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結局、私は綺麗事を語り続ける

 真っ昼間なのに、青空なのに、顔は笑っているのに、真逆の何かが私の内側に居座っている。「震災から10年」という報道を目にする度に、だ。心の奥底が乱暴に掻き回される。塵が舞い上がり視界は濁る、汚泥が感情の円滑な流れを妨げる。

 報道内容が微笑ましい復興の話題でも、頷きがたい引っ掛かりを感じる。難しい課題や隠れた問題に切り込んでいても、ただ胸が燻るばかり。気にしないように努めているけれど、その違和に耐えられないときは、本能が情報を遮断する。見ない、聞かない、言わない、これが実に効果的。何百年も語り継がれていることは真理だ。

 雑談で震災の話題が出たり、テレビで津波の映像を見たりすると、今も鳥肌が立つ。比喩じゃない。本当に腕を触ると毛穴のブツブツがよく分かる。自分の意思では制御できなくて、これがトラウマか、って、いつも思う。

 あのころ刺さった鈎針が、今も抜けていない。もう、10年も経つのに。

 私は「震災さえなければ」というより「原発事故さえなければ」と強く思う。(※1)

 岩手や宮城の沿岸部に山積みされた絶望の瓦礫は、時間がかかってはいるけれど、新しい街へと、再生への道のりをゆっくりと歩き出している。でも、福島県浜通りにある、双葉町は、大熊町はどうだ。駅周辺は整備されたけど、それだけだ。壁には2011年3月のカレンダーがかかったままで、落ちた時計は14:46のまま、あの日から一歩も動いていない。主の戻らない家々は、ただ、朽ちるのを待つだけだ。
 
 双葉と大熊だけじゃない。浪江町だって、飯舘村だって、葛尾村だって、他の地域と同じように「あの時は大変だったな」と言いながら前に進んでいたはずなのに。

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……と、ここまで書いたものの「相馬市出身の人間が書くのはおこがましいんじゃないか?」と我に返る。(挙句、お前福島に住んでないくせにと言われたら返す言葉もない)
 正直、相馬は建物や街並みだけで言ったら震災前よりとても綺麗になった。失われた多くの命に比べたら全く釣り合うものではないけれど、復興が進んでいることは喜ばしいはずで、そんな場所の人間がいつまでも被災者ぶるのは良くない、とも思う。

 だったら被災者ぶるのを辞めて前向きなことを書けばじゃないか……なんて自分がよく分かっている。(※2)

 でも、綺麗事というホイップクリームでいくら装飾しても、肝心のスポンジケーキはパサッパサに乾いた部分やドロッドロに腐った部分さえあるし、岩みたいに凝り固まった部分だってきっとある。それらを無視して上っ面を整えても、虚しさが残ると直感したから、書かずに後悔するより書いて後悔しようと思った。その結果が、この記事。

 初期タイトルは苛立ちMAXの「#それぞれの10年、なんて書けねえよ」だった。企画の主旨はわかるよ、節目だし、声をあげてみませんかっていう投げかけはわかるけど、今、現在進行形で帰還困難区域を残しておきながら振り返りも何もねえよって思う。

 そんなことを壁にぶち撒ける勢いで5000字ぐらい書いて、脱線しまくった部分を削ってだいぶマイルドに仕上げた。作業中、そりゃあもう自分のダークサイドを見た気がする。「自分かわいそう」が前に出すぎて、一晩経ってから読み返した時の痛々しさといったらなかった。

 もしかしたら、私の心は「忘れないで」というより「置いていかないで」と言っているのかもしれない。私の故郷を、故郷で生きる人の心を置き去りにして「復興が進んでいる」と言われるのが寂しい。そういうこと。(←このくだりだけで1000字書いてたんだから根暗すぎる)

 でもよ。ケーキの話に戻るけど、切り分ける時に捨てなきゃいけない部分があったとして、対応次第で食べられる部分もあると思うわけ。乾いているならお茶を添えればいい。シロップに浸してもいいかもしれない。
 視点を変えるのも大事。時を経て旨味を増した部分だってある。熟成して芳醇な香りを放つかもしれない。食べられないと思っていた岩の中からダイヤモンドが出てくるかもしれない。

 見つめる角度を変えれば、在り方を変えれば、毒だって薬になる、石コロも宝石になる。と、信じている。

まとめ(無理矢理)

ダークサイドを掘り下げるときりがないので、明るい未来を自分で掴み取る方向で生きていきます。

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あー、結局、こんなことしか書けねえよ。綺麗事書いといて綺麗事読むと目を逸らしたくなり、それでも飲み込んでまた綺麗事を書く。毒と薬は紙一重。

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(※1)このくだり、書くべきじゃないのでは、と悩んだけど書きました。私自身がこの歪んだ感情を受け入れなきゃいけないと思ったからです。津波被害に遭われた方や亡くなった方、ご遺族の方を軽視する意図は全くありません。改めて深くお見舞い申し上げます。

(※2)今回は自分の中のダークサイドを掘り下げましたが、日常生活では比較的楽天主義、どうせ一回の人生なら明るく楽しい面に焦点を合わせていこうという考えで生きてます。そういう書き方も一案としてあったけど、今回の内容のほうが「本心」に近い気がしたので、先に書きました。下書きだけは結構持ってる(復興に向けて努力する人々を応援する記事とか、観光アピール記事とか、美味しいグルメレポート記事とか)ので、明るいバージョンも後日アップロードします。

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落ち着いたら別記事として書き直すかもしれません。

ボツった内容の断片を時間限定で出すかもしれません。

応援してくださるそのお気持ちだけで、十分ありがたいのです^_^