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“畑の準備で働く準備のプログラム”「ハタプロ」で、“並列の瞬間”をつくりたい!

今回みなみなみなみオンラインでご紹介するのは、「ハタプロ」。
「ハタプロ」とは、畑作業の準備をお手伝いすることを通して働くための準備をするプログラムのことで、南区に拠点がある南青少年活動センター(以下、南センター)と中京区に拠点がある京都若者サポートステーション(以下、サポステ)とが合同で実施する活動です。

サポステとは・・・「働く」ために一歩踏み出したい15歳〜49歳までの現在、お仕事をされていない方や就学中でない方たちの「職場定着するまで」を全面的にバックアップする厚生労働省委託の支援機関。京都市ユースサービス協会が厚生労働省や京都市から受託し、個別相談やプログラムを通して、若者の就労サポートをしています。

南センターとは・・・青少年の活動場所で、中高生から概ね30歳までの若者がふらっと気軽に立ち寄れる南区内の施設。京都市から運営を受託し、市内に青少年活動センターは7ヶ所設置されておりますが、特に南センターでは居場所作りに加え、多様な参加プログラムを行っています。

若者の就労支援機関そして地域で青少年育成に取り組む施設が、それぞれの特色を活かしながら南区内で実施している「ハタプロ」の活動。そのきっかけや大切にしていることをお聞きしました。

お話を聞いた人
鈴江さん(京都市南青少年活動センター チーフユースワーカー)
國兼さん(京都若者サポートステーション チーフユースワーカー)

Q.ハタプロの実施のきっかけは?

國兼―「サポステ」と「南センター」は共に、公益財団法人京都市ユースサービス協会が運営していますが、それぞれで役割が違います。その2つが力を合わせて何かできないかというところが最初のきっかけでした。
「サポステ」では就職先を探す人だけでなく自分にあった仕事を見つけようとする人たちが多数登録をしています。その中には、「就職活動ってどうしたらいいのかわからない」という人や、そもそも「どうしたら仕事に就けるのかわからない」という人もいます。長期間働いていない人や、人との共同作業を苦手としている人もいます。そこでまずは、人と話すことに慣れることや、誰かと一緒に居ることに慣れるようなプログラムを実施しています。
「ハタプロ」の活動を、就労支援の視点で関わる「サポステ」だけでなく、その場に馴染むことを応援したり、挑戦を見守ってくれたり、若者育成の視点で関わる「南センター」と一緒に行うことで、参加する人たちが安心して参加できる場が作れる。安心できる場で、新たに地域の方や地域の青年に出会うことが、参加者にとっても、サポートする側にとっても、色んな成長につながるといいなと思い、プログラムの実施に至りました。

鈴江―新型コロナの感染拡大以前から、働く手前の若者や働いてみたいなと思っている人が就労体験をするという事業を「サポステ」と一緒に取り組んでいました。その時は、「南センター」1階の喫茶コーナーでサンドイッチを作り配膳をする仕事体験でした。しかし、2020年から新型コロナの流行によって、室内で人が集まって活動するプログラムや、食べ物を提供するプログラムがほとんどできなくなってしまいました。そこで、南区社会福祉協議会や南区のまちづくりアドバイザーらと開いている情報交換の会議で相談したところ、コロナ禍でも畑なら屋外で大丈夫なのではないかという話になり、まちづくりアドバイザーに農家さんを紹介してもらい、2021年に初めて「ハタプロ」を開催しました。屋内での活動が制限される中でも、若者が挑戦できる場をなんとか作れたらという気持ちでした。

Q. ハタプロの内容を具体的に教えてください。

鈴江―2021年11月・2022年11月・2023年2月の計3回実施し、南区久世学区の農家さん2軒に受け入れていただき実施しました。参加者と農家さん、スタッフ、そして参加者同士の話しやすさを重視し、定員は6名にして、1回目は5名・2回目は2名・3回目は6名の参加がありました。プログラムを実施するにあたり、「農業=完成した農作物を収穫するだけではないこと」を知ってもらいたい。また農業にも色んな仕事があることを体験してほしいと思い、収穫以外の農作業の体験をさせてもらいました。具体的には、収穫が終わったナス畑で大量の支柱を1本1本抜く作業や、トマトの苗を植える前に、ツルの誘引のための器具をハウスいっぱいに取り付けるなどのお手伝いをしました。目に見える収穫物を扱うだけでなく、準備や片付けなど多岐にわたる仕事があるということを少しだけですが体験してもらいました。

