでした。

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理屈上でしか理解していなかったものを、単純な手段でも形にしてみることによって、だいぶ思考の解像度があがった気がしました。(モチベーションがあがっただけかもしれない)

紙コップキリンの先にウェブカメラをつけ、スマホの画面にストリーミングしてキリンの視点っぽい体験を簡易的に試してみたり、

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バケツをスタックして大きなキリンの首プロトをつくり、頭に被ってみたりしましたが、、、、(ハッカソンっぽい楽しそうな画像貼っときます)

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キリンの独特な首構造ならではの動きの面白さが、一人称視点で再現するとあまり体感できず活かしきれないのではないかという懸念と、制作期間を考慮して、「キリンになる」案はボツ。

紆余曲折しつつ最終的には「キリンと暮らす」日用品を制作していくことになりました。

サイエンスハッカソン運営局のほうでも、ハッカソンや制作の風景を動画にまとめてくださってます。よければご覧ください。(GADARAは、0:57から登場)

迷言「キリンになるんじゃなくて、キリンの首になる」もよければご査収ください。


動機編おわりに

GADARAの作家性は、スマホなど形も機能もスマートにデザインされすぎたものとか、マスプロダクションとかへのカウンターカルチャー的な軸があると思っているんですけど、

制作スタイルは、俺たちの身から溢れ出るクリエイティビティをひたすら表現しつづけるぜ!!とストイックに内製な感じでもなくて、今回みたいに何かしらの外的要因に触発されて(追い詰められて)、GADARAらしい新しい作品が生まれることが多い気がしています。

素晴らしいチャンスに感謝感謝です。

さあ、次回「制作編」ではやっとデスクライトの開発について書きたいと思います。当然、キリンの首機構を再現しようなんて思う人は世の中でほぼいなく前例がみつからないので、ハードウェアだけどアジャイル開発というか、泥臭く「動く/動かない」を物理的に繰り返し試して進めていくものでした。

かなり大変だったはずなのに1年前だともう記憶があやふやです。ちゃんと言語化して記録に残しておくって重要ですね。 noteがんばります。



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