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爆売れ小説ペストを読んだら矢吹ジョーになった話


感染症の蔓延によりロックダウンされた都市が舞台である「ペスト」という小説をあなたは知っていますか?

70年以上もまえに書かれた本書は、「え、これ予言の書?」と、思わず息をのんでしまうほどにいまの現実と酷似している。その関連性がキッカケで、ペストはいま爆発的に売れている(らしい)。

であるなら、読書好きであるぼくがペストを読まない理由がない。ぼくは直ちに本書を購入することにした。

その日、足早に仕事を済ませたぼくは、家に帰るなり本を読む準備にとりかかった。

大急ぎで風呂に入る。カメにエサを与え、水槽の水を変える。「ぱぱ、わたしってどうぶつに例えるならなに?」と、お前はぶりっこ系のアナウンサーかと言いたくなる小4娘の質問に「猫」と答え無難にながす。

子どもたちの歯ブラシを仕上げ、おやすみを言ったぼくは、やっとこさ自分の時間だと冷蔵庫へむかった。

キンキンに冷やしたグラスをとりだし、氷を並々いれる。角のウィスキーをちょうど良いぐらいに注ぎ、ウィルキンソンで割る。

一口飲む。うまい。

もう一口飲む。うまい。


カバンからペストをとりだす。

表紙を一呼吸ほどながめる。そして、おもちゃの箱を開けるように、ぼくはゆっくりと本を開いた。そこには開口1番、こう書かれていた。


ある種の監禁状態を他のある種のそれによって表現することは、何であれ実際に存在するあるものを、存在しないあるものによって表現することと同じぐらいに、理にかなったことである。



……いや、わからんわからん!!!!


これがぼくとペストのはじまりである。





どうも!読書が愛人です。

ということで、今日は今売れに売れてるペストを読んでみたので、その一部始終をお伝えしたいと思います!

いやぁもうほんとね、苦労した。

そのことは冒頭の一節からもなんとなく想像できるでしょ?

本を読もうと思ったのに、読めない。いや、一応読めるのだけど、何を言っているのかが分からない。

焼き鳥屋さんに入り、「大将!焼き鳥の盛り合わせ一丁!」と注文したら「ごめん今日焼き鳥ないねん!」と言われるぐらいの衝撃。

もうね、本を開いた瞬間、つまようじぐらい細い声で「え〜〜〜…」って、思わず言ってしまいました。

日頃からぼくは本好きだ!と豪語しているにもかかわらずこの読解力!

情けないったらありゃしないのですが、まあそれがぼくのリアルなので仕方がない。お恥ずかしい限りではありますが、今回はそんなぼくの低レベル加減も正直に、書きつづっていきたいと思います!


ペストVS読書が愛人

冒頭の一節にジャブどころかライトクロスばりのカウンターをくらい、初手でダウンさせられたぼくは(ライトクロスとは相手が踏み込んで打ってきたパンチをギリギリでよけ、相手の顔面にストレートをぶち込むカウンター技のこと。相手の踏み込み分を自分のパンチ力に上乗せすることができるのでその破壊力は抜群。詳しくは「ろくでなしブルース」というマンガを参照下さい)、何とか立ち上がり、体勢を整えながら次なる攻撃に備えた。

こうなるともうリラックスして読むなんてできない。ガチガチにファイティングポーズをとりながら、ぼくは読み進めることに決めた。

一発目のカウンターほど威力はないモノの、あいかわらず厳しいパンチを展開してくるペスト。

サラッと読むことはできない個性的な文体。聞いたことのない熟語のチョイスに、予想どおり序盤からむずかしい試合運びとなった。

そして、それをさらにややこしくするのが登場人物の名前。

海外小説にでてくるひとの名前はとにかく覚えられない病にかかっているぼくは、そのことにもまあ苦労した。

リウーとタルーをまちがえる。久しぶりに登場したコタールに、お前誰やねんもう忘れたわ!とツッコみ、ページを戻す。

おいおいオランさん。あんた良いこと言うやないのって、オランて町の名前かい!ほな、今これ喋ってんの誰~~~!?とずっこける。

さらにはたびたび訪れる睡魔。そのことが決め手となり、試合は一旦中止することを余儀なくされた。

あかん。これ以上はもうむりやと。

読む気のうせたぼくは、2日ほどペストを放置した。

そして、体力が戻ったタイミングで再び殴り合うべく、ぼくはスピンが挟まれているページをひらいた。


またもやダウンさせられた。

以前読んだ内容が、ぼくのアタマからきれいさっぱりなくなっていたのだ。

もう誰が誰にむかってなにを言っているのか。なーんにも分からなかった。「あれ?これはコナンドイルだっけ?」と思わせられるほどに内容がミステリーに包まれていた。

もはや途中から読み進めることはできない。そのことをぼくは悟った。


立て!立つんだー!!ジョーーーッツ!!と、矢吹ジョーばりにノックアウト寸前の心身。しかし、微かに聞こえる丹下のおっさんの声が、もう一度戦う勇気をくれた。

折れかけた心をなんとか奮い立たし、もう一度物語のはじめからぼくは読みなおすことにした。

そして思った。ここまで来たらもう、ゆっくり時間をかけて読んでやろうと。


長い戦いがはじまった。読んでいる最中、睡魔は相変わらずぼくを襲った。お前は快眠グッズか!と言いたくなるほど、ペストはぼくに眠りのジャブを浴びせつづけた。

それでもぼくは読んだ。雨にも負けず、風にも負けず読んだ。睡魔にはちょいちょい負けたけど、ぼくは宮澤賢治じゃないのでそんなものは関係ない(じゃあ適当な引用をするな)。

