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混ぜているのはコンポストと人の想い!~食のSDGs#たべるめぐるホテル~

昭和50年の開業以来「新・都ホテル」という名称で地域住民にも長年愛され、平成31年にブランドリニューアルした「都ホテル 京都八条」。
京都駅八条口から徒歩約2分という利便性高い都市型ホテルの正面玄関に、木製の箱が4つ並んでいます。ホテルの入口に違和感なく馴染むこちらは、ホテルのレストランから出る生ごみを堆肥(コンポスト)にするための容器「コンポスター」。このコンポストを利用してハーブを育て、食材として提供する食のSDGs「#たべるめぐるホテル」について、お話を伺いました。

お話を聞いた人
鵜飼和成さん:都ホテル京都八条 料飲部レストラン課長
小城恵さん:都ホテル京都八条 マーケティング部サブリーダー

Q.なぜこの取組を始めようと思ったのですか?

小城ーホテル内のバイキングレストラン「ル・プレジール」では、開業当初からブッフェを提供しておりますが、お客様にご満足いただきたいと質にも量にもこだわったお料理を提供するなかで、避けられない問題がフードロスでした。
何か一つでもこの問題に取り組めたらと考えていたときに、東京のホテルが大きな自家用コンポストプラントを設置し、生ごみや食品廃棄物を堆肥化している事例を知りました。契約農家さんにその堆肥を使って野菜を作っていただき、それをまたホテルで仕入れて従業員用の食堂や、ホテル内レストランの食材として活用したり、また日本庭園などを整備する肥料として活用するという循環システムを構築されています。いきなりそこを目指すのは無理かもしれないけど、一歩踏み出したい思いはありました。

ホテル正面玄関に並ぶコンポスター

Q.その一歩目はどのように踏み出されたのですか?

小城ー南丹市にある京都府立農芸高校に相談しました。農芸高校とは、地産地消を目的に、玄米を飼料にして育てた平飼いの鶏が生む「白い黄身の“玄米タマゴ”」を学校から仕入れて、レストランで提供する取組を令和3年11月から協働で進めていました。そのご縁で相談したところ、高校でも今後、土に関する取組をしていきたいという方向性が一致し、園芸技術科草花コースの生徒を中心に令和4年4月から連携した取組がスタートしました。

Q.その後、どのように進んでいったのですか?

小城ーまず、どういった食品廃棄物がコンポストに適しているのかわからなかったので、ホテルで出てくる色んな野菜くずを農芸高校へお渡しました。生徒の皆さんが研究するなかで、白菜やチンゲン菜など葉野菜の端材が適していることが分かりました。さらに、土の配合も学校で研究していただきました。赤玉土とかバーミキュライトなどの配合率の違いで分解や熟成が変わってくることも検証していただいたんです。
当ホテルの玄関においてあるコンポスターも同じ農芸高校の造園コースの協力で、授業の中で作っていただきました。高校の中でもこのプロジェクトを通して、コンポストの研究をする生徒とコンポスターをつくる生徒同士で意見交換が生まれたようです。担当の先生からも、生徒たちが将来の進路を考えるうえで良い体験になったとおっしゃっていただきました。

Q.ホテルでの取組ということで、こだわった点はありますか?

小城ーホテルの玄関にコンポスターを設置するので、臭いがしないことを優先して研究してもらいました。新しいコンポストができたと聞いたら、学校に出向いて確認し、逆に生徒さん達にもホテルに来てもらい、実際の調理場でどのように端材がでるのか、どのように運営していくのか説明するなど何度も意見交換を重ねました。
また、ホテルの玄関ですので、安全性もゆずれません。万が一お客様が開けても安全なように、蓋を蛇腹式で制作してもらったり、移動式の車輪と車輪止めをつけたりとさまざまな工夫を重ねていただきました。
生徒の皆さんが苦労して作ったコンポスターなので、ホテルスタッフにも大事にしていかないといけないという気持ちが沸いてきます。

京都府立農芸高校にて生徒たちとホテルスタッフが協働する様子

Q.ホテルでは、スタッフの方はどのように協力されているのですか?

小城ー現在、中国料理レストラン「四川」での調理の際に出た葉野菜のくずをコンポストの主な原料にしています。通常の営業体制の中で、コンポスト用と廃棄用とに仕分けするものですから、調理場の方にも協力を仰がないとなりません。そこは、料飲部の指揮のもと協力してもらっています。
鵜飼ーホテルとしてフードロスの課題に取り組むべきだという認識を調理場スタッフに説いていきました。調理場では、コンポスト用に仕分けしておいた一週間分の野菜くず3~4キロを細かく細かく切ってもらいます。それを乾かしたら2キロ弱の重さになるんです。
最初の頃、水分の多いトマトの端などをホテルの屋上に並べていたら、時間もかかるし、鳥は餌と思って寄ってくるし、雨でぬれるしと散々でした。そのような悩みを料理場で話していたら、調理場スタッフが協力するよって言ってくれて、現在はオーブンで2時間ほど水分を飛ばして乾燥してもらっています。
切った野菜くずを乾燥させたものを農芸高校が作ってくれたベースのコンポストに混ぜて、分解されたら、土に混ぜて栄養のある土にしていきます。混ぜるのは主に私の担当なので、我が子のように愛情をこめています。何事もここからはじまりますからね。

Q.その愛情と栄養たっぷりの土で、ホテル内でハーブを育てていらっしゃるのですね。ところで、なぜハーブにされたのですか?

