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人に寄り添い、深く潜るような創造性を掬いあげる(メンバーインタビュー・猫田耳子)

本インタビュー企画では、ミミクリデザインのメンバーが持つ専門性やルーツに迫っていくとともに、弊社のコーポレートメッセージである「創造性の土壌を耕す」と普段の業務の結びつきについて、深堀りしていきます。

第10回は、ミミクリデザインでディレクター兼デザイナーとして活躍する猫田耳子( @mimicocco )です。グラフィックデザインからファシリテーション、ワークショップデザインと領域にとわられない多彩な働きを見せる猫田ですが、インタビューを通して、その背景には”人に寄り添う”ことを大切にする一貫した姿勢が見えてきました。また、「創造性とは何か?」という容易には答えの出ない深い問いに向き合う上で、示唆に富むお話も随所で展開されています。ぜひご覧ください。(聞き手:水波洸)

研究者たちとの交流を通して、徐々にデザインの道へ

猫田 インタビューされるの、めちゃくちゃ苦手なんですよね。

ーえ、そうなんですか?

猫田 自分の写真や発言がかっちょいい感じでネット上に残り続けることに抵抗があるんですよね...。なんというか、「バタフライ・エフェクト」ってあるじゃないですか。蝶の羽ばたき程度のわずかな気流の変化が、廻り廻って南半球で嵐を引き起こすこともある、ってやつ。わたしは多分、その最初の蝶の羽ばたきのようなことをしていたいんですよね。最終的に起こっている嵐が注目を集めることはあっても、起点となる蝶がいつ何処にいたかは誰も気にとめない。そんなふうに、あんまり顔とか名前とか残していきたくないんですよ。世の中に名を残す人になるというよりも、その人の周辺で何かができるような人でありたい、みたいな。そういう生き方が性に合ってるんだと思います。

ー現在猫田さんは、前職に引き続きデザイナーという肩書きでありながら、ワークショップのファシリテーションやプログラムデザインを担当するなど、マルチに活躍されている印象を受けます。デザイナーとして活動し始めるまでには、どういった経緯があったのでしょうか?

猫田 元々アーティストになりたかったんですよね。オノ・ヨーコが高校時代から好きで、彼女のようなインスタレーション作品やコンセプチュアルアートを扱うアーティストになりたかったんです。それで、ムサビ(武蔵野美術大学)の映像学科・メディアアートコースというところで学び始めて、空間を使ったインスタレーション作品の制作などのアート活動をやっていたのですが、もちろん食べていけず...。その時に、当時わたしが住んでいたシェアハウスの同居人たちから、「ムサビ出身ならデザインもできるでしょ」みたいな感じで、デザインの仕事を依頼されるようになったんですよね。

そんなふうに身近な知り合いからデザインの仕事を請け負っているうちに、冒頭で話したように、わたしは自分の言葉を残すことに抵抗のある人間で、それだと表現活動にはあまり向いてないかもしれない、と気がついて。どちらかというと、世の中に何かを伝えたい・届けたい誰かがいて、その人から話を聞きながら、編集やビジュアライズを通して、モノとして見えるかたちに落としていくほうが、自分にはよっぽど向いてるなと思い始めたことが、いろんな意味でスタートだったように思います。

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ー猫田さんは、ミミクリデザインCEOの安斎とは旧知の仲だと聞いています。

猫田 そうですね。シェアハウスの同居人に共通の知り合いがいて、安斎さんが修士2年くらいの時にはじめて会いました。7・8年ほど前でしょうか。思い返してみると、今わたしがミミクリデザインに入ったことには、安斎さんだけでなく当時の様々な出会いが影響しているのかもしれません。

ーどういうことでしょうか?

猫田 わたしは美大出身で、いわゆるアカデミック領域で行なわれる研究活動には、在学中、一切触れてこなかったんですよね。だけど、シェアハウスの人から仕事を受けるうちに、安斎さんや安斎さんの周りの研究職の人たちと交流することが増えてきたんです。研究の実践に伴走させてもらったり、デザイナーとして学会発表用のポスターのデザインを担当させてもらったり。中でも特に印象的だったエピソードとして、安斎さんの一つ先輩の池尻良平さん(現・東京大学大学院情報学環 特任講師)という方から、「論文に載せる図がうまく描けないからちょっと相談に乗ってよ」と言われて、友人として話を聞く機会がありました。たしか、歴史の教材に関する研究だったと思います。

