ママみたいなwebライターになりたい!「お仕事擬似体験学習のできる小学校」があったなら
【あらすじ】
時は、2030年。世の中は、AIとロボットに支配されていた。ロボット時代に当たり前のように過ごす娘「アリサ」は、母親の仕事「webライター」に興味を持つようになる。
その一方で、アリサは母親との「価値観」の違いに対し、次第に疑問を持つように……。
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時は、2030年。
回転寿司、ファミリーレストラン、コンビニの店員などなど、どこに行ってもロボットばかり。
ママは、そんな光景を見るたびに「昔はね、人間が全てこの仕事を引き受けていたんだよ」と呟く。
「へぇ、支払いなんて携帯でピッとやれば済むし、食べ物運ぶのだってロボットの方が便利じゃん。ってことは、つまりいい時代になったってことだよね?」
「うーん。でもね、アリサ。今は今で便利かもしれないけど、それはそれで寂しいものもあるわね」と、ママはいつも少し寂しそうに答える。
私の通う学校では、今やタブレット授業が基本だ。先生が問題を出すと、生徒たちはタブレットを通じて答えを書いていく。
また、先生のタブレットには生徒全員の答えが閲覧できるようになっている。
そこで答えを間違えた生徒には、先生がタブレットを通じて指導をする。そのため、他の生徒達には答えを間違えたことがバレずに済む。
テストも、全てタブレット上で行われる。
テスト結果は、全て自分のタブレット上にデータが送られてくるようになっているため、他の生徒達に自分の出来不出来がバレることもない。
ママの時代は、なんと答案用紙が名指しで配られていたそうだ。まったく、プライパシーも何もあったもんじゃない。
「もし私がそんな時代に生まれていたら、テストが返ってくる度に恥ずかしくて恥ずかしくて!穴があったら入りたいって思うかも!」と私が言うと、
ママは「でもね、それはそれでいいところもあって。他の子に点数がバレる分、ママは恥をかかないようにと勉強頑張っていたからね。
もし、ママが今の学校に通っていたら、そんなに勉強頑張らなかったかもしれないし……」と答えた。
ふぅん。
ママは昔、自分が恥をかかないようにという思いで勉強してたのかしら。なんて寂しいことを言うんだろう、と思った。
勉強って、そもそも自分の夢を叶えるため、やりたいことをするためにするものだと思うのに。
私たちの学校では、1年生のうちからお店屋さん、会社ごっこなどなど、興味を持つ仕事について、それぞれクラスのみんなで小さな会社を作って「お仕事」の擬似体験をするところからスタートする。
仕事は、自分が「なりたい!」とその時思ったものを自由に決めることができる。
なお、私のクラスで人気のあった職業は「プログラマー」「YouTuber」「ファッションブランド通販」「心理カウンセラー」「社長」などなど。
みんなが希望の職業を口にするたび、先生は「昔は、ケーキ屋さんとか。アイドルとか、野球選手とかが人気あったんだけどねぇ。今の子は、なかなか合理的だわ」とぽつりと呟く。
私は小さい頃からママの働く姿を見ていたので、同じように「webライターになりたい」と思っていた。
ところが、ママに相談するといつも「昔は良い時代だったけど、今は厳しい時代になったから辞めた方がいい」と反対される。
「なんで?私もママみたいに、パソコンカチャカチャしたり、誰かとオンライン打ち合わせとかやってみたいよ!」と言えば「あのね、こういうのは先駆者が有利な世界だから」と一言。
「せんくしゃってなあに?」とママに尋ねると、淡々とした口調でこう答えた。
「せんくしゃって言うのはね、つまり早くやったもん勝ちってこと。
ネットの世界は流れも早いし、常に情報を追い続けないと行き遅れてしまう。
ずっとずっと学び続けないといけないし、辞めたらそこで終了。
そんな世界に入っても、あなたは苦労するだけだから辞めた方がいいよ。
これから何かをスタートするなら、まだ誰も手をつけてないものの中から、あなたがやりたいものを見つけることが大切なんじゃない?」
「へぇ。厳しいんだね。でも、私どうしてもやってみたいんだ。だってママ、仕事楽しそうなんだもの」
