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村上春樹『一人称単数』文藝春秋

やっと今頃になって読んでいる。図書館の予約数が少なかったからいつもよりも人気がない本なのだろうか。と思って読んでみたら、わりと好み。実はわたしは村上春樹の小説で一番好きなのがフラッシュフィクションを集めた『夜のくもざる』なのだが、この本はそれに似た趣の短編集だった。ただ装幀がちょっと残念だったかな。

初めの何篇かは実話っぽい雰囲気なのだが、途中から明らかにファンタジーになっていき、「品川猿」や「一人称単数」でとどめを刺す感じ。自分の中の暗さや無自覚な罪の話が多い。

「ヤクルト・スワローズ詩集」の詩が詩としてあまりに下手でげんなりした。ただ改行しているだけで、そのまま続けて書けばいつものエッセイだ。わざと下手に書いているにしても、ちょっとひどい。彼が訳したレイモンド・カーヴァーは短編を書き、詩も書いた人だが、詩はちゃんと詩になっていて、けっして短編を強制改行したものではない。その点を再認識した。カーヴァーはいい。

いや、村上さんも詩はいまいちだけど、ストーリー・テラーとしては大したものなのだ。いかにも村上風ではあるけど、毎度その不思議さに感心してしまう。今回も「クレム・ド・ラ・クレム」なお話を堪能しました。


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