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夜の帳(とばり)の向こうへ 〜THE BOOM「中央線」

その夜、僕は中央線に乗っていた。

車窓を眺める顔は明らかに落ち着きがなく、
目的地の阿佐ヶ谷を降りるや否や、思わず駆けてゆき、 
何度も通った友人のアパートにたどり着いた。
その名を呼んでも返答はなく、
僕は何度も扉を叩いていた。
しかし、
それは開くことがなかった。


THE BOOMの「中央線」を聴くたびに、
扉の向こうに居た友人が決してノブを回すことなく、
それ以降もずっと押し黙り、
僕を赦さなかったことを、
深い後悔とともに思い出してしまう。


THE BOOM「中央線」は、
恋人に宛てられたラブソングとして受け止められているのだろうか。

この宮沢和史の詞を読むにつけ、
ここに出てくる「君」は、既にこの世にはいない存在なのではないか
と考える時がある。
1992年に発表された矢野顕子「SUPER FOLK SONGS」にあるこの曲のカバーを聴いた時、僕は強くそれを感じていた。

『今頃君は/流れ星くだいて
湯舟に浮かべて/僕を待っている』

「銀河鉄道の夜」のようなイメージを彷彿させ、
流れ星にある死の暗喩を感じる。

そして
『猫を探しに出たまま/もう二度と君は帰ってこなかった』

たとえこの世にはいない存在だったとしても、
この歌は、その君の幸せを思っている。
そして歌い人も、悲しみに覆われた暗い帳を抜けて先を進もう、と。

『走り出せ 中央線/夜を越え 僕を乗せて』


あの時から5年経った日比谷野音。
僕はTHE BOOMのライブにいた。

既に行方も掴めなくなったその友人
彼のことを想いながら、
僕は何度も何度も歌詞を呟いていた。



THE BOOM、宮沢和史さんには本当に申し訳ない話なのだけど、
矢野顕子の「中央線」は歌詞の奥にある感情を次々と引き出していく見事なカバーで、いつ聴いても心揺さぶれる。いわゆる名曲の名カバー。


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