それで、当時はインフォグラフィックがちょうど話題になり始めていた時期だったので、インフォグラフィックを活用すれば、研究で明らかになった知見を、専門家だけでなく世の中にも広く知らしめて、裾野を広げていけるのではないか、と提案してみたことがあったんですよね。そしたら池尻さんは「インフォグラフィックは、確かに今の世の中の人たちに広く伝えようと思ったら有効で、良い方法だと思う。でも、研究者が論文を書くのは、200年後・300年後の人たちにとって意義があるものを残そうとするからなんだよね。スマホやパソコンをインフォグラフィックで描いたとしても、後世の人たちにとってはわかりづらい図表になってしまうかもしれない。だから、丸や四角といった最大公約数的な記号で図を作る必要があるんだ」という話をしてくれたんです。それを聞いた時に、何百年後の人に向けて何かを作るだなんて、そんな時間軸でものづくりを考えたことがなかったから、ものすごく衝撃的だったんですよね。研究者はそんなふうに日々の時間の捉えているのか、と驚かされて。

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猫田 それで、その経験からある程度年月が経った今、前職のデザイン事務所もすごく好きだったんだけど、ミミクリデザインには研究しながら働いている人が何人もいて、そういう時間の捉え方もできる環境なのだろうと思ったことが、わたしがミミクリに入った大きな理由のひとつでもあります。自分がまだあやふやで、何者かもわからなかった時代に、研究者の人たちとたくさん会ってしゃべったり、時々研究に参加して論文を見せてもらったりしたのは、とても大きな経験だったな、と。

ある男の子の学びの過程から、「創造性の土壌を耕す」を体感した


ーこれまでミミクリデザインのメンバーとして担当してきたクライアント案件の中で、印象的だったものはありますか?

猫田 株式会社バンタンさんのスクールで「創造性開発プログラム」のカリキュラム設計と運営を担当した案件は、テーマとしてミミクリデザインが掲げている「創造性の土壌を耕す」とダイレクトに関連するものであったことと、わたし自身が「創造性の土壌を耕す」というのがどういうことなのか、具体的に体感できた気がして、印象的でした。

ー案件の概要を簡単にお話してもらっても良いでしょうか?

猫田 株式会社バンタンさんが運営するクリエイティブ系のスクールには、デザイナーやゲームプログラマー、パティシエ、美容など、いろんな専門職を目指すためのコースがあります。ただ、技術を教える授業は充実している一方で、その根源となる創造性の育成にもっと力を入れたほうがいいのではないか、という問題意識を抱えていたそうです。そうした経緯から、2017年にミミクリデザインに授業の設計と実施の依頼があって、私は2年目のスタートから関わり始めました。

ー「『創造性の土壌を耕す』というのがどういうことか体感できた気がした」というお話でしたが、どういった場面でそう感じたのでしょうか?

猫田 授業を通して見てきた、ある男の子の変化が印象的でした。その子は、元気だし、授業も真面目に出席するけれど、最初のアイデアは、それほど特別に目を引くものではありませんでした。それが、何がきっかけだったのか、授業を重ねていく毎にアイデアがどんどんアーティスティックな方向に発展していったんです。

ーどのようなアイデアだったのでしょうか?

猫田 「考える水」というタイトルの作品で、町の中に小さな泉を設置する、というものでした。その理由について彼は、「突然謎の泉が置かれていたら、町の人は違和感を抱きますよね。その違和感をきっかけに、何か考えることを起こさせたいんです」という話をしていて。

ー問題解決ではなく、問題提起のアイデアだった。

猫田 そうです、そうです。「『考える水』は、水が考えるんじゃなくて、あなたが考えるための水で、それを僕はデザインとして作り出したいんだ」という話でした。スクールの方針として、基本的にビジネスに結びつく力を育てたいという考え方がベースにあるから、そういう意味では今回のアイデアにあまり良い評価はつかなかったのですが、彼個人の学習に限っていえば大きな変化があったように見えたので、強く印象に残っていたんですよね。

それで、全授業を終えたあと、来年度の授業に向けて学生さんを3人選んでインタビューをさせてもらう機会をいただいたので、その中のひとりに彼を選ばせてもらったんです。どうしてそんな変化が生まれたのかを知りたくて。そしたら、インタビューを進めていくうちに、ある授業でわたしが「『ついやってしまう』体験のつくりかた」という元任天堂の企画担当者の方が書かれた本を、学生たちに紹介しようと思って教室に持っていった時の話になったんですよね。

その男の子は、わたしが紹介する前からすでにその本読んだことがあったみたいで、授業が始まる前に声を掛けてくれて。その時はただの雑談で終わったのですが、後々インタビューで聞いてみたら、今回の授業を受けるまで本なんて一切読んだことがなかったらしいんです。だけど授業を通してアイデアを出すということに興味を持ち始めて、たまたまその本の存在を知った時に、はじめて自分で本を買ったんですって。そしたらそれがきっかけで本を読むことの面白さに目覚めて、「今はまた別の本を読んでるんですよ」とインタビューでは話してくれて。他にも、「町中でこういう良いデザインがあって...」と自分で撮った写真を見せてくれたりして。