私が答えると「じゃあ、とりあえずやってみたら」と、ママはぶっきらぼうに答えた。私が一度決めたら、何を言っても聞かないことをママはよく知っている。
私は、先生に「webライターやってみたいです」と伝えた。
すると先生は「ライターか……」と言って、渋い顔をした。
「ライター、今の時代はやっぱり厳しいのですか?」
「うーん。今は、AI化も進んでいるし、打ち込み系の仕事もほとんどないからね。
だから、他にライターを希望している生徒はいないよ。それでもいいの?」
私は、「それでもいいです」と答えた。
すると、隣の席の吉村君が「おい、お前ライターやるんだって?僕の会社で働かない?」と誘ってきた。吉村君の希望する職業は、IT社長だ。
「うーん。吉村君の会社は、どんなことやってるの?」
「ユーザーが自由にシナリオを作ったり、アバターを作ったりしてドラマを制作できるアプリを作るんだ。
そして、ドラマのPVに合わせてユーザーにポイントが課金される。お前には、ユーザーが作ったドラマの宣伝記事を書いて欲しいかな」と、得意気な顔をしながら話してきた。
正直、吉村君の俺様気質な性格が苦手だし、どことなくいいように人をパシリにしそうな面も嫌だったものの「まぁいいけど」と言って引き受けることにした。
もし少しでも吉村君の会社が合わないと思えば、すぐに辞めたらいいだけの話。
そう、これはあくまで学校でのバーチャル体験なのだから。たくさん経験して、失敗を積んだ方が将来に役立つはず。
吉村くんは「わぁ、やったぁ!やっと俺の社員ふえたぞ!」と両手を挙げてキャッキャと喜んだ。
なお、いくら小学生のバーチャル会社ごっことはいえ、それぞれの仕事に対して本職の方がタブレットを通じオンライン講師をしてくれるため、授業は本格的だ。
もちろん、少しでも「これは違う」と思ったら職業をすぐに変更できる。
小さいうちから色んな仕事を体験した上で、自分がやりたいことを少しずつ決めていくのだ。
この学校では「自分の道は、早く決めれば決めるほど目標に向かって努力できる時間が増える」がモットー。
ただし、隣町の学校からは「あまりにも合理的すぎる!」と反対の声もあったみたい。
だけど私は、世の中に色んな仕事があることを小さいうちから知れたし、自分の道を早いうちから定められたので良かったと思っている。
これから、私は一体いくつ「やりたいこと」を見つけるのだろう。夢を叶えるのだろうか。
もしかすると、あれこれ体験学習したとしても挫折、絶望を感じたりするのかもしれない。夢を叶えるどころか、夢を持つことすら辛くなる日が訪れるかもしれない。
それでも、希望を持って前に進んでいく。立ち止まったら、その分時間を失うだけ。
ママは「疲れた時は、立ち止まってゆっくり休んでいいんだよ。今の教育はどんどん進化していくから、疲れることもあるでしょうし」と言うが、私たちの周りは新しい学びを取り入れるのが楽しくて楽しくて仕方ない連中ばかり。
「疲れや不安よりも、どんどん学びたい、吸収したいというワクワクした気持ちの方が勝ってしまうの」とママに伝えると、
「へぇ。若さって、いいね。やっぱり。歳になると、吸収したい。学びたいと思っても、脳や体がついてこない。すぐに疲れるし、休みたいと思ってしまうようになるから。
エネルギッシュなうちに、やりたいことを思う存分やるといいんじゃない?」と、ママはニコッと笑って答えた。
私は10歳。ママは41歳で私を産んだから、今は51歳。クラスメイトの中でも、ママは確かに高齢だ。
でも、いつも好きな仕事を楽しそうに取り組んでて、生き生きしてる。他のお母さんより、正直若く見える時もある。それでも、やはり年齢には逆らえないのかもしれない。
最近のママは、パソコン作業を数時間した後に「疲れたから横になるわね」と言うことが増えた。
まだまだだいぶ先になるけど、私も歳をとったらあんな風になるのかな。
そう思ったら、今のうちにやりたいことを思う存分やろう。ママの歳になってから後悔しないためにも、と思うようになった。
さてと。今日は、吉村くんからもらったドラマ紹介記事の宿題を頑張るかぁ。
ランドセルから資料を取り出した私は、いそいそと机に向かって作業を始めた。
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