革靴から開放されたい
三村九段のミム囲碁ラジオ 第58回
今回は前回の服装の話に続いて靴の話をします。
対局の時、大切な時どんな靴を履くか。これが意外と棋士の悩みで、いろいろ考えることがあります。
この放送はプロ棋士40年、囲碁サロンと子供囲碁道場を運営する三村智保が囲碁の情報をサクッとお伝えする番組です。
前回は僕らの囲碁の棋士の対局時の服装についての話をしました。
その流れで履物の話です。
靴はスニーカーが良くないっていうことになっています。これは破ってる人多いです。スニーカーだと楽なんですよ。囲碁の対局は朝10時から始まって夜10時ぐらいまでかかる時もあります。長い時は10時間ぐらいずっとこう打っています。そうしますと革靴って苦しいんですよ。
男性しかわからないかもしれませんが、スーツの時に履くような革靴、あれをずっと履いていると足はかなり疲れます。
仕事が終わってネクタイを外す時にホッとする、今日も一日終わったっていうのと同じように、革靴を脱ぐ時に感じる開放感っていうのも半端ではないんです。
女性の服装に関してはルールは厳しくありません。女性の場合はスーツとかネクタイとかそういう決まりきった型がないんです。これはダメあれはダメという決まりは少ないんですけども、男性の場合はいろいろあるわけです。履き物に関してはスニーカーは良くない、あと当然ながらサンダルはNG。
公式の時の服装としては相応しくないのでやめましょうね、ということになっていますけども、スニーカーを履いている棋士というのは多いんです。
先ほど言ったように革靴をずっと履いていると苦しいから、上下ジャケットにスラックスのような格好なら革靴を履く方が見た目的には良いでしょうけども、そこでスニーカーを履いている若い棋士が多いです。
私なんかもベテラン棋士の中ではスニーカーをできれば履きたいなと思う方です。首と同じで足も締め付けられたくないわけです。
ですが見ている方が変だと思うかもしれない。
例えば7番勝負、一力遼さんと芝野虎丸さんが対局をしていて、歩いているシーンとかも写されたりしてスニーカーだったらマズイでしょう。ネクタイをして革靴を履いている方が普通でしょうということになるわけです。
これはどれくらいまではこだわって、どれくらいまでは緩く見てっていうことになるんだと思います。一応スニーカーで対局に来るのはいけないことになっていますが、罰が何か設定されているというわけではないので緩いお願いというか、できればこういうふうにしましょうぐらいの感じなので、実際はスニーカーで打っている人がいるということです。
もう1つスニーカーにあるメリットは、音が立たないことなんです。
日本棋院で対局するときに床がフローリングであることも多いです。そうすると席を外して隣の部屋やトイレに行くときにはそこの固い靴ですとゴンゴンゴンとかコツンコツンコツンとか響いちゃうんです。底が柔らかい靴ですとそれが心配がないので。
対局室って図書館よりも静かですから、音がすごく響くんです。他の対局をしている人に余計な音を出さないという配慮は常に必要で、靴から音が出てしまうのは音が出てしまったことに自分も気にしてしまいますので、そういう点でもスニーカーの方が使い勝手はいいんですけども。
やはり見た目としてどうかということが問題になります。
あともう一つテレビで対局するとき、これは一番見た目に気をつけなければいけません。対局者はもちろんスーツに革靴で打ちます。
解説者の足元は映らないので、ここはスニーカーで行っても大丈夫です。
まあテレビの収録はそんなに長い時間ではありませんので革靴でもいいかと思いますが。
そこで一つ面白い話がありまして、テレビの解説をするときには背の高さが問題になってきます。
例えば聞き手の女流棋士と解説の男性棋士の背を比べたときに、女性の方があまりにも大きい場合にバランスを取ろうとして、制作スタッフさんから「すいませんけど台に乗っていただけますか」となります。
少し前までやっていた星合志保さん170センチあります。私166センチです。私の方が小さくても全然気にしないんですけども、女性の方が大きい場合に男性を台に乗せるということが多いです。
ですから昔から小柄な棋士は相手がどなたの時でも台に乗って解説をするということをやっていたのかもしれません。私は星合さんになってから初めて台に乗るということを経験しました。
そうなってきますと大盤の前で石を操作したり説明をしたりするときに台に乗っているところから落ちないように、とか気になってしまう部分も多少ありますので
じゃあ最初から厚底の靴を履いていったらどうだ?
ということを考えたわけです。結局試すことはできなかったんですけども。
私が若い頃にはシークレットシューズと言いました。今でもそういう名前で多分あるんだと思いますけども、これを履いて10センチ上げていけば、私は176センチになるわけだから多分台に乗らないでいい。面白いじゃないですか。
シークレットシューズをNHK杯のために買って。でも当日行ったときに
「あれ三村さん今日は大きいですね」みたいに言われて
「もうセットを用意しちゃったんですけど」みたいになってしまったらまずいので、じゃあ事前に連絡して
「私ちょっと10センチ上げ底で行きますからよろしくお願いします」とかやるのか。
あるいは履いたらすごく動きづらかったり帰ってやりにくかったりとか。
迷っているうちに星合志保さんが辞めて今は安田明夏さんに変わってしまいまして、安田さんと私が先日一緒に解説を撮ったときには
以前とはまた違う台が、女性の聞き手と男性の解説者と繋がった一段高い台のようなところに乗るような感じになっていて、男性だけ一段高くするようなことは無くなっていました。
これはつまり盤面に対して聞き手と解説者は一段高くした方が、映像的にいいということになったんです。以前にはなかったことです。
つまり星合志保さんがNHK杯のスタジオの基準を変えた。星合さんが登場したことで男性たちは軒並み台に乗ることになって・・・
盤に対して高い位置で解説者が喋った方が良いんだ。聞き手の背に関係なく一段高いところで話してもらった方がいい映像が撮れるということになったのではないかと私は読んでるんですけど、どうでしょうか。
コロナ禍が起きてリモートでの仕事が「むしろこれ良いじゃん」ってなったのと同じように星合志保さんがテレビ碁解説に大きな変化を与えたということなのではないかと考えて面白いなと思いました。
ということで私の厚底シューズの挑戦は残念ながら実行できませんでした。
何かまた必要な機会があったら一度やってみたいと思っています。
ということで今回は囲碁の棋士の靴の話をしました。
それではまた次の放送でお会いしましょう。囲碁棋士の三村智保でした。
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