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ーすごい。

猫田 聞きながら、なんか、感動しちゃったんだよね。これまで読んだ本の中で印象に残った部分を聞いてみたら、これも任天堂について書かれたある書籍の中で紹介されていたエピソードだと思うんだけど、心拍数を測るためにからだに軽く電気を流す機械がすでにあって、それを任天堂が「相性占いができる機械」として売り出したそうなんですよね。そのアイデアの何が良かったのかと彼に聞いたら、「実際相性占いをするためには、自分がいて、好きな人がいて、自分と好きな人が手を繋がなくちゃいけない仕組みになっている」と。その上で、「元々は単に電気が出る機械でしかなかったのに、”相性占い”と言い換えることで、好きな人と手を繋げるアイデアに生まれ変わるのは、めっちゃ面白いし、おもちゃとしてすごく良いアイデアだと思う」と熱心に語ってくれて、わたしはそれを聞きながら、「あんた、それ、意味のイノベーション*の話してんじゃん!」と思って。今回の授業では意味のイノベーションなんて単語は一切出してないんですよ。それでも、本質的な部分はちゃんと学んでいるから、また感動しちゃって(笑)

*意味のイノベーション
ロベルト・ベルガンティ教授(ミラノ工科大学)が自著『突破するデザイン(原題: Overcrowded)』で提唱した、製品の機能ではなく感情や象徴としての「意味」を起点としたイノベーションを生み出すための方法論。「ユーザーへの共感ではなく、創り手個人の熟考から始めるプロセス」や「批判性を伴ったアプローチ」などが主な特徴として挙げられる。

ーそのような変化が起こった要因として、授業における猫田さん関わり方も少なからず影響しているのではないかと思いますが、ファシリテーターとして生徒と関わる上で、特に意識していたポイントは何かありますか?

猫田 意識していたというか、良くも悪くもそういう仕事のやり方しかできないというのもありますが、できる限りバイネームで接するように心がけていました。例えば、生徒たちから提示されたアイデアにフィードバックをする際には、そのアイデアが発想された背景には、どんな個人的なスタンスや思想があるのか、もっと言えば、これまでの授業での発言やベースとしている過去のアイデアが何か、ちゃんと見てあげた上でコメントを返すようにしていました。そうじゃないと、響くものにならないと思っているので...。通常の授業の時にも、必ず発表のときに自分の名前を全員に向けて言ってもらうようにして、まずは一人ひとりの名前を覚えるところから始めました。誰にも見せてないけど、学生シートみたいなのも作りましたね。

ーそういった相手の人となりを捉えながら関係性をつくろうとするスタンスは、冒頭で話してもらった、身近な人の手助けをするうちに、デザインに取り組むようになったというお話から一貫しているように感じます。

猫田 そうですね。でも、数回授業したくらいでわかった気になってしまうのもそれはそれで危険な気がするので、実は葛藤もあるんですけど。


「早くきれいな」創造性だけでなく、「深く潜る」創造性にも目を向ける


ーここからはミミクリデザインの内側の様子についてお話を伺っていこうと思います。現在猫田さんは「butaiユニット」に所属されていますが、まずは簡単にどういうユニットか、お話しいただいても良いですか?

猫田 「butai」というユニット名は、シェイクスピアの「この世は舞台、人はみな役者だ!」という名言を由来としていて、ユニットリーダーの和泉(裕之)くんが名付けたんですよね。で、その由来のとおりに、人材育成や組織開発などの人と関わるクライアント案件を中心に担当しているユニットでもあります。ほかのメンバーの特色としては、和泉くんが「舞台映えしそう!」と言っていたのをよく覚えていて、なんとなく、個性派な役者が揃っている感じがしますね。人間として個性的というよりも、舞台に立った時に、なんとなく目を引く存在というか。あとは、しっかりと役割分担が決まっているというよりも、それぞれファシリテーターとして自立している人たちが寄り集まっているような印象があります。

ー猫田さんは他のメンバーと比べてどのような特性があると自分では感じていますか?

