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ミスチルは僕のことを歌ってくれている! なんて思ってたころがあった

世紀末の歌番組は鮮烈におぼえている。情報が少ないぶん、スターが突然現れるように見えたから。


椎名林檎が「本能」でいきなりランキング上位に出たときのミュージックステーションでは、椎名さん本人が
「えっなんで!?」
と、はっきり言った。

ラルク・アン・シエルがベストアルバムを2枚同時発売して、ベスト1,2を当然のように取っても表情を変えないのを、タモリが苦笑いしていた。演奏中もタバコを吸う、不良が好む音楽だった。アニメ主題歌をやるようになるとは思わなかった。

今のランキングと昔のランキングを交互に見ていく番組で、今の音楽に興味のない司会の徳光さんが初めて「孫」を口ずさんだことを仲山エミリが笑っていた。

ランキング形式だと、突然曲のサビの部分の、映像もいちばんかっこいい所を、事前情報なしで「バン!」と出す。B'zは「ねがい」のPVで水面を蹴った。いきなり画面ごしにぼくの顔にビシャっと水をかけてきた。

番組や曲よりも、そんな一瞬のことばかり覚えている。

さて、お題の「初めて買ったCD」のはなし。
新品で、買った店まで覚えているのはMr.children「DISCOVERY」です。

出せば100万枚売れてるひとが「抗うつ剤をちょうだい」とか、「下痢が止まらない」とか、お腹の弱い自分は共感できるアーティストだった。


ファンにキャーキャー言われることにうんざりして、憧れていたのはこんな人生だったのかなあ、とか考えて、女に誘われても面倒になってバッティングセンターに行く曲。
「ストッキングをとってすっぽんぽんにしちゃえば同じもんがついてんだ」
こんな曲は歌詞は童貞男子には書けない。
「すっぽんぽんにした女」には「何もついてない」と書いてしまうから。
同じもんがついてる。非難されてもどうでもいいような言い方。女も金も名声も、飽きるほど手にした。うんざりだ。うんざりが、行間からぽたぽたあふれ出ている。


そこから過去のアルバムを中古で買いそろえた。
カラオケの定番で、誰でも知っているアーティストが、シングル曲をあえて入れないアルバムを作ったり、作家性を出して、ちゃんとタイアップもやって、売れている。どういうことなんだろう。

そうか!
他の「自称ファン」たちは、ミスチル様のことをわかってなくて、ドラマの主題歌だからって理由で聞いてて、自分だけがこの天才のことを本当に理解しているんだ!!
桜井さんは、俺だけに歌っているんだ!

残念ながら、そういうことを言い出した。
今、そのころの自分に会ったら、なんと言っていいやら・・・だけど、そういう時期は愛しいし、今だとSNSで他の「痛いファン」を客観視してしまうから、若くてもそんな異常な熱が出ないんじゃないか。

その後「Q」とかいう、これ何ですか?これ何なんですか?ミリオンセラーがこれを出すことに偉い人たちはOK出したんですかって感じのアルバムを出して、何があったのか作風は明るくなっていく。優しい歌では、自分に向けた救いの手に気づけずにいた、と、これまでを知っている人ほど驚ける歌詞を書いた。

たしかこのあたりからCDの大きさが変わったはず。日本では2曲ぐらいのCDは小さい8センチシングルCDだったけど、宇多田ヒカルの影響で一気にアルバム、シングルで統一された。


無理してテンションを上げずに、振り向いたら窓から自然光が差していた、みたいな作風は続いている。

今、Spotifyで昔の作品から続いて聞いたら、人間の成長を記録した、まさしくアルバムのように、初期は青臭い。初めて聞く最近の曲は恐るべき緻密さ。しばらく耳の奥でリフレインしているぐらい、残る。
でも、初めて買ったときの、熱病のようなハマりかたはしない。

一番暗い時期の作風が、ぼくの一番暗い青春時代にガッチリはまったのだ。それがいいことだったのか、もっと明るいものにはまったら人生が変わったのかわからない。
青春時代に何にはまるかで人生が変わるのに、何と出会うかは選べない。僕にとってはそれがミスターチルドレンだった。

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はじめて買ったCD

読んでくれてありがとうございます。 これを書いている2020年6月13日の南光裕からお礼を言います。