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パーパスに責任を持つ覚悟はあるか?

FICCの森さんと中川政七商店の緒方さんのAW(アドバタイジングウィーク)2020のトークセッション。緒方さんはビジョンファースト経営、中堅企業のデジタル変革をガンガン進めている同世代として個人的に刺激を受けている方なので楽しみにしていたセッション。

図2

今回はFICCの伊藤さんからのご招待で拝聴しました。(10月31日でまではアーカイブで視聴可能です)

アドバタイジング ウィークとは、2004年より、「トライベッカ映画祭のように '広告'を社会にアピールしよう!」と、ニューヨーク、ロンドンをはじめ世界各地で開催されている世界最大級のマーケティング&コミュニケーションイベント。アジア版は2017年から東京で開催されています。

今年のAW2020は世界中でライブ配信されるバーチャル・イベント。マーケティング、メディア、テクノロジー、クリエイティブを横断する形で開催されています。

今回のセッションは物事の捉え方、考え方なので即実践できる内容ではないですが、事業の責任者、そしてブランド担当者にはささる内容でした。

ブランディングやマーケティングに関わっていると、パーパス/ミッション/ビジョン/バリューなど日常ではあまり耳にしない言葉が出てきます。「パーパス」とは、社会的な存在意義を指します。「ミッション」「ビジョン」が個人や組織としてのありたい姿であるとすると「パーパス」は社外の視点であります。

過去に緒方さんが2019年に書いたビジョンファースト経営のnoteでも「パーパス」に触れられていましたが、WHYの元に、自己実現、利益追求、社会貢献を成り立たせるものとして、パーパスは企業経営とつながっていると感じます。


○登壇されるお2人の所属企業について

中川政七商店さんは創業300年を超える老舗企業。もともとは反物を卸す事業が中心だったそうですが、”価値に対して適正な報酬が払われていない”と危機感を持ちSPA形式(製造小売業)へ業態を転換。この20年で売上は数倍となり、60億を超えるまでになった企業です。2015年度 にはポーター賞を受賞。中川政七商店さんの企業の詳細は下記のサイトを参照。

ご登壇の緒方さんは、もともと東急ハンズでバイヤー、VMDを経て、ECサイト運用、デジタルマーケティング・ソーシャルメディアの立ち上げなどを行ったのち、16年に中川政七商店に入社。ウェブ/デジタル領域、店舗・卸事業を担当。現在は取締役として各方面でご活躍中です。数回お会いしましたが、「冷静と情熱のあいだ」という言葉がぴったりなナイスな紳士です。


セッションのお相手はFICCの森さん

FICCは”パーパスと人の可能性でイノベーションを起こし、社会価値と経済価値を創造する”ブランドマーケティングエージェンシー。

代表の森さんは、アメリカの大学・大学院で、リベラルアーツの学びや専門分野との学際的な学びを経験し、ボストンの広告会社に勤務。2005年に帰国しFICCに入社。デザイナー、プロデューサー、取締役を経て、2019年に代表取締役に就任したそうです。


本セッションでは、昨今のマーケティングイベントで多い印象のツールやノウハウの話ではなく、ビジョンと事業モデルに触れていたのが印象的でした。

ビジョンは何か? 自分たちはどう生きるか? 企業経営においてこの問いへの重要性は高まってきています。その背景について緒方さんは、

購買=投票行動と同義です。今、価格、便益だけでは購買が起きない時代になってきている。好感を得て、共感を積み上げ、信頼を勝ち取る。私たちはどう生きるか? それがブランディングである。私たちのビジョン”日本の工芸を元気にする”これは、業界全体を指している。日本の工芸品の総流通量がKGI。自社SPAの売上はKPI。中川政七商店は右肩上がりだが、工芸品業界は右肩下がり。特別なことをしてきたわけではないが、まともに経営してきたノウハウは自社だけではなく、業界にも通用するはず。その使命感が危機感となって意義となり、”日本の工芸を元気にする”というビジョンが生まれました。

一人で早くに行くのではなく、みんなで遠くに行く。そのためになんでもやる。SPAからコンサル事業から営業代行までなんでもやる

と話していました。なぜ企業がパーパス(社会的な存在意義)を大切にするのか? をテーマとすると環境保全や地球規模の話が出てくるケースが多い。俯瞰的な視点は重要なことなのだが、僕らが普段生活し、仕事している中ではちょっと遠い世界に感じてしまう。

緒方さんが言うパーパスは「中川政七商店が関わる関係各位みんな」に視点を置き、価値が循環していく活動が社会での存在意義につながると信念を持っている。目の前の人を救えなければ、社会という広い場所でも価値を作れないという覚悟を感じました。


また、FICC森さんは、パーパスについて以下のように語っている。

パーパスとプロフィット(利益)の両立が重要である。ビジョンがブランドの存在意義である。ブランドとマーケティングを分けて考えることが多いが、社会や生活者に意味のあるブランドこそがマーケティングにおける最重要資源であり、結果、株主資本利益率(ROE)が高い経営が成り立つ。FICCではこれをブランドマーケティングと称している。

森さんがおっしゃるように、ブランディングとマーケティングは相反するものはなく、生活者や社会にとって存在意義があるものとしてブランドを磨くことこそがマーケティング活動における資源になると思う。短期的な売上にはつながるがブランド棄損につながりそうな施策やコミュニケーションをたまに見るが、その違和感はブランドのビジョンと行動の不一致が大きい。


また、パーパスとプロフィットの両立について緒方さんは、以下のように言及している。

企業は利益を出し、社会に貢献し、その上で自己実現を担っている。会社は法人と評され、人格を持っている。マズローの5段階を法人に置き換えると、利益追求→社会貢献→自己実現となる。この3つが重なり合っている部分にピンを打つ=これがビジョンである。覚悟のないビジョン、パーパスは戯言。コロナの影響があっても。ビジョンやスタンスは変わらない。WHYは変わらない。元ある約束を守る。HOW・WHATは環境によって変わっていく。

