- 運営しているクリエイター
記事一覧
【創作大賞 2024】Dance 1話
◀前のお話
第1話 月のクレーターをとびこえる
夏の暑い日差しの中で、木々が強い光を遮る。
木漏れ日は階段に光と影のグラデーションを作る。木たちは協奏し、リズムを作り、階段に強弱のコントラストをもたらしている。そして、コンクリートの隙間から生えた草たちは先日の大雨続きのあとからみるみるうちに背丈を伸ばして主張している。
変わるものと変わらないものはただそのものとして日常に存在していて、移
さびしくならないサラダを探して<第一話>
屋上植物園のようになった<天神屋デパート>の屋上には、半円型の舞台があって、その前にはベンチがいくつか置かれている。それは3列並んでいて背もたれに描かれたペコちゃんマークはすでに錆びていて、すごく末枯れた風情を醸し出していた。
雨ざらしのせいか、さびさびでペコちゃんはもうペコ姐さんって感じで、傷だらけの舌をたらりと垂らしたまま、ずっと屋上のベンチの背もたれにいた。
わたしはここに居るペコちゃ
けたたましい心音 #1
校門から勢いよく転がりだす小学生の集団のなかを、ひとりで下校するのはとても心細いことだった。
明るくて楽しげで騒がしい声に「一緒に帰る友達もいない不人気者」だと苛まれながら、制帽の伸びきったゴムを噛みしめ、地面ばかりを睨んで歩く。
ありふれた、だけど毎日繰り返されるその苦行は、気づかぬうちに蓄積していた小石のように、彼女の心の奥底にころりごろりと溜まっていた。
校門からちょうど電
ミステリー小説「創作代償」
あらすじ
「父を殺してください」という殺人の依頼を受け「必ず納得される方法にてお父さんを殺すことを誓います」とその日のうちに快諾する主人公。言葉の裏に隠された依頼人の心から望む殺害を遂行するため、物語は途中14篇の短編小説を挟むこととなる。短編小説を読み終えた後、主人公が仕掛けた驚くべき殺人方法が明らかとなる。
1.父を殺してください
父を殺してください、と約2ヵ月ぶりとなる門掛夕希
さよなら炒飯!一皿目
その店だけ時給が飛びぬけて高かった。
二十八歳で職を失い、とりあえず金を稼がなくてはならない。口座にある数字をかきあつめても家賃二ヶ月分。ファミレスでメニューを選ぶのに躊躇する。実家はそこまで太くない。
転職でステップアップを目指すところだが、正社員ってやつがしんどい。責任、決断、上司、後輩、顧客。そんなもの考えたくない。
バイトを探す。実入りがよい肉体労働を考えたがキツイ事はしたくない。飲食店
プレジャー・ランドへようこそ_第1話
プロローグ
1
「うたた寝でも悪夢かよ」
ノキアは小さく独りごちて、舌打ちをした。
同じような家が建ち並ぶ住宅街の中に、山中ノキアの家はある。中学二年生のノキアは、生理痛を理由に部活をサボって早めに家に帰ってきていた。時刻は夕方の6時半。腹痛はすでに回復していたものの、なんのやる気も起きず、ノキアは制服の白いシャツとジャケットそしてスラックスを着たまま、ベットの上に横たわっていた。窓から
日本で一番小さな県で育まれる愛のサイズ【一話】【創作大賞用】
完読時間目安:50分
あらすじ
◇
去年の今頃は、まさかこんな状況になって桜を眺めているだなんて想像すらしていなかった。桜の満開を祝すかのように五年ぶりに開催される歌舞伎の旗が踊っている。
幸助が故郷の香川県琴平町に戻ってきたのは一年前のことだ。高校を卒業して以来の帰郷で、気づけば幸助は二十六歳になっていた。
◇ 春 4月
一年前のその日。
幸助はかつて祖父母とよく来ていた金比羅山の
夢と鰻とオムライス 第1話
◇
飛んできたのは五百円玉だった。
よりによって一番攻撃力の高そうな硬貨の側面が、俺の眉間に命中したのだ。
鋭い痛みが目頭から眼球の裏へと伝わり、泣きたくもないのにじわりと涙が滲んだ。
「いってぇ……」
俺は両手で目を覆い隠した。痛みのせいで勝手に湧いてきた涙をそれとなく拭って、顔を上げる。
「何すんだよ!」
渾身の力を込めて睨みつけると、ほんの一瞬だけ、兄はうろたえた表情を見せた。
それは、パクリではありません!【第1話】【全4話】
各話リンクはこちら
第2話
第3話
第4話
第1話
パクリなのか、それとも
チカチカした画面を、何度も食い入るように覗き込む。ブルーライトの光が瞬き、瞳の奥が痛い。瞼を、ぐいっと指で擦る。残像が霞み、スクリーンの輪郭が朧げになる。このまま、何もかも幻覚になり、いっそ消えてなくなればいいのに。
缶チューハイを持つ手が、カタカタと音を立てる。腕にしゅわっと泡が流れ、パチパチと音を立てた