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「プリニウス 8巻」ヤマザキマリを「テルマエ・ロマエの人」って認識で止めてる人はいかん!本当にいかんぞ!!

プリニウスは僕にとっての「横山光輝 三国志」なんです。
あのマンガで諸葛亮や呂布を知って、底知れぬ「三国志」ワールドの深みに入っていった人が多くいるように、古代ローマにはプリニウスという学者というか思想家というか、とにかくスケールの大きい人がいたことを知ったのです。あ、「プリニウス」っていうのは漫画のタイトルで主人公の名前ね!プリニウス様と、その一行が世界を旅する話です。

物語はプリニウスの旅と、ローマ本国、それぞれのサイドで進んでいく。

世界が未知にあふれている時代に、プリニウスが旺盛な食欲と好奇心で世界行脚していく。一方で、ローマ本国では皇帝ネロが財産を投げうって豪華な家を作ったり、呪いの人形が見つかって疑心暗鬼になったり、新興宗教「キリスト教」の信者が現れたりと混乱、崩壊への道を辿っていく。

プリニウスが残した本には、実在しないで生き物の記述もあるので、ちゃんと漫画内には「プリニウスは現代にはいない、こういう生き物を見たんじゃないか」って出てくる。「風邪にはハチミツが効くよ」と同じ温度で「ユニコーンの角でコップを作ったら毒を無効化できるよ」って話をするし、古代ローマの奴隷制度とか上下水道とか、地味な話も押さえて、足場をがっちり固めておいて、8巻の表紙が「ミノタウロス」!

実際の古代ローマの資料をもとに、実際の古代ローマとは一線を画す世界を創造している。史実と史実のスキマに想像力をぶち込んだ、ヤマザキローマとでもいうしかない独自世界が創られていく。

絵も、もともと緻密な書き込みだったのが、初期よりも人物がつぶらな瞳になって、表情にこめられたニュアンスや、驚いた様子だけで笑えてくるようになった。8巻では当時の発明品「魔法の扉」原始的な自動ドアみたいな発明品が出てくるんだけど、発明品そのものより、うわー!開いた!もう一回やろう!って大人たちが興奮してる顔がいい。驚いた顔、不思議がる顔。悔しさを表に出さないようにこらえる顔。顔、顔、顔。ローマの歴史を知らなくても、みんなの表情と文化を見て回るだけでいい。

ヤマザキマリ作品には「スケールが大きすぎて世界からはみ出ちゃった人」がよく出てくる。凄すぎる人へのあこがれと、可愛らしさみたいなものが。満たされることを知らない探求心で周囲を振り回すプリニウスも、癇癪持ちでマザコンで市民を振り回す皇帝も、
「男の人ってこういう、どうしようもない所も可愛いのよね」
と、巨大な母性に抱かれて愛しく描かれている。

読んでくれてありがとうございます。 これを書いている2020年6月13日の南光裕からお礼を言います。