サイモンシネティックのWHYから始まる話と同様に、中川政七商店で「WHYを達成したい/HOWは死に物狂い/WHATは何でもやる」になる。
中川政七商店もSPA事業の立ち上げの時のWHYと今のWHYは異なる。ビジョンは自己実現、利益追求、社会貢献につながる。その結果、唯一無二の独自な形となった。またビジョンがしっかりしていると、企業文化のアップデートが可能になる。日本の伝統工芸のためにはなんでもやるんだ。ここからアグレッシブな判断ができる。300年の企業だたスタートアップ的なカルチャーが生まれる。とにかく強いWHYが大事。

ビジョンやカルチャーの会話をすると、「ビジョンで飯が食えるのか?」と横やりが入るのを見かける。緒方さんが語るビジョンやカルチャーは、建前の言葉ではなく覚悟を持ったビジネスの旗印だった。ビジョンを達成できないと、自分たちはなくなってしまうという危機感からくる強い想い。これが言語化されているからこそ、芯を食うのだと思う。


FICC森さんが投げかけた”パーパスは資源を調達し、マーケットを創造する”というテーマに対して緒方さんはこう続ける。

強いWHY、ビジョンがあると、そのビジョンへの共感は顧客にとっては投票行動につながる。顧客とメーカーは自分と他者という関係ではなく、共同戦線になる。(中川政七商店が)コンサル先のパートナーブランドからするとともに戦う旗印になる。これがコミュニティの資源となる。みんなで共通の目的、価値観をもつことで企業と顧客、企業と企業、2つの関係性が変わる。

好感→共感→信頼を積み上げ、ビジョンに共感した顧客とパートナーブランドが集まる場、それが合同展示会「大日本市」だそうです。

この出店小売店向けサイトも良い。熱量が伝わる。

最後に森さんから”パーパス起点でのイノベーションを人と共に起こす”というキーワードについて、投げかけがあった。この問いに対して、緒方さんは下記のようにまとめていた。

強いWHYにより源泉となり、企業文化が変化し、共闘者が増えていく。これはイノベーションの結果であり、きっかけになる。事業成長の知見、変化に強い強靭な企業文化、自社だけでなく、ともに戦う仲間や支持してくれるお客さま、掛け算を前提としたHOW、WHAT。つまり、イノベーションは知識×文化×コミュニティにシナジーをどうかけるか?の産物なんだと思う。


ビジョン、WHYは北極星。会社が目指すべきあの星だ
その星が定まっていないと正しく進まない、考えることが出来ない。
自分たちが何者であって、どこを目指すのか? をしっかりかためること。

本日のダイジェストスライドは以下の通り。

図1



約30分のセッションだったが、とても示唆深かった。中川政七商店が実践しているのはまさに「ビジョンファースト経営」であり、社会から求められる企業であり続けるには? この問いに真摯に向き合ってきた
だからこそ、

図2

このシンプルな強いビジョンを示せているのだと思う。



世の中に新しいトレンドが生まれ、環境は目まぐるしく変化していく。特に今年は変化の大きい一年だった。しかし、この環境下でも継続して支持され伸長していく企業は、ビジョンと行動に一貫性があり、企業文化から提供される商品(サービス)が顧客に支持され、そこから生まれる健全な利益が企業の投資へと周り、さらに強固な行動と商品が生まれる・・・これが循環していくことが重要である。

テキストや図で書くとシンプルで簡易に見えるが、忍耐強く変化する市場環境に合わせて進化していくことは舵取りの難しい決断の連続だと思う。まさに「継承と転換」が重要である。視聴後に自社の環境を考えさせられるように、FICC森さんと中川政七商店緒方さんのセッションはとても刺激的でした。



✂✂✂✂✂✂ おまけ ✂✂✂✂✂✂



ここまで硬めにイベントレポートを書いたので少しゆるめの感想を。

緒方さんの話を直接聞くことが何回かあったり、インタビューも良く拝見しているのですが、緒方さんの凄さは(緒方さんらしく)「言語化」することです。あんまり分析すると本人から嫌がられそうなので控えめにしときますが、例えば今回のセッションでも「好感→共感→信頼」、「使命感が危機感となって意義となる」など日本刀で居合切りをするような切れ味鋭い言葉が大人男子には刺さるわけです。佇まいがほぼサムライ。

最近思うのですが、人に伝える力とは思考の深さや行動した経験値があるのは前提として、"短文での表現力"と"メタファー(たとえ)の能力"と思います。この力を磨くには、緒方さんご本人に聞いてみるしかないですね。もしかしたら、昔ラッパーだったとか、学生時代は小説を書いていたとか……予想しないバックグラウンドがあったのかもしれません。

ちなみに、僕が考える”短文での表現力”と”メタファーの能力”を高めるには、書籍や映画で好きなセリフを暗記できるくらい繰り返し自分の言葉の引き出しを増やすか、Twitterでメタファーなツイートをしてみることでしょうか。


閑話休題


このイベントレポートをお読みいただいた、マーケティングに関わる方、ブランドの中の人、事業を立ち上げてる方には、ぜひ、自社のビジョンが

「この企業・ブランドには残り続けて欲しい、その旗のもとに集いたいと思える形で言語化されているか?」 

自分たちが何者であって、どこを目指すのか?」

に向き合ってみる時間をつくってみると良いと感じます。変化が多かった2020年。そんな自分の置かれている環境を振り返る時間を僕も取りたいと思います。

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