猫田 臼井(隆志)さんや、(雨宮)澪さんは、例えるならお祭りで音頭を取るタイプなんですよね。いまコロナの影響で対面でのワークショップができない状況が続いていますが、そんな状況でもオンラインでできることは何か我先に実験して、可能性を探索して道を切り拓いていく世界を創っていくタイプなのだとしたら、わたしはどちらかというとある程度作られた世界の外れの方でどうやったら楽しく遊べるかを考えているタイプというか。冒頭でも話したように、わたしは世間に向けて表立って主張したいメッセージがそんなにあるわけではないから、そういう立ち位置を選びがちなのかもしれないですね。

ー先日行なわれたミミクリデザインの全社会では、猫田さんが「もう少し、社内における創造性の認識の幅を広げていきたい」というお話をされていたシーンがありました。そのトピックについて詳しくお伺いしてもよろしいでしょうか?

猫田 全社会の直前に、「ポコラート全国公募」という公募展を見に行ったんですよね。そして、その中に「Negative capability -くつろいでいられる能力- 」というタイトルの作品があって。どういう作品かというと、重度の自閉性障がいを抱えたある男性に関する記録の展示で、その人は身の回りのこともできないし、言語も不十分なのだけれど、唯一好きな行為が、古いカセットテープをいじることで、ケースから出し入れしたり、長い紐を括り付けて、垂らして、回して、それをじっと見ていたりを何十年も延々繰り返しているんです。また、支援者の人たちの話では、たまに彼がカセットテープをいじる行為を他の人にさせて、その様子をそばでずっと眺めていることがあるそうなんですね。

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猫田 展示では、彼が過ごしている様子と、支援者の人たちに対するインタビューを映した映像が流れていたのですが、支援者の方は、その行為を彼なりのコミュニケーションの方法として捉えていました。人と何かしらで関わろうとする術のひとつなのではないか、と。そして、特に印象的だったのが、「世の中のすべての人が、生きる上で言葉の海を泳いでいるとしたら、障がいを抱えた彼は、他の人みたいに早くきれいに泳ぐことは決してできない。その代わり、すごく深く潜ることはできるのではないか。私たちも、彼らが深く潜ることにできる限り付き合いたいんだけど、どうしても途中で息が切れてしまう。でも、彼らは、普段は深く潜ることで、たまに水面に顔を出して、誰も知らない宝物を持って帰ってきたりするんですよ」と、そのような趣旨のお話をされていたんです。

それを聞いた時に、あくまでわたし個人の印象ですが、ミミクリの中で語られている創造性は、まだ「いかに早くきれいに泳ぐか」というところにしか焦点が当たっていないような気がしたんです。早くきれいに泳ぐだけでなく、深く潜るような創造性も大事で、お互いを活かし合うために何ができるか、というところで思うところがあって、全社会では「創造性の認識の幅を狭めないようにしたいですね」という話をしました。小綺麗な締め方をするとしたら、そういった合理的ではないかもしれないけれど大事な部分もちゃんと見つめていけるような、自分であり、ユニットであり、組織であってほしいとは思いますね。

ーありがとうございました!

猫田 ありがとうございました。

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ーTwitterでは熱心なベイスターズファンとして知られていますが、どういうきっかけで興味を持ったんですか?

猫田 ベイスターズの元社長が書いてた、スポーツマネジメント・スポーツビジネスに関する本を読んで、面白いことやってるなと思って、ハマスタに実際に野球を見に行ったんですよね。そこから気づいたらファンになってました。Twitterだとただの野球オタクにしか見えてないと思うけど、もともと興味を持ったきっかけはそこなんですよ。「負けてもまたスタジアムに来たくなるデザイン」としてどういう工夫をしてるか、とか。今のミミクリの事業とも関連する話としては、組織開発の取り組みも、ベイスターズはずっとやってきたので。めちゃくちゃおもしろいんですよ。実は。インタビューでは話してないけど。そういう話ができればよかった!スポーツ案件、やりたいです!(笑)

▼プロフィール
猫田 耳子/ Mimico Necota(ミミクリデザイン ディレクター/デザイナー)
twitter: @mimicocco

好きだなあと思うひとたちの叶えたい夢や作りたい未来への力になりたいなと思っています。そんな感じでミミクリにいます。

ミミクリデザインホームページでは、過去のクライアント案件の事例が多数公開されているほか、「ワークショップデザイン・ファシリテーション実践ガイド」を無料配布中。ワークショップの基本から活用する意義、プログラムデザインやファシリテーションのテクニック、企業や地域の課題解決に導入するためのポイントや注意点について、最新の活用事例と研究知見に基づいて解説しています。

また、現在ミミクリデザインでは、以下の記事から新たなメンバーを募集しています。興味のある方は詳細をご確認のうえ、お気軽にお申し込みください。

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執筆・水波 洸
イラスト・猫田 耳子
インタビュー協力・田幡 祐斤
カバー写真(出演)・田幡グリちゃん

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