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【読書記録】横溝正史「八つ墓村」の頭につける懐中電灯、前向きなのか上向きなのか

横溝正史の「八つ墓村」を読みました。
頭に懐中電灯を付けた殺人鬼が出てくるホラー小説としか知らなかったけど、実際はそれすら違っていた。

まず、あの人は本編に出てこない。
プロローグにしか出てこない。
頭に懐中電灯、銃と日本刀を持つ、要蔵という異常者が大量殺人を犯したことで、何年たっても忌まわしい記憶が沈殿している村。
また何か起こるのではないかと村人の恐れ沈殿した村。それが八つ墓村だ。

そのあとの「シワやシミまで完璧に同一な双子の老婆」もホラー映画のアイコンになれる怖さなのに、要蔵の絵が強すぎる。

過去に8人の落ち武者に祟られた八つ墓村で、のちに狂気の男要蔵が生まれた。
女が所有物にならないことで怒った要蔵は、突然懐中電灯を頭にハチマキで巻いて、無関係の村人を殺しまくった。理不尽な悪に襲われる村なのだ。


ところで、頭に懐中電灯をつけたら、空を照らすだけで意味がない。

これは側頭部に前向きに懐中電灯をつけてる・・・。

潜水艦からでた潜望鏡みたいな形になっている?

のちの映像では、懐中電灯が前に向けられて、標的を探すことができるようになっている。
でもぼくの解釈ではこれは違うなと。もうひとつ懐中電灯を胸につけているから、明かりは胸のライトのみ。おそらく頭の懐中電灯は真上に向いている

要蔵本人は丑の刻参りのイメージだけど、ロウソクがない! なら闇を照らすもの!あっ電灯あった!という連想なのだろうが、
本人にとっては重要でも、全く伝わってこない。でもその独りよがりなところが「狂気」。

過去に2度の恐ろしい事件があった、八つ墓村という名前。
この、横溝正史の固有名詞のセンス!
実在しない犬神家という苗字とか、ありえない地名を「こういう由来で呼ばれるようになった」と説明づけて、土地の紹介で引き込む。

主人公は、体に覚えのないアザがある以外は普通の勤め人。ある日とつぜん、自分が大量殺人を犯した要蔵の血を引き、かつ、資産を受け継ぐ権利があると告げられる。
導かれるままに八つ墓村に着くと、住人は、忌まわしい要蔵の血をひく男がやってきて「何か」が起こるのではないかと気が気ではない。

そして主人公の近くで倒れる村人! 村人たちはいっせいに疑惑の目を向ける。
そして、2人目、3人目。誰を犠牲者にするか法則が見えない!

まさか、誰でもいいから8人殺そうとする者がいるのか?
8人の落ち武者の祟りがある村なので、8をイケニエにすることで不吉なことが止まる。この村でしか通用しないような理屈で動いている人がいる。

やがて誰もがパニックになり、
「要蔵の血をひくお前が来てから、おかしなことが起こってる!」
と、村ぐるみで主人公狩りが始まる。

横溝正史が岡山に疎開して味わったであろう田舎の閉塞感が元になっているけど、一方で屋敷に隠し部屋があったり、落ち武者が残した埋蔵金を探したり、楽しいファンタジーもある。

現代の緻密なホラー小説と比べたら、事件のあとに宝探しって何って話だけど、二桁の死者が出る話を、最後は暗くならずに終わってくれる。
現実であって現実じゃない、横溝ファンタジーの出来事なんだと、いい意味で読後感が残らない終わり方をしてくれる。

読んでくれてありがとうございます。 これを書いている2020年6月13日の南光裕からお礼を言います。