小城ーまず育てやすいということが理由にあります。8月下旬に取組をスタートしたのですが、その時季に苗として植えられかつすぐに調理に使えるものということで、ミントやタイム、ローズマリーなどをセレクトしました。
鵜飼ー中国料理レストランで出た野菜くずからのコンポストなので、中国料理で使えるものということでパクチーも最初はあったんですが、そちらはうまくいきませんでした。日当たりが良く、水はけのよい場所ということで、ブッフェレストランのテラスで育てているのですが、レストランは夜でも明かりが点いているので、その光に虫がどうしても寄ってきます。香草類って虫がつきにくいらしいですけど、テラスにおいてあるパクチーに付いて、枯れてしまう事態に見舞われました。今は、農芸高校に相談して、虫がつかない対策に取り組んでもらっています。

Q.育てたハーブを使う調理場の反応はいかがでしたか?

ハーブに水やりをするホテルスタッフ

小城ー当初、ハーブを使ってケーキを作ったり、ボタニカルカクテル(植物を使ったカクテル)を提供していましたが、実際運用してみると収穫量が少なかったんです。使うハーブの種類が競合してしまうので取り合いになったりしました。でもホテル内部の調整で次第に、ケーキづくりにパティシエが朝に摘んだら、カクテル用にもシロップ漬けにしておいたりという協力体制が生まれてきたんです。今回の一連の取組で、ホテル内のそれぞれの部署が協力し合っていくという関係が、より強くなってきたという嬉しい効果もありました。

Q.育てたハーブを利用したメニューについて教えてください。また、今後のメニュー展開についても教えてください。

小城ーボタニカルカクテルは、令和4年夏限定のメニューで、今後はオリジナルのハーブティを提供する予定です。11月までデザートとして提供している―Rinne~輪廻~―というタイムのゼリーをつかったピンク色のケーキは、ショーケースに並ぶやいなや「待っていたのよ」とご注文いただくほどの人気です。
これから冬になっていくにあたり、冬から育てられる植物はないかと農芸高校に相談したところ、エディブルフラワー(食用花)に取り組んでいると教えていただきました。そこで、12月からは、エディブルフラワーを使った商品の販売をスタートします。また現在は、ハーブの苗を農芸高校から購入して育てていますが、今後は種まきからホテル内で取り組んでいきたいと考えています。

「#たべるめぐるホテル」第1弾メニュー Rinne~輪廻~

Q.ホテルのお客様などからどのような反応がありますか?

 鵜飼ー朝、コンポストを混ぜていると、チェックアウトされたお客様からお声がけいただき、会話がうまれています。玄関前のタクシーの運転手の方からも「こんなこと、やりだしたんやね」と声をかけられます。
小城ー夏休み期間中にスタートしたので、親子で宿泊されているお客様がコンポストについて話してくれたりするのをお聞きしました。コンポスター横に説明の看板を立てており、仕組みやこの取組をより広く知っていただけたらと思っています。
また、この取組をきっかけに、客室サービスの担当から、「記念日などにお部屋にご用意するウェルカムカードを、再生紙とか環境に優しい紙に変えられないかなあ」と相談を受けました。ちょうど、廃棄予定のお米が材料の紙「kome-kami」を「#たべるめぐるホテル」のフライヤーで使用していますので、それを使うことを提案しました。現在「kome-kami」のウェルカムカードの制作を進めています。
会社全体でも料飲部の取組を知って、「うちでも何かSDGsの取組をやろう」という意識が少しずつ芽生えていっています。

令和4年夏限定のボタニカルカクテル

Q.この取組を通じて、お二人の感じられたことをお聞かせください。

小城ー少しずつ環境に優しいホテルを目指していきたいです。ここ南区で昭和50年3月25日創業から数えて47年。住民の皆様があってこその私たち都ホテル 京都八条なんです。京都駅周辺は開発が盛んでおしゃれなホテルが何棟も建っています。それでも地元南区の方が何かの折のお食事や会社の集まりに当ホテルを選んでくださっていますので、地域にも恩返ししていきたいという想いはずっと持っています。例えば、地域の食材を提供する地産地消の取組などで、南区の住民の方ともっと関わりをもっていけたらと思っています。
鵜飼ー農芸高校の生徒さんは自分たちが研究したコンポストで育ったハーブが実際にホテル内でお客様に提供されているのを見て、すごく喜んでいました。自分たちが毎日学んでいることの先にこんな風にお客様が喜ぶ笑顔があるとわかってもらえたら、有意義な高校生活を過ごせるのではないかという思いを強く持っています。
小城ー元々、農芸高校とのつながりがあったので、とんとん拍子にコンポストの取組が進んでいきました。SDGsの取組をせねば!というミッションありきの企画だったら、きっとここまでできなかったと思います。「私たちSDGsチームって名乗っても良いかも?」と思えるようになったので、胸にSDGsのピンバッジをつけて、今後もできることから取り組んでいきたいです。

~お知らせ~

12月1日よりダイニングカフェ&バー「ロンド」にて、「#たべるめぐるホテル」第二弾メニューとして、朝摘みのタイムを使ったハーブティーやエディブルフラワーのゼリーケーキ「SUMIRE」を販売しています。

「#たべるめぐるホテル」第二弾メニュー ハーブティー
エディブルフラワーのゼリーケーキ「SUMIRE」

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