見出し画像

フランス人のプライドが高い初代ルパンの「奇岩城」

紳士怪盗アルセーヌ・ルパンがルーベンスの油絵を盗んだ。

天才高校生イジドールが、警察が、ホームズが追う。
手下を縛り上げ、証言を地道に集めて、やっと隠れ家を探し当てる。

ここにルパンがいるはずだ!

しかし、血まなこでたどりついた隠し部屋には、

「ご苦労様。ずいぶん遅かったではないか」といったメッセージが残されている。またしてもルパンは一枚うわてだったか、とみんなでガックリ。そんな流れが繰り返される。

その中で、天才の素顔が見え隠れする。
何度でも追っ手を始末できるチャンスがありながら、手をくださない。
それどころか、自分がいかに天才で、きみたちの行動が初めから計算づくだったかの演説をはじめ、本当は友達がほしい寂しがりやのように、次の犯行のヒントを残す。


実在する絵画から、マリーアントワネットやフランス王家にまつわる秘密が明らかになる、大風呂敷を広げていく展開が、ぼくの知っているお孫さんの冒険に似ていて、なんか嬉しくなる。
無関係だと思っていた一人に「お前がルパンか!」と叫んだら、変装を解くくだりがあるのもテンション上がる。祖父からの伝統のワザだったのね。


三世とはっきり違うのは、ルパンは、フランスを背負う、フランス人のプライドが高いキャラクターであることだ。
英国からやってきた名探偵をあざ笑い、ヨーロッパ中から歴史的な美術品を集めに集めたルパンが最後に要求したことは、

「全ての美術品をフランス政府に寄付する。ただし、ルーブル美術館内にアルセーヌ・ルパンの部屋と名付けた一角をつくり、そこにすべてを保管しろ」
だった。

どの外国人よりもゆうがに、法律からもはずれてスリリングに人生を楽しむ。
それでいて、自分に夢中になったお嬢さんや高校生には、本音をぽろっともらすようなところもある。


彼の孫が日系人である、という設定が公式だったらおもしろい。
この一冊を読んだかぎりでは初代ルパンって、アジアに興味がなさそう。
フランスでも人気のあった浮世絵とかには手を出すかもしれないけど、他の作品ではあるのかな。
それか、「二世」が鍵を握っているか。父親とは対照的に、フランス人のプライドは高くない人だったとか。

ひと世代挟むことで、ルパンと日本を結びつけることに無理が無くなる。祖父と孫を知ると、語られない二世の想像がふくらむのが面白い。


読んでくれてありがとうございます。 これを書いている2020年6月13日の南光裕からお礼を言います。