そんな、色んな葛藤のすえ、ぼくはようやくペストを読み終えた。

苦節、一週間と三日ぐらい(そのうち二日は逃亡)。ぼくとペストの戦いはここに幕を閉じた。

いやぁ、マジで疲れた。



それぞれの信念。それがペストの見所

ということでぼくは何とかペストを読み終えることができた。

もちろん勝敗的に言えば勝ったとはいえない。むしろボロ負けのような気もするけれど(いずれにせよ戦い抜いたことは確かだと自分をほめてあげたい)。

さて、そんなこんなでここからは本書の内容について書いていきたい。

疲労具合からすると、もう読み切ったでいいじゃない!そこで終わりでいいじゃない!って感じなんだけど、折角なのでここに簡単なあらすじと、自分の感じたことをまとめておこうと思う。



※ここからはネタバレを含みます!ご注意を!

冒頭でもゆるく伝えた通り、本書は感染症の蔓延により、封鎖されてしまった都市(オラン)が舞台の物語だ。

そして、本書をよむ最大の意義は、そのオランに住む主要人物たちの生活を通して、この事態を疑似的に体験してみるところにある。

例えば、感染症に立ち向かう医師リウーという人物がこの物語には登場する(というか主人公だけど)。

リウーはペストが終息するまで、ずっと感染症と戦う。自分が感染してしまう可能性の高い現場で、それこそカラダがボロボロになろうとも、誠実という信念をかかげ、毎日懸命に戦い抜く。

一方、元々オランに住んでいたのではなく、仕事でたまたまオランにきていた際にロックダウンが起こり、町を出れなくなったランベールという男がいる。

ランベールはそのことに納得できず、なんとか町をぬけだそうと必死に策をねる。あげくのはてには違法なルートから脱出を計画したりする。

ランベールは外の町に妻がいる。「ぼくは感染症になどかかっていない。仮にかかっていたとて、ぼくは妻に会ってから死にたい」という思いからランベールは脱出計画に奮闘するのだ。

おなじ町でおなじ出来事に襲われているリウーとランベール。しかし、お互いの行動は全くといっていいほど違う。その違いこそが、本書のおおきな見どころ。

その他にも主要となる人物が数人でてくるのだけど、そのどれもが違う信念、正義、あるいは価値観をもっている。

そういった人物たちの生き方を通して、もし自分が究極の極限状態におちいったら、自分はなにを信念に生きるのか。

そんなことを問うてくるのが本書ペストだと、ぼくは考察しました。


正しい正義などない

ぼくがペストを読んで思ったこと。

それは、絶対に正しい正義などやっぱり存在しないのだなぁということ。

ランベールの件を思いだしてほしい。一見、ランベールの行動は悪のように見える。

だけど、「お前はランベールの想いにランベールが納得のいく反論をすることができるか?」と言われると、ぼくは首をかしげる。

むしろ、「君の名は」より「天気の子」派のぼくは、ランベールのその行為に、ある意味ではとても関心させられた。

世界を敵にまわしてでも守りたいものがある。そう言われたら、何も言い返せないよなぁと、ぼくは天気の子に教わったからだ。

まあ、さすがにそれは言いすぎだけど、何にしたってぼくたちには、理論のなかだけは抑えることができない感情がある。それは、突き詰めると理論的な答えなど出せないということでもある。

さらに、ぼくたちが住む世界は、様々なことが群発的におこる。ときにそれは、とても不条理なカタチで(感染症だけでなく地震や津波もそうだ)。

そんな不安定なぼくたちと不安定な世界で、みんなが納得する唯一無二の正解などだせるわけがない。と、ぼくは本書を読んで強く感じた。

であるなら、個人の想いを大切に生きること。そして、できうる限りそれらをみんなで尊重しあうこと。

それが、極限状態に陥ろうと(あるいは日常だろうと)、いまよりもマシな世界をつくる、ひとつの方法なんじゃないのかなぁなんて、恥ずかしくも思ったりした。

何が正解なんてこれからもきっと分からない。

そんな地で、もしあなたが極限状態に陥ったとき、あなたはどう生きるのが正解だと思いますか?


おわりに

読み終えるのにとても苦労した本だったけど、結果的には読んで良かったなと心から思える本だった。

ウキウキするような物語ではない。読後感がスカッと爽快!なんてこともない。どちらかというと、どちらもその逆の感情を与えられる。

だけれど、コロナウィルスの猛威を体感したことがあるぼくたちにとって、これはそう遠い話ではない。そのことについて考えを深められたのは良かったなと、今は率直に思っています。

気になった方は是非ご一読を。

あまりの読みにくさに、あなたもコテンパンに殴られることをぼくは期待しています!



ちなみに冒頭で紹介したこの一節↓

ある種の監禁状態を他のある種のそれによって表現することは、何であれ実際に存在するあるものを、存在しないあるものによって表現することと同じぐらいに、理にかなったことである。


実はこの本、ナチスに支配されたフランスを表現したものらしいのね。

だから、そのときのフランスを空想で描いたモノ(ペスト)で表現することは、本当にある何かを実際にはない何かで例えるぐらい、伝わりやすいよぇ、とぼくは読みました(間違ってたらすいません&正解を教えて!)。

メチャクチャ伝わりにくいけどね!


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