少子化対策:女性の逸失所得防止が本筋

学習院大学経済学者の鈴木渉教授が2023年3月27日の日経新聞に寄稿した『少子化対策の視点、女性の逸失所得防止が本筋』は、その通りだと思う。共働きが一般的な若い世代が、結婚・出産をしたいと思うためには、1人子供を育てるための費用1300万円から3000万円程度の一部を政府が支援するよりも、数千万円から1億円以上と試算される子育てでキャリアを中断する女性の逸失所得発生を防ぐ社会変革施策に移行できるかがキーとあった。女性の逸失所得防止を実現するためには、制度改革だけではなく、男女役割分担意識変革、企業文化改革などやることが満載だ。「異次元の少子化対策」なら、日本の女性ダイバーシティに踏み込んで議論していきたい。

記事の要約をしてみる。
・22年の出生率は79.9万人と、初めて80万人を割り込んだ。22年の婚姻率は人口1千人当たり4.2と、15−19年平均4.9から急落しているのは深刻な問題。
・経済学的に言うと、出産とは夫婦による一種の投資行動。長期的な費用と便益を比較考慮して、子供と言う耐久消費財の投資量が決定される。
・1人の子供にかかる教育費や生活費は1300万円から3000万円程度。研究によれば、子育てでキャリアを中断する女性が被る逸失所得は大卒女性で約2億円、高卒女性でも約1億円。
・この大きな差を考えれば、月数万円程度の児童手当等の現金給付は、焼け石に水だ。また政権が変わるたびに変更される不安定の制度では、長期的な投資は決断できない。
・従って、少子化対策の本丸は、女性の逸失所得発生をいかに防ぐかにある。日本企業の特徴である長時間労働、転勤の多さ、出産時期を先送りさせる年功序列的遅い昇進制度等は、共働きが一般的な若い世代にとって、結婚と出産の障害でしかない。
・政府は、長期雇用労働者+専業主婦の伝統的モデル世帯から、欧米のように男女ともに仕事を継続しながら子育てをするデュアルキャリアカップル向けの施策に軸を移すべきだ。

現状日本の管理職に占める女性の割合が少ないのは、長いことかけて作り上げられてきた男性中心社会・制度・ルールに問題があることに疑いがない。ここで難しいと感じてしまうのは、では、例えば長時間働かなくなったら男女平等に家事子育てを分担するか?という問題である。私自身は、7年前まで18年間結婚していて夫婦の収入はいつも同程度だったし、私の方が長時間労働で、昇進スピードは私の方が早いくらいだったけれど、家事はほとんど私に降り掛かってきていた。元旦那さんは、家事は女性がやるべきとは言わなかったが、掃除や洗濯をする頻度を極限まで減らそうと提案することによって、私はいつも我慢比べに負けてしまうのだった。

21年の出生動向基本調査で30歳代前半の男性の約3割、女性の約2割が一生結婚するつもりがないと答えている。この背後にどんな思いがあるのか?少子化対策に女性の逸失所得防止が不可欠であるが、女性を含む全てのジェンダーがフェアに幸せに生きられる社会を実現するために、やるべきことは一つではない。しかも、多くの項目を同時にチェインジしていかなくては効果を実感できないだろう。その改革を推し進めていきたいと願う指導的立場の女性の数増加が、どうしても必要だと思う。

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