國兼―参加された方の多くは、「サポステ」からのお声がけに応じて参加してくれた人です。サポステに登録されている方々は色々な関心で参加を決めておられます。「ハタプロ」の場合では「身体を動かしてみたい」、「農業に興味があるのでまず体験してみたい、情報を知りたい」という方が参加しました。「ハタプロ」を一つのステップとして活用し、自身の就労の方向性を決定づける材料として活かしている方もいらっしゃいます。

鈴江―そうですね、詳しく話を聞いていくと参加理由が様々なことが興味深かったです。
単に誰かと協力して農作業を行うことが目的だったら、我々も作業の協力を促したらよいのですが、そうじゃない場合、自分の得意を高めたいとか、逆に自分の不得意に気づきたいとか、参加者それぞれの理由があるんですよね。
プログラムの進め方としては、事前に、「サポステ」と「南センター」が、コーディネートしてくれたまちづくりアドバイザーと一緒に受け入れ農家さんの畑を訪問し、プログラムの主旨を伝え、具体的にこの場所でこんな風にやってもらおうという打ち合わせをさせていただきます。そして、当日は午前中に2時間ほど屋外で農作業を行い、昼の休憩を軽くはさんだ後、午後は農家さんと参加者らが一緒にざっくばらんに話せる交流タイムを設け、農家さんがこの仕事に就いた経緯などを聞いたあと、気軽に質問できる時間をつくりました。そして、終了後にふりかえりシートを参加者に提出してもらい、後日に「サポステ」ではそれを用いて次の面談などにつなげていく、というのが一連の流れです。

畑での作業の様子

Q.交流タイムというのはどのような様子だったのですか?

鈴江―「今日やった農作業はどんな意味があったのか」、「年間にどんな作業があるのか」、「農業を仕事にしたきっかけ」、ご夫婦で農業をされている方には「奥さんと仲良く過ごすにはどうしたらいいんですか」など自由な視点で参加者から質問し、農家さんが答えてくれました。最初は質問が出にくかった参加者も、他の方の質問に刺激を受けて徐々にたくさんの質問が出てきました。
農家さんが「自分のことを話すのもなんやけど・・・」とはにかんで言葉を選びながらご自身の人生について話してくれたんです。その時からガラッと空気が変わった感じを受けました。“農業をする大人”、という印象から、“悩みながら試行錯誤してきた人生の先輩”と身近に思えたのかもしれません。それが参加者にとっては、話しやすい雰囲気、安心感につながったのだと思います。そこから一気に質問が増えました。

國兼―もちろん、安心して参加できる場が設定されたうえではあったのですが、農家さんの今までの経験をフラットにお話していただいて、それが参加者の経験と重なったり、触発されたことで質問が増えたのかなと感じています。農家さんがこれまでの色んなアルバイト経験をお話しされたときに、参加者が「自分が興味をもっていた仕事も経験していたのだ」とわかり急に興味を持った人がいたり、今やっている農業の仕事の話だけでなく、その人の人生の話を聞くことによって、そのさまざまな人生の経験を参加者自身が自分の内に取り込んでいくような場になっていたのかなと思います。農家さんが決して教育的な語りでないフラットな形で自分の人生を語っていただいた、というのがすごく大事だなと思って、いい場になったと嬉しく思いながら参加者の話を聞いていました。

交流タイムの様子

Q.単なる農作業体験だけでは得られない時間を共有できるところも「ハタプロ」の醍醐味ですね。その時間をつくるために共にユースワーカーという専門職のお二人が大切にされていることは何ですか?

