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ステレオタイプ脅威を乗り越える対話

友人とジェンダー課題について勉強会を始めた。彼女は最近ある日系企業の社外取締役を勤めるようになって、初めて「こういうことか!」と腹落ちしたそうだ。今まで女性が多いファッション業界や、外資系企業に勤めてきたので、女性オンリーワンの経験がなかった。帰国子女で英語に不自由がないことで、心理的にも海外からの情報集まり具合にも常にアドバンテージがあったのも心理的安全が確保されていた理由かもしれない。それが、伝統的な男子会のり企業で取締役会議に女性一人で出席、あ、見られている、グッと緊張した、と言う。

勉強会の課題図書『ステレオタイプの科学』クロード・スティール著を読んだ。大学院生時代にレポートを書くために英語で読んだ記憶が朧げにあったが、今回日本語で読んで腹落ちした文章がこれだ。ステレオタイプは認知(あるカテゴリーの人にどういったイメージがあるか)、偏見は感情(ネガティブな他者へのイメージに対する拒否的、嫌悪的、敵意的感情。これには本人が意識している偏見と、無意識のバイアスの二つがある。)、差別は行動(この感情に基づいた行動)。アイデンティティ付随条件とは、ある状況下で特定の社会的アイデンティティを持つがゆえに対応しなくてはならない物事。例えば、会議で全員が日本人男性の中、自分だけが一人女性であったとき、発言がいまいちだったら、ロジカルじゃない、やっぱり女性だからね、と言われるかもしれないという特別なプレッシャーを感じれば、これはアイデンティティ付随条件だ。本書は、「周りから偏見や差別がなくても、本人が周りからどう思われているかを怒れるだけで、ステレオタイプ脅威は出て」パフォーマンスが低下することを様々な研究データで紹介する。

パフォーマンス改善にはフィードバックが重要だが、ステレオタイプ脅威を感じている人たちへは、感じていない人たちより一つステップを追加してフィードバックすることが重要だ。「脅威に対して強く警戒する」ナラティブを、「その環境に帰属し、成功できるのだ」という希望的なナラティブに切り替えられれば、フィードバックを素直に受け取り、多くのエネルギーやモチベーションを本来のタスクに傾けることができ、パフォーマンスが改善する、と本書は述べている。そのための心理的介入方法は低コストだ。初等・中等教育の研究結果だが、企業に勤める大人にも十分通用することと思うので、ここに記したい。「要求は厳しいが支援的な関係を作ることによって信頼を醸成すること、将来的にはその環境に帰属意識を持てるようになるという希望的なナラティブを構築すること、多様なアイデンティティを持つ人たちが交わる気さくな会話の場をもうけて、辛い経験はアイデンティティだけが原因ではないとわからせること、重要な能力はこれからでもできることを示すこと、そして子どもを主役に据えた教え方をすることだ。」

もう一つ興味深いのは、飛行機で黒人の座った席の隣は空席が多いという現象に対する考察だ。実験の結果、白人は偏見からではなく、「白人は人種差別主義者だ」ステレオタイプを追認してしまう不安から、黒人の会話相手になることから遠ざけようとすることが判明したのだ。「それは、ステレオタイプ脅威、すなわちその環境における白人のアイデンティティ付随条件だった。」

人々を遠ざけ、お互いに居心地を悪くするステレオタイプ脅威を乗り越えるのが、対話だと思う。ステレオタイプを否定したり、ステレオタイプ脅威を回避するのではなく、たとえその集団についてネガティブな言動をとっても、自分はそれによって評価されることはない、「これは学習の機会なのだ」と思わせる場を提供し、交流を通じ緊張関係を緩和し、信頼関係を強化できると良いと思う。LeanInサークルをそんな場所にしたい。

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