【連載小説】 オレンジロード12
母は台所で、夕飯の支度をしていた。
その丸い背中に近づき、僕は声をかけた。
「母さん、僕の自転車の鍵の番号を知っていたよね?」
母は包丁を持つ手を休め、やや疲れ気味の表情に笑みを浮かべた。
「忘れろといっても、忘れられないわよ」
鍵の番号は「二三一六」だ。
その番号になったのは偶然でしかなく、買ったときからその番号だった。
記憶法の一つにゴロ合わせがある。
社会の年表なんかでよく使うやつだ。大学進学を希望している僕も、ゴロ合わせにはお世話になっている。だから鍵の番号にもゴロ