鈴江―我々が先回りし過ぎて経験を奪ってしまわないことです。例えば、作業中に他の方に声をかけたいなと思っている参加者がいたとします。僕たちが先回りして2人をつないでしまったら、共同作業は素早く進むかもしれない。でも参加者が勇気を出してタイミングを諮って声をかけてみるという機会を奪ってしまったことになると思うのです。我々は、まずは待ってみる。そして必要ならサポートする。まず挑戦を見守る視点は大事にしています。

國兼―成功であっても失敗であっても、経験をしていくことが大事なんです。経験がその後、その人の内に自信や自己肯定感としてかたちづくられていくには、その経験を本人はどう思ったのか、それを扱ってこれからどう進んでいくのかを自分自身に落とし込んでいくことが大切です。「サポステ」が参加者との振り返りの時間までを含めて大切にするのは、「体験できてよかったね」で終わりではなく、どう未来につなげていくかというところまで、一緒に考えるよ、ということが我々の仕事と思っているからです。

Q.受け入れてくれた南区内の農家さん達は、「ハタプロ」に協力してどのように感じておられたのでしょうか?

鈴江―受け入れをコーディネートしたまちづくりアドバイザーが、後日にそれぞれ農家さんと話されていて、その時いただいた感想を我々も共有しました。それによると、普段は家族など少ない人数でやっている作業を、若い皆さんとできたことで、数時間とはいえ作業がだいぶ進んで、こちらも助かってありがたかったとのこと。また、初めて作業をする若者たちに作業を説明することで、ひとつひとつの作業にどんな意味があるのか、もっと良い方法はないのかと、自分自身も仕事を振り返るきっかけになったということでした。いずれの農家さんからも、これからの働き方を考える皆さんにとって自分の経験が役立つものになるのならば嬉しいと言っていただいたそうで、こちらも嬉しかったです。

畑での作業の様子

Q.「ハタプロ」のこれからについて展望を聞かせてください。

國兼―京都市ユースサービス協会が就労支援と青少年育成を実施しているという強みをいかして、今後も実施していきたいと考えています。それぞれの人の成長や自己実現に寄り添いながら見守り、未来に向けてキャリア形成を一緒に考えていく。この理念は「サポステ」と「南センター」で共通しています。「ハタプロ」に協力していただいた南区地域の農家さんには、そういった方向性を理解していただき、本当に素敵な関わり方をしてくださり、感謝をしています。
「サポステ」と「南センター」の合同で実施しているメリットを生かして、今後は、サポステ登録者でなくても、無業状態の若者や進路に悩んでいる地域の青少年が一緒に農作業に参加できたりするのもいいかなと思っています。安心して参加できる場と、新しいチャレンジの場のバランスをとりながら、若者たち同士が交流できたらいいなと思っています。

鈴江―「ハタプロ」をやってよかったのは、参加者の貴重な経験になったことはもちろん、運営する僕をはじめ、「南センター」や「サポステ」が地域の色々な素敵な大人に出会えたということです。若者にとって「意味ある大人」とは、例えば自分と接点を見つけられたり、自分と似たように悩んだり壁にぶつかったりしながら生きていて、その経験が今を作っていて、その一部を体験させてくれる人かなって思います。そういう人はどこにいるのかな?と思うけれど、実は地域のどこにでもいるんだなということが、色々な大人を見ることでわかったんです。「教えたい」と「教わりたい」が合致している教えと学びの場も良いのですが、それだけじゃなくて大人と若者・青少年が並列になる瞬間があって、そこでお互いが好奇心を持って仕事や生き方を語れる場が「ハタプロ」には確実にあったんです。そういう並列の瞬間を作っていくことが、我々プログラムをデザインする側にとって今後ますます重要になっていくんだろうと思います。教える・教わるだけじゃなく、同じようなことに感動したり、同じようなことに気を遣ったり迷ったりと、「教える側にいると思っていた人も、自分と同じ思いをしていたんだ!」とわかったときに並列の瞬間は生まれると思います。そういう瞬間を作っていける大人をもっと見つけていきたいし、そういう瞬間をつくっていきたいです。


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